◇7 ティーファス王国
これから向かう国はティーファス王国。今いたパラウェス帝国とは隣接していない、隣国の一つ向こうに位置する国だ。もっと遠い国に、とも思ったけど、それはちょっと俺の腹が持たない。だから取り敢えずってところだ。
「あ、ちょっと待って」
『何だ』
これから飛び立とうとしているアグスティンに待ったをかけた。
昨日はアグスティンに乗せてもらった時近くの鱗のところを必死につかんで振り落とされないよう頑張ったけど、次はそんな思いはしたくない。どっか安全にアグスティンの上に乗れる場所は……
「あ、ここがいっか」
真っ直ぐに角みたいなのが縦に並んで生えてる。その間にまたがって座って前の角に掴んで後ろのを背凭れにしてみた。いいじゃん、これ。丁度いい感じ。
「あとは、【全域バリア】」
昨日使った、風抵抗対策のバリア。でも、今回は俺を中心とした半径1mくらいの大きさにした。落ちたら嫌だし。
じゃあよろしく! とアグスティンにお願いした。でもやっぱりいきなり動くからちょっとビビるっちゃビビる。
『行くぞ』
「え……うわぁぁぁぁぁあぁぁぁぁ~!?」
いきなり上に登っていくアグスティン。もう目の前の角にしがみつくしかなかった。マジで、必死に。
やっと縦から横に変わり、ちょっとだけ気が抜けてホッとした。
「はぁぁぁぁ」
マジで落とされるんじゃないかって思った。誰かここにシートベルトを付けてくれ。俺の安全の為に。
あれ。ちょっと首元キツイなって思ったら、小さいトロワとバリスが服の中に入っていて。お前達も振り落とされなかったみたいで良かった。自分の事だけで精いっぱいだったけど。
「……わぁ」
何とか慣れると、周りの景色を見る余裕が出来てきた。姿を消す【陰身魔法】をかけてるから空飛ぶドラゴンを目撃される事はない為安心していられるから余計か。それに、バリアをかけてるから風の抵抗も全くないし。
昨日見つけた水晶の世界地図を出してみたが、今いる現在地が少しずつ動いている。まぁドラゴンに乗って移動してるんだから当たり前か。
「ティーファス王国の入口手前で降りるか」
『入らないの?』
「一応入国履歴とかって必要かもしんないし」
あ、でもまた身分証が必要になってくるのか。パラウェス帝国ではやらかしたけど、でもそれは俺がその国の皇子だったからなわけで。顔もあの皇帝と似てたし。顔も名前も変えたから大丈夫っしょ。……たぶん。
まぁもしダメだったら逃げればいっか。
「こーゆーのが異世界の
地球には、現実にはドラゴンもカーバンクルもウンディーネもいなかった。スキルなんてものもなかった。空を飛ぶなんて飛行機とかヘリとかに乗らないと無理だったし。だからドラゴンの背に乗って空を飛ぶだなんて、普通じゃあり得ない。
俺は本当に異世界に来たんだって再確認させられてる気分だ。
「あ、あれかな」
下を覗くと防壁のようなものが見えた。あれを超えるとティーファス王国って事か。じゃあ入口はっと。あ、あそこに人が見えるな。
俺はアグスティンに声をかけて入口よりちょっと遠めの所に着地。陰身魔法を解いた。
召喚魔法を解除するか? と聞いたけど絶対に嫌だと断られた為、アグスティンには小さくなって貰い、そして三匹に陰身魔法をかけた。
この世界で精霊ってどんな位置づけなのか分からないからなぁ。用心するに越したことはない。
てか、肩に乗られちゃったけど、結構お前達重いな。重いって言ったらレディに何てこと言うのよってトロワに言われそうだから黙っとこ。
「……あれ」
パラウェス帝国の首都に入った時と同じように、色々な格好の人達が一列に並んでいる。動物の耳とか付いてる人もちらほら。
だけど、その列から少し離れた所に、シートを敷いて座る親子がいた。物売りか? いくつか物が並べられてる。
「誰か、ポーションはいかがですか!」
「いかがですか~!」
ネコ耳のお母さんと、小学生くらいの姉妹二人の三人か。こんな所で物売りだなんて、帝都にはいなかったな。
「おっお兄さん!」
「え」
「ポーション、いりませんか!」
姉妹の内の一人に駆け寄られてしまった。と言っても、ポーションは無限倉庫にいっぱい入ってるんだよなぁ。どんなものなのかすら把握してないし。こんな事ならもっと見ておくんだった。
「あのね、あのね、これ売らないと入れないの」
「入れない? あぁ、通行料?」
コクコク頷く女の子。こっち! と手を掴んで引っ張ってきた。母親の所に連れて行くつもりのようだ。
売ってお金を稼がないと入れないとなると、三人が入れる通行料の金額が稼げるまでずっとここにいなきゃならない。でも、ここに並んでる人達は見向きもしないでいる。
「お兄さん!」
「あっこら!」
俺の事を強引に連れて来たって気付いたらしい、母親が俺に謝ってきた。
「すみません、ウチの子が……」
「あ、いえ、お気になさらず。それにちょうどポーションを切らしていたものですから、王国で買おうと思っていたのでちょうど良かったです」
「えっ……」
______________
名前:HP回復ポーション
種類:回復アイテム
ランク:C
服用する事によってHPが回復する。
一度服用すると次に服用できるまでのクールタイムが発生する。
クールタイム:10秒
______________
へぇ、ポーション類はちゃんと説明を見たことなかったけど、クールタイムとかあるんだ。知らなかった。
よく知らないけど、HPはなくなると死んじゃう可能性がある。だからあったほうがいいアイテムではある。
と言っても、無限倉庫の中に入ってるし、そもそも俺にポーション類は必要ないんだけど、何というか情が湧いたというか。こんな所に女性一人と女の子二人でいるだなんて危ないだろうし。
「もしよければ、これ全部買い取らせてください」
「えっ……!? ぜ、全部、よろしいのですか!?」
お金はたんまりあるし、全部の金額を計算しても俺にとっては雀の涙ほどだ。だからさして気にするほどではない。
「そ、その、全部となると、15万Gになりますが……本当に、全部でよろしいのですか?」
「これで」
「あ……」
俺の出したコインを一枚一枚数えて、そしてちょうどですと答えたが、何だか申し訳なさそうな顔を浮かべていた。てか、それよりここで使えるお金が
「ありがと! お兄さん!」
「いーえ、こちらこそ」
お金の種類を教えてくださってありがとうございます。
「お兄さん、一緒に並ぼ!」
「こーら、お兄さんは忙しいんだから。ごめんなさい、引き留めてしまって」
「別に構いませんよ、よろしければ一緒に並びませんか」
「そ、そうですか?」
荷物を片付けてる母親は、持っていたバッグの中にシートなどを入れていた。という事は、平民達も無限倉庫などの亜空間収納は出来ないという事。この親子と少しの時間でも一緒にいれば何かこの世界の常識などが分かるかもしれない。
自己紹介をしてくれたけれど、やっぱり普通の人はファミリーネームはないみたいだ。
色々と話をしたけれど、思わぬことか三人はパラウェス帝国にいたのだとか。
「皇帝陛下が代わられてから、人間以外の種族は国に治める税金が増税となってしまって。なので国を出たのですが、国を出る時の金額も高額になってしまっていて……なので、知人のいるこの国に来たのですが、ここに来るまでに貯金が底をついてしまって……」
おいおい、なんて馬鹿な事をしてくれちゃってるんだよアイツ。人間以外の種族を国から追い出す気? しかも取れる金は取るってか。
帝都に入る時だって、人間で2万Gだったけど、他種族は一体どれくらい高額になっているのやら。しかも、国外に出る時っていくらなんだか分からないけどきっと高かったんだろうな。ひでぇ事すんな。
これ聞いちゃうと、あの国から出て正解だったなって思う。でも、人間の通行料でも値上げするって事は、それだけ今お金が必要って事だよな? 一体何がしたいんだか。
こーゆーのは関わらないで遠くに逃げるに限るな。さっさと行く国選んで行こ。
「次、身分証と9千G」
そう、大男の猫耳門番が言った。結構でかいな。
てか、え、なんか安くないですか? まぁパラウェス帝国は値上げされてたみたいだけど。それでもだいぶ安いな。
「……すみません、身分証、なくしちゃって」
「はぁ? ったくしょうがねぇな。んじゃこっち来て書類書け。あと追加で3千Gな」
パラウェス帝国でも書類書けって言われたけど、あれは皇子か確認するための口実だった。でもこの人の態度は変わらず違う受付の方で書類とペンを出された。これは、バレてないって事だな。
でも困ったな、字分かんねぇな。……と思っていたけれど、ペンを握ったらすらすらと日本語じゃない文字が書けた。読めるし書ける。これはありがたいな。
記入しないといけないのは、名前と出身地、年齢、生年月日など。
生年月日は困ったけど、数字が並んでいて丸をするらしい。こっちの日付も日本と一緒らしい。だからそこは大丈夫だったんだけど、西暦の所は単語が違うらしい。まぁそうだろうな。
だから、そこは書かずに無視。書き忘れちった~で通そう。
「おいにーちゃん、ここ書き忘れてんぞ。兄ちゃんどうせRだろ?」
書いとくぞ、と勝手に書いてくれた。成程、俺はRらしい。
何かのハンコを押してくれて、封筒に入れてからこれを役場に提出しろと渡された。へぇ、この世界にも役場なんてものがあるんだ。
門番から書類を貰って門をくぐると、建物がいくつも並ぶ街が見えた。へぇ、こんな感じなんだ。パラウェス帝国では衝撃が凄すぎてそんなのゆっくり見てられなかったけど。
「お兄さん!」
門の近くで親子がこっちを見て手を振ってる。俺が終わるの待っててくれたらしい。
「この後私達は知人の家に向かう予定なのですが、ルアンさんは?」
「これから役場に行く予定です」
「そうでしたか。本当は何かお礼をしたいのですが……」
「お気になさらず。俺もポーションが買えて助かりましたから」
「そうですか。ですが私達にとっては恩人のような方ですから、またお会いできた時にお礼をさせてください」
「分かりました」
またね~! と元気良く手を振る姉妹に振り返した。母親も頭を下げてから二人の手を取り知人のいる家の方向に歩いていった。
さて、俺もさっさと行って腹を満たそうかな。マジで限界の一歩手前だしな。あ”~、腹減ったぁ。
『やぁっと煩いガキがいなくなったな』
『何よ、可愛かったじゃない』
お前達も同じようなもんだろ。
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