コインランドリーの上には探偵が住んでいる

七海 夏

エピローグ

アパートの一室に男が座り込んでいる。


窓からは夕日が差し込み、部屋の中をオレンジ色に照らしていた。


光の道筋の中にホコリが舞っている。


荒い息ずかいが静かな部屋の中に響いた。


「嘘だろ」


男は目の前にあるものに手を伸ばす。


記憶の中で静かに微笑んでいた口は動きそうにない。


「なあ、」


体を揺らしても衣擦れの音がするだけだ。


「なあって、」


 

男はしばらくそうして体を揺すっていたが、ふと動きを止めた。


荒くなっていた息も次第に収まっていく。


男は、自分を落ち着かせるように長く息を吐いた。


「ごめん、今から飯作るから」


肩にかけていた手をおろし、呟く。


男は、先程までとは違う慈愛に満ちたような顔をして、いそいそと台所へ向かった。



「今日はお前の好きなカレーにしよう。」


冷蔵庫の中身を覗いて振り返った男は、そう言って、部屋の中に笑いかけた。


少し湿度の高くなった空気が夏がもうそこまで来ていることを知らせている。

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