第20話 処女宮3
処女宮からフィリアが去ってしばらく経った頃。
妙な噂が流れ始めた。
「また出たらしいよ。暗闇」
「ええ、どこで?」
「処女宮の地下にある実演場の隅にぼんやり浮かんでたんだって」
「ええ、こわっ。誰も対処しなかったの? 先生とか」
「すぐ消えちゃうから対処のしようがないんだってさ」
「うへーまじぃ。やだなぁ」
「ね。気持ち悪いよね」
「うんうん」
処女宮の至る所で黒いモヤのようなモノが見られ始め、教師であるクレリックマスターや候補者達が聖法によりどうにかする前に消えてしまう。
霞のようなそれを誰とも無しに【暗闇】とよんでいた。
暗闇は特に害を与えるわけではないが、それを見ていると妙に不安になったり強烈な強迫観念に囚われる事があった。
「はーうっざ」
「どしたのぉメロアちゃん~」
優雅なランチタイムが終わったころ、歓談室の一角にネネコとネネコ一派であるメロアの姿があった。
「リーネが私の悪口言ってるらしくてさぁ……ね! ネネコ! リーネもやっちゃう? フィリアみたいにさ」
「私はかまわないよぉ? 追い出せばその分、聖女になる確率もあがるしぃ」
「よーし。そしたら作戦練らないとだね」
「うふふーメロアちゃん楽しそうだね~」
「そんな事ないわよ? ふふふ」
「「うふふふ」」
二人の悪意のこもった含み笑いは、歓談室にいた他の候補者達のきゃっきゃうふふな明るい笑い声にかき消されていった。
そしてその数日後。
ネネコが処女宮の階段から転落し、大怪我を負うという事件が起きた。
ネネコは暗闇を見て足を滑らせたと言い張るが、実質的な被害が出たことにより処女宮の警戒態勢は一気に跳ね上がり、一人での行動は慎むようにとのお達しが出た。
処女宮の各所には女性衛士が立って監視の目を光らせ、重苦しい空気が漂っていた。
「暗闇、私達でやっつけようよ」
監視の目が光り、今までとは異なる環境は候補者達の精神的ストレスを増加させた。
重苦しい空気を、現状を良しとしない候補者の一人がそう言い出したのは自然の流れだったのかもしれない。
そしてある夜。
暗闇をやっつける、と言った候補者ヒースが変死した。
一緒に行動していた候補者もひどく憔悴していた。
その子の話によると、偶然見つけた暗闇を浄化しようとした瞬間、ヒースは暗闇に呑まれ苦しみ悶えながら死んだのだという。
「ヒースちゃん死んじゃったねぇ~……」
「どうして……」
そして変死したヒースはネネコ一派の候補者だった。
これにより、暗闇はネネコの仕業なのではないか、という噂が流れた。
だがネネコは皇太子を使い、疑いの目を晴らさせた。
ネネコの疑いが晴れた所で、処女宮における暗闇問題の解決には至っていない。
しかし処女宮に暮らす聖女候補達は、一つの重大な事件が解決したかのように振る舞い、慣れ合いながら日々を過ごしていくのだった。
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