第19話 処女宮2
ミルル・ウエストウッド。
絹糸のように滑らかな金髪、意思の強そうな知的な瞳、手折ればすぐに折れてしまいそうな華奢な体だというのに女性らしい箇所は見事に出ており、街を歩けばみな振り返るであろう、そんな女性だった。
「信じられない。フィリアさんが追放なんて」
ミルルは自室にて同室の候補者からその話を聞いた。
聞けばフィリアはネネコや他の候補者達に度重なる嫌がらせと、暴力を奮っていたという。
「そんなバカな話があるわけないじゃない!」
ミルルは激怒した。
自らにこのような感情が起きるなど信じられなかったが、ミルルは湧き上がる怒りに耐えきれず、手元にあったスライムのぬいぐるみをぎゅっと抱きしめて蹲る。
なぜ、その言葉が頭の中をぐるぐると回る。
ネネコらの言葉を信じ、調査もロクにせずフィリアを追放した皇太子は何を考えているのか。
あの油でテカテカな頭には何が詰まっているのだろうか。
確かにフィリアは周囲に対し、厳しく、冷淡に接していた。
ミルルにもそうだった。
見ている限りあの皇太子にすらその対応は変わらなかった。
「ぬふ、フィリアたん。今日も可愛いねぇ」
「話しかけないで、気持ち悪い」
「ぐふう、その強気なところもいいねぇ」
「近寄らないでください」
皇太子とフィリアのそんなやりとりを見たミルルは思った。
(なんて強い人なんだろう)
そう思うと同時に尊敬さえ抱いた。
候補者達の馴れ合いの中、フィリアは仲間を作らず孤高だった。
まるで断崖に咲く美しい一輪の花のように凛としていて、ミルルはかっこいい、とすら思った。
気高く、馴れ合いを求めず、しかし勤勉であり座学も実習もトップを走り続けていたフィリア。
気高く清楚で可憐、孤独に耐え、孤高に生きるその様は鍛え上げられた一本の剣のように逞しかった。
ミルルの中で、フィリアこそが真の聖女なのではないかという懸念さえあった。
「フィリアさん、どうしていつもあんなに機嫌が悪いのかしら」
「お茶にお誘いしても足蹴にされてしまいました……」
候補者達のそんな声が聞こえるのは日常茶飯事。
おそらくミルルと同じ気持ちの候補者も多かったのだろう。
冷淡にあしらわれても、候補者達はフィリアと関係を持とうとし続けていた。
(冷たくされたから……甘々ぶりっこのネネコの話を信じたというの?)
皇太子は候補者達の成績や実績を知らない。
ただ毎日処女宮に訪れ、めぼしい候補者達に声をかけ、無駄なボディタッチでコミュニケーションをとろうとしてくる。
食事やお茶のお誘いもあった。
しかし候補者達の多くはその誘いを断っている事をミルルは知っている。
現にミルルも皇太子からの誘いは断っていた。
なぜか、簡単だ。
神が常に見ておられるからだ。
他の候補者を出し抜いて皇太子と仲良くなろうなど、清く正しい聖女にはあるまじき行為なのだから。
だが実際、皇太子の誘いを受ける候補者達もいた。
ネネコや、ネネコの一派に与する者達だ。
候補者達が集められ、共同生活が始まってしばらくはネネコも大人しかった。
しかし時が経つにつれ、ネネコはコウモリさながらに様々なグループの間を飛び回り、気付けばいつしか自分のグループを構築していた。
無邪気で幼い笑顔と常に媚びているような振る舞いは、きっと外の世界であれば男に囲まれチヤホヤされているのだろう、とミルルは思う。
けど、実際は違う。
(あの子は悪魔だわ)
ミルルは知っていた。
聞いてしまった。
処女宮にある倉庫の中でネネコが一人、口汚くフィリアの事を罵って物に当たり散らしている所を見てしまっていた。
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