第9話 最悪な展開に……
違う。
私はそんなつもりじゃないの。
話しかけてくれた男の人は確かに太っているけど、ヌフフ皇太子ではない。
「え……?」
男の人が困惑した顔で私を見ている。
頑張れ私、新しい私。
「あ、ごめんなさい! こんにちは! 何でしょうか!」
「あ、うん。これキミのだよね? 落としたよ」
「私のハンカチ……すみません、本当にありがとうございます……」
「それじゃあね」
男はちょっと困った顔で手を振りながら去っていった。
最悪だ。
私が落としたハンカチを拾って教えてくれただけなのに、失礼甚だしい。
ここに来て最悪な事態が私の中に起きているのが判明した。
私がワナワナと震えていると、今度は女性が声をかけてきた。
甘ったるい、男に媚びるような、ネネコに通じる喋り方で。
「おねぇさん見ない顔だぁ―、新入りさんかなぁ?」
「うるさ、関係ないでしょ」
「ええ!? 辛辣ぅ!」
「っだあああ! 違うんです違うんです! 新入りです!」
「緊張してるんだねぇ、リラックスリラックスぅ」
まただ、またやってしまった。
違う違う違う違うんですぅ!
「お、おいどうしたフィリア。顔色悪いぞ……? 大丈夫か」
「だ、大丈夫です、ちょっと立ちくらみが」
そこまでは頑張って言えた。
私の中に起きている非常事態、それは半年ほど続けていた仮面の私。
あの宮殿の中の塩対応の私が定着してしまっているということ。
でも他の人には普通に対応出来る。
でもでも、皇太子のような体型の人とネネコのような媚び媚びぶりっ子のようなタイプにだけ、反射的に、無意識的に、能動的に塩対応の私が顔を出してしまう。
由々しき事態だ。
私は皇太子とネネコが嫌いなだけで、冒険者の皆様とは仲良く睦まじく明るく楽しく元気よくやって行きたいのだ。
「あいつ特定の人にだけ感じ悪いよね」
とか後ろ指さされるなんて嫌だ!
嫌いな人は嫌いだけど嫌いじゃない人にまで冷たくするような無礼な女じゃない。
「ふぅ……」
心配するバルトから目を逸らし、小さく息を吐く。
私は決めた。
未だ根付く仮面の私を打ち砕くと。
覚悟しなさい、私の明るい未来設計に塩対応のあなたはいらない。
これから先、多くの冒険者や一般人と関わる事になるんだ。
その度に塩対応を撮り続けていたら、滅茶苦茶意地が悪いビショップ、というレッテルが張り付けられるに決まってる。
そりゃあもうベッタベタに張られてしまう。
それだけは絶対に避けなければならない!
私は戦おう、私という最大の敵に抗ってみせる。
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