聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になったものの、聖女の力は自重を知らないようです
登龍乃月@雑用テイマー書籍化決定!
第1話 孤独な戦いの始まり
ロストレイ聖王国には代々【王の妻は聖女であるべき】という決まり事があり、現皇太子ヌフフにもその決まりはもちろん適用される。
国中より聖女兼皇太子の嫁候補が集められる中に、私、フィリア・サザーランドもいた。
サザーランド家は弱小貴族ゆえ、父も母も私が選ばれた時は泣いて喜んだものだ。
けど……正直、私は嫌だった。
皇太子の妻、いわゆる次代国王の妻、女王様。
世間的に見れば最高の、誰もが憧れる地位なのは間違い無いのだが--。
「無理無理無理。あんなのにちゅーされるとか無理、手を繋ぐのも無理、むしろ同じ空間で同じ空気を吸うのも無理なんですけどっ!」
皇太子はあまり外に出るタイプの人間ではないようで、国民も皇太子の姿はここ数年見ていない。
すわひきこもり野郎か、と思ったが、それは見事に大正解。
聖女候補専用の宮殿に集められた私達聖女候補、その前に皇太子が姿を現した。
「皆の者、こやつがお前達の誰かの夫となるヌフフじゃ」
「ぬふふ……よろ、よろしくねぇ」
国王が連れてきたのはそれはもう立派な、実に皇太子の名に似つかわしく無い醜悪な男だった。
体は贅肉でパンパンに膨れ、大きく張り出したお腹をさすりながらニヤつくヌフフ皇太子。
不摂生の証なのか、顔中ニキビだらけの無精髭。
私は、私が結婚し生涯をささげるのならもっと筋骨隆々で、イケメンでなくとも爽やかで清潔感のある男らしい人がいい。
少なくとも私は無理だ。
あんなのと結婚するなんてマヂムリリスカしよのレベルだ。
だが--。
「ヌフフ様! 私は--」
「ヌフフ様!」「ヌフフ様!」
「うっそぉ……」
集められた聖女候補達はそんなヌフフに対して媚びを売り始めたのだった。
何が聖女か。
地位に目が眩んだ売女共め。
父さん母さん、ごめんなさい、私にはムリです。
逃げろと言われたら脱兎の勢いで逃げ出す覚悟があります。
よろしくお願いします。
「うむ、うむ。良き心がけだぞ子猫ちゃん達、ぬふふふ」
「ひいいい」
ヌフフ皇太子は聖女候補達の様子に大満足なのか、腹をゆすりながらにんまり笑っていた。
決めた。
私はどんなことをしてもこいつの嫁になんて--聖女になんてならない。
--そう思っていた時期が私にもありました。
「な、なな……なんっでだあああ!」
ある朝、小鳥のさえずりと眩しい朝日で爽やかにグッドモーニングした私。
朝風呂を浴びようとして服を脱いだ瞬間それを目にし、大絶叫してしまった。
「だ、大丈夫? フィリアちゃん……」
「あ、あはは! 大丈夫! ちょっと、うんちょっと体重増えちゃってただけだから」
「あぁ、お食事美味しいもんねぇ~わかるぅ~私もぉ太らないか心配だぉ?」
脱衣所の外から甘えた子猫のような、飴玉を舐めているような甘ったるい間延びした声が聞こえる。
同じ聖女候補で同室のネネコ・ブリッコである。
(ほんとそのクソうぜぇ喋り方なんとかなんないのかしら)
ネネコは男女年齢関係なくブリッ子を発揮する子だ。
本心で悪意なくやっているのか、それとも徹底的な演技なのかは知らないけど、私はこの子が嫌いだ。
というより聖女候補全員が嫌いだ。
腹の中では「ハッ! 私が聖女よ!」と思ってるくせに「〇〇ちゃんなら大丈夫だよ! きっといい聖女になれる! お互い頑張ろうね!」なーんて茶番を毎日毎日飽きもせず繰り返してるんだから頭が下がる。
本来男に媚びるタイプではない私が聖女候補達の甘ったるいお遊戯会に参加できるわけがないのだ。
--閑話休題。
なぜ私が大絶叫していたかというと、聖女の証である聖なる刻印が私の体、内腿の股関節あたりにはっきりと浮き出ているのを見てしまったからだった。
(なんでなんでなんでなんでなんで)
私の頭はそれでいっぱい、胸いっぱいお腹いっぱい誰か助けて状態。
絶対に誰にもバレてはならない。
そう決めた私は、今まで以上に他人を拒絶するようになった。
「ねぇねぇフィリアちゃん~どの香水がいいかなぁ~」
「知らないわよ。好きなのつければ」
「そうだよねぇ~フィリアちゃんいつにも増して不機嫌だぁ~」
「うるさ」
その日から私の孤独な戦いは始まった。
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