第2話 『ストーカーと元カノ』

 私、全問正解ぜんもんせいかいは私立探偵だ。


 私には人には言えない秘密がある。


 それは、数ある選択肢において、私が選んだ選択は必ず正解するのだ。


 かつて彼女に私は「仕事と私、どっちが大事なの!?」と聞かれたことがある。


 私が出した答えは……。


A もちろん、君だよ。


「本当に!?いつも仕事ばかりじゃない!」


「本当さ!君が大事だから、今日は仕事を休んで君のそばにいるよ!当たり前さ!」


 30分後。


「ごめんなさい。私が悪かったわ。生活を守るために働いてくれていたのに……。仕事に行って」


「え!今日はもう働く気分じゃないよ?スッキリしないと働けないなぁ~」


「もう……仕方ないわね」


 あふあふ……解決!!

 

――――――<キュルルル……(世界が巻き戻る)>―――――――


B もちろん、仕事だよ。


「仕事をしない俺でも好きになったかい?」


「え!?……私は……仕事をしている正解さんが好き」


「だろ?あ~あ、今日はもう働く気分じゃないなぁ。スッキリしないと働けないなぁ~」


「もう……仕方ないわね」


 あふあふ……解決!!


―――――――――――――――――――――――――――――


 ……と、このように切り抜けたことがある!


「先生、先生は彼女とかいないのですか?」


 台所でしゃがみながら棚から珈琲の豆を取り出す解答ハズスが聞いてきた。


「もう少しで見えそう……」


 私は必死でスカートの中を確かめようとソファーの手すりに全体重を乗せ、時計の19時辺りまで上半身を傾けていた。


「……先生?」


 彼女が振り向く前に12時の方角まで急いで上半身を戻す。


「はっはっは、結婚という人生の選択肢が私にはまだ出てきていないということだ」


 私は吊りそうになった手を擦りながら答えた。


「よくわかりません」


 今度は背伸びをして棚の上からコップを取り出す。


「見えた……」


 青と白の縞々が見えた。


 わざわざ取りづらい棚の上にコップをしまった私の選択肢に間違いはなかった。


 私は、外さない!


 名探偵、全問……!!


 ピンポーン。


 私が心の中で決め台詞を言っている途中で玄関のインターホンが鳴った。


 まぁ、名前の『正解』の部分が『ピンポン』という正解音と重なったという偶然を考えると、私の選択肢に間違いがないことが証明される。


「先生?出ますか?」


「あ、ああ……出てくれ」


 ハズス君の言葉で我に返る。


 いつも頭の中で考え過ぎてしまう。


 私の悪い癖だ。


 開いた扉から馴染みの顔が見えた。


「ヨイ!会いたいと思ったらお前の方から来るなんて!」


「私は、べ、別に会いたくて来たわけじゃないわよ!仕事よ!仕事!」


 ショートカットの黒髪にメガネをかけた頭脳明晰、才色兼備の彼女は気月きがつヨイ。私の元カノだ。大学の頃から4年付き合って、そのあと3年同棲したが、彼女の方から別れを告げられた。


 いつもの頭の中に浮かぶ選択肢が出なかったから、良い別れだったと諦めている。


「え!?先生の元カノですか?綺麗な人~。胸は小さいけど」


 ハズス君はズバッ!と彼女唯一の弱点を見抜く。


「失礼な!あなたロリコンだったの?」


「ば、バカ!彼女は探偵見習いだ!でも、私は小さい胸も好きだぞ」


「お前はバカか――!!だいたい、私の胸はあなたが揉んで……」


「あの……」


 元カノ、ヨイの後ろから申し訳なさそうに巨乳の女性が顔を出す。


「あっと、忘れてた。仕事よ。警視庁でもあなたがこの前、解決した事件で大騒ぎでね。『連続爆破解除!名探偵全問正解は選択肢を外さない!』だってさ。おかげで私は被害者を連れて元カレのとこに行けって上司がうるさいのよ。やんなっちゃうわ」


 彼女は今は警視庁で刑事をしている。最近、警部補に昇進して出世コースに乗ったらしいが警部とは折り合いが合わないと愚痴のメールがたまに来る。同棲している時は犯人の場所とか証拠とかを私がこっそり選択肢から選んであげたものだ。


「怪しそうと申します。先日、チカン被害に遭いました……」


 巨乳なのに胸元にフリルがついたブラウスを着ている被害者。それは触ってくださいと言っているようなものだが……。


「防犯カメラに容疑者の顔が映ってたのだけど、確証がなくて困っているの。三人のうちの誰かだと思うのだけど……ねっ、誰だと思う?」


 気月よいは三枚の写真と事件の聴取書を机の上に並べる。


「私はこの、禿げでデブの人だと思います」


 探偵見習い助手の解答ハズスが迷わず一枚の写真を指差す。


「こらこら、人を見た目で判断してはいけませんよ」


 ハズス君が大きなおっぱいを揺らしながら写真を指差した時、危うく私の顔におっぱいが触れそうだった!びっくりしたぁ~!元カノの前でおっぱいにビンタされたら、さすがの私もどんな顔をしていいかわからん!


「どう?正解、誰が犯人だと思う?」


「お、おう……犯人は……」

  

 動揺を隠しながら三枚の写真を見る。


 私は人差し指を額に当てると、いつものように頭の中に選択肢が浮かび上がる。


 私が出した答えは……。


 A 犯人はハズス君が言った禿げデブ男!


 B 犯人はお前だ!


――――――――――――――――――――――――――――

 B 犯人はお前だ!


「犯人はお前だ!」


 私は被害者の怪し想に人差し指を突き立てる。


「あなた、何を言っているの!?彼女は被害者なのよ!!」


 元カノ気月よいが怒鳴るのも無理はない。


「怪し想さん……あなた冤罪目的で慰謝料を騙し取ろうとしてますね」


「え!!そ、そんなわけないでしょう!」


 怪し想が大きなおっぱいを揺らしながら激昂する。


「あなたの聴取書……矛盾だらけですよ。近所のコンビニ帰りと書いてありますが、あなたはそんなおっぱいが強調した服を着ている!さらに、防犯カメラに映ってるいる男性の歩いている方向と時刻!あなたがチカンされたと証言した時刻!三人ともコンビニで買い物をしていますよ!誰がチカンしたあとにのんびり買い物をしますか!!」


「な、なによ!私はチカンされたの!男は黙ってお金払えばいいのよ!」


 怪し想の態度が急変した。


「そんな……女性の味方になろうという私の思いを踏みにじるなんて……!?11時20分、怪し想!詐欺容疑で逮捕します!」


 気月よいは怪し想の両手に手錠をかけた。


「そんな……」


 うなだれる怪し想。


「また、助けられたわね。今夜、奢るわね」


 やった!今夜はいろいろ食べれそうだ!


 私は……外さない!


――――――<キュルルル……(世界が巻き戻る)>―――――――


A 犯人はハズス君が言った禿げデブ男!


「やっぱりね!」


 ハズスが両手を腰につけ、おっぱいを強調しながら得意気にする。


「いや……この人ではないような……」


 怪し想は否定した。


「なによ。間違えたの?」


 元カノ、気月よいが両手を上げて「やれやれ」と言う。


「想さん……。間違えていません。犯人はこの男とあなただ!あなたは冤罪で慰謝料を取れるとこの男から話があったのではないですか?この男は以前にも同様の手口で女の子を使って慰謝料を騙し取った過去がある!」


 私は人差し指をビシッ!と彼女に突き立てる!


「そんな……あいつ前科者だったの!?言う通りにすればお金を貰えるって言ったのに……」


 怪し想はあっさり白状した。


「そんな……女性の味方になろうという私の思いを踏みにじるなんて……!?11時20分、怪し想!詐欺容疑で逮捕します!」


 気月よいは怪し想の両手に手錠をかけた。


「くそ……」


 うなだれる怪し想。


「また、助けられたわね。今夜、奢るわね」


 やった!今夜はいろいろ食べれそうだ!


 私は……外さない!


―――――――――――――――――――――――――――――――


 その夜――。


 ぷるん。


 気月ヨイのブラジャーからおっぱいがこぼれる。


「あ、あれ?そんなに大きかったっけ?」


「昼間は仕事の邪魔になるから、きつめのブラジャーでおっぱいを目立たないようにしてるの……。もう、あなたがこんなにしたんでしょ……」


 思い出した。付き合いだした当初はヨイのおっぱいはお世辞にも大きいとは言えなかった。


 おっぱい大好きな私が毎日揉んでいたら、いつの間にか巨乳の仲間入りをしたのだった……。


「そうだった……ね」


「だったら、あの女子高生に言ってよ!もう……」


「ご、ごめん……」


「もういいわ。……ねぇ、私の触ってほしいとこ分かる?」


 昼間とは別人のような甘い声を出す。


 私は久しぶりに彼女の選択肢に触れていた。


「あん!……せ・い・か・い」


 私の耳元で囁く彼女。


 私は……選択肢を外さない!!


 名探偵、全問正解!!


「あなたの触ってほしいところは……こ、こ、か、な?」


「……正解です」


 元カノ気月ヨイは私の正解を熟知していた……。


 <次の選択肢へ……つづく!>

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