長編「箱庭ノ余談」(完)

不可世

第1話「ふたり旅」

死を得た魚は水を飲む

 マキナス・ベータ著 死の喜びより引用


「おはようございます、ダイナード教授」

「朝から織り目正しいね、エドモンド」

「紳士たるもの、気品と礼儀を重んじるものです」

「だが正しさに頼るだけでは生きてはいけまいよ」

「どうしてでしょう?」

「人とはね、悪から、身の振り方を学ぶからさ」


「そうなんですね、では今日の朝ご飯はご自分でご用意ください」

「君は何を・・・言って・・・」

「身の振り方学べました?」

「君は揚げ足を取るのがうまいね」

「先生は寛容ですから、イタイケなことをしたくなるのです」


「そうか、どうやら君には反省が必要なようだ」

「いえ、これは純然たる好意です」

「だとすれば、君の好意ほど疑わしいものは無いね」

「またまた、先生はそのように肥大化したことをおっしゃって」

「いや、これは紛れもなく、私の等身大ほどの思いだよ」


「でしたら、私は先生より背が高いことになるんですね」

「また、何をトンチを効かして、いつから君は難癖つけれるほど立派になったんだ」

「立派だなんて、それはお褒めの言葉でしょうか?」

「君の取り方が、褒めであるなら、それは私の言葉のあやを理解していない証拠だよ」

「先生も、随分と言いますね、しかし言葉を交わせる以上、私たちは対等では無いでしょうか」

「つまりは私も君と同じ穴のムジナって事か?」

「はい、なんせ同じ人という種であり、同居してるのであれば、もう婚約者みたいなものでしょ」


「待て待て、君は何を、言ってる、その着想は完全に妄想であり妄言だよ」

「先生、私たちっていい関係だと思いません?」

「やめろやめろ!!私はね、一人を好むのさ」

「一人では限界がありますよ」

「何がだね?」

「言わせる気ですか、ほんと愛に無頓着な方ですね」

「いや、君の説明に難があるだろう」


「まーいいです、先生が如何に言おうとも、私は側でお仕えします」

「そうか、それは助かるよ、では早速だが、ご飯を頼む」

「あれれ〜」

「いや蒸し返すな、もうその段取りは終わっただろ」


「わかりました、では喫茶店へ行きましょう」

「なんだって!!!喫茶店と言えば、オシャレの聖地だろ、このように無様な私はいけないぞ」

「先生、お気を確かに、先生の格好は確かに駄メンズですが、私から見ればむしろ良いんです」

「なぜだね?」

「そりゃ、泥棒猫が寄らないですから」

「やっとわかったぞ、君は私がダサい格好だから、衆目に晒されても無視されると思ってるんだな」

「いやいや、泥棒猫ってだけでオブラートに包んだんですから、自分で油注がなくても」

「君は野蛮だなエドモンド」


「しかし先生は、お一人が好きなのでしょ、ならどちらにせよ、それで良いのでは?」

「確かにな、エドモンド、君の見通しの良さに感激したよ」

「いえ、私も先生を狙う身ですし、」

「狙うとはつまり?」

「相変わらず、研究以外の身辺はおざなりですね」

「答えになっていないぞ」

「先生を愛してるって事です」

「え!?」

「ほら、受け止めきれてない」

「いやいや、わかるぞ、恋愛だろいわゆる」

「で、どうなんですか、先生は?」


「どうって、そりゃ、君は学も才もある、素晴らしい人だ、しかしな私は一人を好むのさ」

「では、なぜ私という助手を側に置くのです」

「そりゃ、料理や家事が出来ないからな、」

「本当ですか?本当は孤独だったんじゃ無いんですか?」

「まさか、私は一人でも歩いてけるさ」

「じゃ、私、助手辞めます」

「え?」


「ついて来て欲しいなら、結婚して同居しましょう」

「え?えええ??」

「では、さよなら」

「待て!!」

「結婚以外聞きませんよ」

「結婚しよう」


「本当ですか?」

「言わせたのは君だ、責任は取ってもらうぞ」

「わかりました、ではこれからデートへ行きましょう」

「デート?」

「私に任せてください、リードしますから」

「そうか、じゃあ頼んだよ」

「はい」

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