第7話

 電車に乗って三十分。


 徒歩五分のところにある河川敷のグラウンドには、早くも上級生が集まっていた。ピッチャーのりかこ(三年)とショートのソフィー(二年)。この二人は最初のインパクトが強かったからすぐに分かった。


 久留美はあんこに一通り昨日のメンバーを教えてもらったからなんとなく分かる。ベンチの前でバットを振っているのは、レフトを守っていた長い綺麗な黒髪の織部雅(三年)だ。セカンドでノックを受けている原希美(二年)は、二人に気がついて声をかけようかきょろきょろしていたがノッカーの翔子(三年)は、まったく気がついていないようで強い打球をどんどん球際に打っていた。


「のぞみ~あと十本とらないと終わんないよ~」


「お、お願いしますもう一本」


「なにをへばってんのよ、弱音はいたらもう十本追加ね」


「りかこさん。いけないんだ~またのぞみちゃんいじめてる~」


 あんこは、そう言ってグラウンドに駆け出した。上級生たちの視線が二人に集まる。久留実の姿を見た上級生たちは練習を一旦中断し快く向かい入れてくれた。


「こんにちは。くるみちゃんもいっしょです。真咲さんは?」


「真咲さんなら外野でアップしてるよ」


 ノックを打っていた翔子はライトのポールを指差し言った。


「じゃああたし挨拶してきますね」


 あんこは、久留実の手をひいてライトの最深部まで走り出す。こちらに気がついて走り出すのを辞めた真咲は、近づいてくるのがあんこと分かったようで微笑んだ。


 遠くからは分からなかったが小柄な体格で容姿から女子中学生くらいにしか見えない。あんこと並ぶと更に頭一つ分ほど小さい。


 久留実はりかこやソフィーを含めたメンバー全員から慕われている人だと聞いていたためもっと大柄な人物を想像していた。真咲って言う名前も男らしいから怖いイメージもあったが実際は童顔でクリっとした丸い目でこちらを眺めている。


「こんにちは真咲さん。この子が昨日言った有望部員です!」


「あの……はじめまして。咲坂久留美です。あの有望とかではなくその……昨日はいろいろすみませんでした」


 真咲は右手を差し出して握手を求め応じる。


「そんなに固くならないでいいですよぉ、昨日は就職課にいってたから会えなかったけど災難でしたね。りかこちゃんにやられたんでしょ。あの娘負けず嫌いだから許してあげてほしいですぅ」


 舌っ足らずで外見に引っ張られるような幼い感じの喋り方だった。両手を使って身振り手振り話すので動作もどこか子供っぽくふわふわした印象を与える。久留実は思わず頭を撫でたくなる感情を押し殺し平然を装う。


「その、気にしてないです、ほんとに大丈夫なんで」


 そう言うと真咲は笑って久留実の手を今度は両手で包み込むように握り顔を近づけていった。


「みんなからとぉってもすごいボールを投げれるピッチャーって聞いてますよ。あんこちゃん全員をベンチに集めてくださいね。歓迎します咲坂久留美ちゃん。ようこそ栄光大女子硬式野球部へ」


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