第3話サッカー部の新人には悪い噂がある?

「もう、何もかも素敵。尊敬します。真藤さんってお休みには何をされているのですか?」

 加織はメス豚度全開でなんとか真藤に取り入ろうとしている。その努力は認めるけれど、努力する先が違いませんか、なんて、意地悪な思考が頭の中にどっしりと居座っている。

「夏はサーフィンで、冬はスノボだね。春と秋は、仕事でも使うけれど、ゴルフって感じかな」

 これが普通のあんちゃんがのたまったのならば、嫌みのひとつもいいたい返答だが、どこから見ても非の打ち所のないイケメンの真藤が言うと、さすがにサマになっている。

 しかし梅としては、こんなのんきな会話につきあっている場合ではない。加織にしても真藤にしても、早く本題に入って欲しい。

 梅はまだ半分も皿に残っているカルボナーラを口に運んだ。もうほとんど冷めかけていて、うまさも半減というところだ。

「加織。何かわたしに話があるんじゃなかったっけ」

 他人の恋路の邪魔をするやつは犬に食われて死んじまえとか、馬に蹴られて死んじまえとか、そんなことわざ? があることは知っているけれど、しびれを切らして口を挟んでしまった。

「えっ」

 なんなのよ。側にわしたしが居たことに今気がついたようなその驚き方は。

「ああ、そうなのよ。そうなんだけど」

 加織は真藤の顔を盗み見るような仕草を見せた。

「ああ。僕ならどんな話をされてもぜんぜん構わないよ。それに居ては話づらいってのなら、しばらく席を空けてもいいし」

「いえ。真藤さんがそれでいいのならば構いません。そこに居てください」

 加織が、こんな表情がかわいいでしょ、とでも言いたそうな、とびっきりの笑顔を見せてから、

「実はきょう入ってくるサッカー部の新人さんの話なんだけど」

 と梅に真顔を向けてきた。

「知ってるの?」

「直接知ってるってわけじゃないんだけど、古くからの友人から忠告を受けたというか、教えてもらったっていうか」

 加織が真藤にふたたび視線を向ける。

 真藤はいかにも柔和な笑みをうかべて、ゆったりと構えている。

「その新人って人、すごく女癖が悪いんだって。サッカーの才能は間違いなくあるみたいなんだけど、その女癖の悪さで、行くとこ、所属するとこを、片っ端から、首になってきた人なんだって」

「何よそれ。ただの噂でしょ」

「噂だけど、噂じゃないというか」

「どういうことなの。はっきり言ってよ。意味がわからないわ」

「その教えてくれた古くからの友人がその被害にあったんだって。彼女、堅物で有名で、自分から男が仕掛けた罠にはまりにいくような性格じゃないの。つまり尻軽なんかじゃないのよ」

 あんたは尻軽だけどね、という言葉が脳内で響いた。よかった本当の声にならなくて。

「被害ってどんな被害なの」

「だからその友だちはすごく堅物でさ、最初は相手にしてなかったんだけど、何度もいい雰囲気を作られちゃって、それでついにって感じで。つきあいが深まると、結婚するのかな、とまで思ったというのよ」

 いやいや、そんなことならば、その友だちという女にも責任はある。結婚するのかな、って思ったっていうのは単なる妄想だったわけで、相手の男だけ非難する筋合いのものじゃないはずだ。

 もっとも梅は恋愛経験と胸を張って呼べるものもなく、この手の話に的確な評価が与えられる立場ではない。

「真藤さん、どう思います? そんな男って」

 そこですかさず訊くのが真藤さんかよ、と香織の話題の振り方に不満はあったけれど、確かに真藤がどう思うのかってことには、梅も興味がないわけでもない。

「恋愛は色々だから、外野からあれこれは言えないな」

 でしょ、でしょ、真藤さんって、やっぱりわかってるわ。

「例えば、そのお友達って、お金とか貢いでいたのかな」

 香織の顔が心底驚いた表情になっている。

「真藤さんって超能力者なんですか? そうなんです。250万円、250万円取られたんです。あっ、取られたってわけじゃないです。貢いだってことなんですけど。でもその騒ぎで、今回のサッカー部の新人さんが解雇になってからよくよく調べてみると、過去にクビになったところところで、同じような目にあってた女性がいたんです。今じゃ共闘の仲間になってるらしいです」

 共闘って、何を目的に戦ってるの? まさかもう一度自分の元に帰って欲しいというわけじゃないだろうから、そこはやっぱりお金か。なんか嫌だな。でも、それも大切か。

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