43、作者目下の生活に厭な雲あり

 天狗皇族と人間の『魔祓い承仕師しょうじしの少女』の結婚が世間を騒がせる中、もうひとつの事件が起きた。

 

 木枯らしの吹きすさぶ冬始めの日、文学界の舞台でひとつの真実が明らかにされたのだ。


けがされた賞の権威! 女流作家、二世乃にせの咲花さっかが手にする賞は、彼女の力ではなく、ゴーストライターたちの才能が光っていたものだった‼︎ ゴーストライターはなんと十人もいて、芸術村と呼ばれる田端在住の文士の間でも文士とは認めぬと話題だとか』

 

 この事実が暴かれると、世間の人々は驚きと怒りに震えた。


「けしからん」

「許してはならん!」 

 

 芸術家の集まる田端在住の文士たちなども会合を開いて怒りを共有していた。

 

「でも金払いもいいし、美人だし」

「なにっ、お前、まさか……」

 

 中には咲花にお世話になっていた者もいて、文士たちはしばらく「正しきこととは、なんであろうか」と議論しつづけることになるのであった。

 

「作品の出来が良ければよいのではないか」

「作者目下の生活に厭な雲あり、評価されるのにふさわしくないのである」

「小鳥と歌い、舞踏を踊るのがそんなに高尚か!」


 新聞各紙は大きな見出しで咲花の受賞作品がゴーストライターたちによって執筆されたことを報じた。文壇の舞台裏に隠された真実が明るみに出ると、有識者も読者たちも失望と怒りに包まれた。


 咲花は賞のスピーチで自らの努力と才能について語ってきたのだ。

 

『世の中には何十年と努力をしても実を結ばぬ者もいるといいますが、あたくしはこの作品を初めて書き、実を結ばせようと思ったところ、簡単に実を結んだのです。ゆえに天才と呼ばれているのですわっ』


 おーほほほ、と札束を扇のようにして「あたくし、すごいですのー!」と高笑いする咲花の姿は、有名であった。

 

『文章が心のうちよりあふれて止まらず、ひとたび筆を握れば書き終わるまで寝食を忘れて打ち込んでいられる、ああ、あたくしのこの才能といったら――』 

 

 ファンの中には、そんな偽りを信じ、天才に夢を見ていた者も多かったようで、それだけに、帝都は怒りや非難の声であふれた。


 結果、賞は取り消しになり、咲花の名声は地に落ちた。


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