百合帝国:ないしょの相談
百合帝国は他国を必要とせず、自国のみで社会を運営維持することが可能である。
そのような百合帝国にとって、純粋神聖クエーサー帝国から手に入れたいものはなによりも「魔法」である。
そして可能であれば手に入れたいが必須ではないものに、文化コンテンツと食材の遺伝子サンプルがある。
何がしかのリソースを純粋神聖クエーサー帝国に提供し、対価として百合帝国が魔法を手にするための被験者を集めるための通貨と、文化コンテンツの使用権と食材のサンプルを入手したい。
しかし、クエーサー帝国はある意味で百合帝国と似ている。
クエーサー帝国に必須のモノは全て彼ら一国で賄えるのである。
突然の、国ごと転移という天災によりどうしようもなく追い詰められており、売った恩を言い値で買ってくれた日本とは違うのだ。
『…とは言え、彼らは魔法以外の技術もどのみち自力で開発するでしょうね。それを考えると時間の問題だわ』
有限寿命者だったかつての始祖種族と異なり不老種族となった彼らにとって、それは自分が生きている間にほぼ確実に迎える未来である。
リーリスはクエーサー帝国側に聞こえないようネットを経由して声に出さずに会話を始めた。
『ただ、ワタシ達が技術移転しなくても、おそらく日本とクエーサー帝国は互いに技術協力を行うようになるわネ。報告によれば日本は外国との交易交流ありきの社会のようだし、衛星も打ち上げているワ。この大陸に向かって日本の水上船舶が航行していることは確認済みだしネ。大陸最大の都市であるここ、クエイスシャイタンに日本の使節が到着することはほぼ確実ネ』
とキャロール。
『日本の船を秘密裏に沈めて日本とクエーサー帝国の接触を妨害するという案も思い浮かんだけど、時間稼ぎにしかならない。バレれば超文明へと成長する潜在力を持った種族の怒りと恨みを買うし却下。他国の邪魔をするより相互に利益のある関係を結ぶべき局面』
ガーがかえす。
『始祖の時代の技術情報であれば取引の材料としても構わないと思うわ。どのみち日本が魔法を使わない技術の情報を供給すると思うわ。ただ、日本もクエーサー帝国も互いの全ての技術情報を開示するとは考えにくいわね。それに日本の技術レベルは恒星間殖民船を建造できていないらしいことからも、明らかに始祖が到達したレベルより低いことは確実ね。始祖の技術全ては開示せず、日本の出方を見ながらどこまでクエーサー帝国に開示するか柔軟に対応すべきじゃないかしら』
とリーリスがまとめる。
『他に出せるものといえバ…、金や銀、プラチナといった希少な元素は始祖の時代から価値あるものとされてきましたし、今も工業的に有用ネ。彼らにも価値があるのではなイ? 魔法を得るための協力の対価のためなら、備蓄から、かなりな量を差し出しても皆は納得するわネ。…もっとも、魔法文明は元素転換で必要な量の金を作ったりできるのかもネ?』
キャロールが言う。
『始祖の時代の文化コンテンツと食材となりうる生物も、彼らの文化コンテンツと食材生物サンプル入手の取り引き材料として構わない。しかしこれらは彼らにとっても必須ではないので取り引きに乗ってこないかも知れないが、それならそれでも問題はない』
ガーが自分の考えを述べる。
『クエーサー帝国は不老長寿と若返りを魔法により実現しているわ。この魔法が日本に伝わるのもおそらく時間の問題でしょうね。今すぐ評議会に連絡を入れ、アリスちゃん達の、日本への老化防止特効薬提供と若返りの設備レンタルの提案が通るよう働きかけましょう。今のうちに巨大な潜在力を持つと思われる日本に貸しを作っておくの…。日本人が恩義を感じる種族かはわかんないけどね』
リーリスは考えを更にまとめる。
そうして百合帝国側は、取り引きの俎上に乗せるものを決めていった。
クリュによるクエーサー帝国紹介から、彼女らは、魔法が応用できる範囲は非常に広く、これからも彼らの魔法技術は発展し続けるだろうと判断していた。
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