百合帝国・転移時間
百合帝国・とあるアーコロジーの片隅。
アリス・リデルはその隣人であり友人でもある四人でテーブルを囲みお茶にしていた。
地球人としての前世の記憶を持つアリスは、およそこの惑星でも地球でも美的感覚に差異は少ないことを知っていた。
ここにいる少女たちは皆、究極、至高とも言える美少女揃いだ。
最も百合帝国人は全てそうである。
しかし彼女らの服装や背格好はかなりの違いがある。
アリスは地球人の感覚では7歳程度に見え、お気に入りのエプロンドレス姿だ。
前世では女装の趣味はなかったが、百合帝国のアリス・リデルである生を受け入れて以来すっかり前世の感覚では女の子らしすぎると思えるこの服を好んでいる。
最も年長に見える二人の少女で外見は16・7くらいだろうか。
最後の少女は14歳ほどだろうか。
百合帝国人は、遺伝子にランダムで与えられた揺らぎによるのと、人工子宮から出産された後の成長過程に発生する差異とで、成長が止まる肉体年齢には、ばらつきがある。
ここにいる少女たちは全て成人であり、その肉体はもう老化も成長もしないのである。
やたらと背が高く凄まじく大きな胸とお尻、きゅっという擬音が似合う曲線を持つくびれたウエスト、長く美しい脚が印象的な、黒い髪と瞳の16~7歳に見える少女、サヤカは、その体を見せびらかすように水着同然の衣装に身を包んでいた。
14歳に見える少女、ピンクの髪が目立つリーリスの衣服は、ホットパンツとTシャツだった。
こちらは普通の身長の、もう一人の16~7歳くらいに見える金髪碧眼の少女、キャロールは地球で言えばセーラー服に近い。
百合帝国において衣服の選択の余地は非常に広く、彼女らは、始祖人類の惑星に存在した様々な文化様式を基に、自分に最も似合うと思われるファッションに身を包んでいた。
百合帝国において、教育課程の殆どは養育するアンドロイドメイドがマンツーマンで行う。
そのため地球人と異なり学校でできた友人というものはない。
社会維持や生産活動といったことは全て自動化がなされているため、職場での同僚と友情を結ぶなどということもない。
百合帝国においての友人の作り方は、ネットで気の合う相手と出会い親交を深めるか、隣人と親交を深めるかが主である。
地球とは異なり、五感全てに対応したフルダイブ型の仮想現実が普及して長いこの惑星においては、ネットでの友人とリアルでの友人に違いはなかった。
遠方の相手とでも現実とほぼ変わらない仮想空間で出会い、語らい、遊ぶことができるのである。
ほんのりと甘い、サクサクとした食感の茶菓子をつまみながらアリスが口を開く。
アリスの記憶では地球で言うクッキーやビスケットが近い。
「いよいよね」
サヤカが言う。
「そうネェ。でも本当に大丈夫かナ?」
とキャロールが返す。
「でも惑星知性の能力の上限なんて誰にもわからないし、怒らせたりしたらあたしたちなんて簡単に皆殺しになるかもしれないわ。怒りなんて感情があるかどうかもわからないけどね」
とリーリス
「そうよね。私も国民投票では政府見解を支持にしたし」
アリスが言う。
そしてサヤカが発言した。
「わたしは、なるべく転移まで時間をもらえないか交渉できないか、意見を述べたわ。転移するにしても、誰かが惑星知性を研究して、何らかの知見を得られるくらいまでの時間的猶予が欲しかったの。でも無理だったみたいね」
そこまで不安というわけでもないが、現実に誰かがそばにいてくれるのはやはり本能的な心強さがある。
誰もが同じであろう。
惑星上では惑星知性との接触で決まった転移の時間を、誰かと、仮想空間ではなく現実世界で二人以上で一緒に迎えようというものが多かった。
お茶会をしながら転移の予定時間を迎えるつもりの彼女らであった。
そして転移の時が来た。
「少し揺れたわね」
とアリス。
「モウ転移は済んだノ?」
とキャロール
「何か物凄い大異変が起こるんじゃないかと思ってたけど、これが転移なら随分とあっさりね」
とリーリス
彼女らの脳内コンピューターが意識上に淡々とニュースを伝える。
『都市管理システムよりニュースです。全人工衛星との通信途絶を確認しました』
『予定時間を過ぎましたが、都市に損傷は確認されておりません。市民の皆様はご安心ください』
そして転移を確認するため待機していたボランティアからもニュースが入る。
『こちら惑星観測班ですー。これから惑星観測用衛星を打ち上げまーす。転移先がどんな星か、みんな期待していてねー』
語尾にハートマークか音符つきそうな語調である。
『転移確認班から報告でーす! 水平線の観測により、我々は今までとは異なる直径の惑星にいることは間違いありません。重力の強さも体感ではわかりづらいですが、明確に変化しています。惑星知性との接触で得た転移先予定の星の予測データとほぼ合致した数値だよ。私たちは無事、無事転移したみたいね』
この惑星の住人のほとんどは自分たちの住む惑星を、単に『惑星』とだけ呼んでいた。
始祖人類の発生した星は『始祖の惑星』である。
(転移先の、この新しい惑星はなんと呼ぶべきかしらね)
アリスはそんなことを思っていた。
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