第13話天空城の資格
俺たちは次のダンジョンを目指して馬車で移動していた。
「あんな人たちもいるんだねー」
青ちゃんが街のほうを振り返って言う。
二人ずつ座れる座席が向かい合っているのに、青ちゃんは俺の隣に寄り添っていた。
肩同士が触れ合っている至近距離。
青ちゃんは相変わらずいいにおいがする。
「チンピラみたいで怖かったぁ」
「全員が常識的でマナーがしっかりしている人たちばかりではないですから」
「あの人たちもゲームの世界って知ってるのかな」
「ただの現地人だと思いますよ」
「あの人たち、結構強そうだったのに、湊くん、完全に圧倒してたね?」
「いやいや、ハッタリですよ。レベルが上っぽい人たちでしたし全員が一斉に攻撃してたら、さすがにひとたまりもありません」
俺は苦笑いして首を振った。
「先生、湊くんのこと見直した」
「そ、そうですか……?」
満面の笑みで言われると、こっちも照れる。
「最初逃げるのかなって思ったけど、立ち向かっていったじゃない? あの人たちは私狙いで……湊くんが私を守ろうとしてくれてるのがわかって……もう、ね……」
青ちゃんが膝をすり合わせてテレテレしてる。
可愛いのでしばらく眺めていよう。
一歩間違えれば青ちゃんはさらわれていた……もとい、強引に仲間にされただろうし、第三者は誰も助けてくれない雰囲気だったから、かなり危険な状態だった。
本当に守れて良かったと思う。
「あ。湊くん、あれ」
また振り返った青ちゃんが何か見つけた。
俺も釣られて後ろを見ると、中型の馬車がこちらに走ってきている。
中をよく見ると、さっきのパーティが乗っていた。
たまたまか? 方角が同じだけ?
報復か何かだったら面倒だな。
警戒していると、【聖騎士】が窓から顔を出した。
「聞いたよ、あんたたちのクエスト! お詫びと言っちゃなんだが、手伝わせてくれ!」
「あ、結構です。それじゃあ」
俺は愛想笑いして、御者に「後ろの馬車撒いてください」とお願いする。
「面倒事かい!? 腕が鳴るねぇ……っ!」
と御者はむしろノリノリで馬に鞭を入れて速度をぐんぐん上げていった。
「いい人だったのかな?」
「先生、いい人はほしい人材をあんなやり方で仲間にしようとしませんよ」
「それもそっか」
「ただ、人格的に難はありますが能力は確かです。この先、あの人たちがいたほうが心強いですか? 今回も推奨外エリアでのクエストですし」
「ううん。私は、湊くんがいるだけで十分心強いから」
そのセリフを頭の中で繰り返し、じいんとする。
憧れの先生にこんなことを言われる世界線があったとは……。
こんなことを言ってくれる青ちゃんを守りたい。一ミリの隙もなく完璧に。
ちらっと後ろに目をやると、後方の馬車はずいぶん小さくなっていた。
『ガーディアンズ』はオープンワールドゲームで、プレイヤーはどこにでも行ける自由なゲーム設定となっている。
レベルによって推奨、推奨外はあるが、好きな場所に行けるのだ。
俺たちは馬車を麓で降りて、渡り廊下ならぬ渡り階段がある山の中腹を目指す。
天空城自体大きなダンジョンのため、目的を同じくする冒険者を道中ちらほらと見かけた。
山道は前のパーティが出現した魔物を倒してくれたので、俺たちは少し後ろを歩くだけで戦闘しないで済んだ。
「ラピュタって簡単に行けるんだね」
「簡単ではないんですよ」
「そうなの?」
渡り階段を進むと、大きな踊り場に到達する。俺たちが密かにお世話になったパーティが進むと、巨大な半透明の壁が俺たちの前方を塞いだ。
壁には手の込んだデザインが施されている。
「え。行き止まり?」
「はじまりました。あれ見てください」
「あ……」
前のパーティが出現した門番相手に戦闘をはじめた。
――――――――――
天空の門番アークバイソン
LV21
HP219
SP34
――――――――――
牛型の大きな魔物は、手にした大斧を振り回しながら先行したパーティを翻弄している。
「どこにでも行ける設定ですが、場所によっては、進む資格があるかどうか試すための敵が用意されているんです」
「めちゃツヨじゃん……」
青ちゃんが不安で泣きそうになっている。
「ここを通れないなら、進んでも歯が立たないということです」
ベシャン、という嫌な音がすると、パーティの一人が大斧でミンチにされたところだった。人間も魔物同様に死体は消えてなくなるらしい。
一人が落ちたことでパーティは攻守のバランスを失い、一人また一人と敵に排除されていき、五人目……最後の一人がやられて戦闘終了。
塞いでいた壁がなくなった。
「……」
青ちゃんがドン引きしている。ぷるぷる震えながら敵を指さした。
「た、戦う、の?」
「はい」
「さっきの五人パーティ、一分くらいで全滅したよ?」
「あの人たちとは戦術が違いますから。……俺を信じて任せてください」
「うん。わかった……!」
「討伐クエスト対象の一体です。はりきっていきましょう」
「よ、よし、頑張るっ」
と言いつつ一歩も動かない青ちゃん。
仕方ないので手を引いて踊り場に入る。
あの壁が後ろを塞ぎ、逃げ道が絶たれた。
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