追放された底辺職「盗賊」はゲーム知識で無双する。一緒に召喚された先生も外れジョブだったけど効率的に成り上がります
ケンノジ
第1話先生と俺が異世界に召喚された物語
「どこだここ……?」
さっきまで補習授業を受けていたのに、気づいたら豪勢な大広間にいた。
「たった二人、だと……?」
玉座にいる王様らしき男が彫りの深い顔を険しくしていた。
周囲を見回すと、王様の他には片眼鏡をかけた線の細そうな男とゴツい装備をしている騎士風のオッサン、あとは上質そうなローブを着ている魔導士風の男が六人。他兵士と文官数人。
この場にいる全員が、俺たちを見つめていた。
俺は制服のままで手ぶら。周りには机も椅子も荷物もない。英語のテストが非常に悪かった俺だけのために、先生が補習授業をしてくれていたのが、つい一〇秒ほど前のこと。
教室内がビカーッッッって光ったと思ったらこの状況だ。
いきなりのことに驚いた。
けど、よく見ると、まったく知らない光景ではなかった。
「ここって……もしかして――」
「ここ、どこ? さっきまで教室にいたのに」
一緒に俺とやってきてしまった先生は、あちこちを見回している。
「王様? 騎士? 何ここ、どこっ!?」
混乱している中林青葉先生――通称青ちゃん――は困惑しているようだった。
学校で一番の美人といえば、たいてい女子生徒を思い浮かべるだろうけど、うちの学校に限っていえば、青ちゃんの名前がまず上がる。学校外でもそのことが知れ渡っているくらいの、超がつくほどの美人だった。
その青ちゃんは、ちょっと泣きそうになって取り乱していた。
「わ、私、残業で職員室戻らないといけないのに! 今日は早く帰れるから家でビールたくさん冷やしてるのに! ナニココ! 夢っ!?」
「先生、たぶん、俺たちこの世界に呼び出されたんじゃないですか」
「呼び出される? どういうこと?」
「これ知ってるっていうか、見たことないんですけど見たことあるというか」
「ナゾナゾ……?」
「いや、そうじゃないんですけど」
見たことはないけど、見覚えのある顔や風景が目の前に広がっていた。
思っている通りなら、これはVRゲーム『ガーディアンズ』の世界だ。
全世界数百万人がプレイしたと言われる超人気ゲームで、今はもうサービス終了しているけど、以前俺が大ハマりしたゲームだった。
青ちゃんはぎゅむっと目をつむって現実逃避している。
「次目を開けたら教室で――」
「先生、これマジのやつですって」
「ううん、絶対夢だもん……」
だもん、って。二四歳になるオトナ女子のセリフとは思えないな。
青ちゃんは、まだぎゅーっと目をつむって受け入れない気満々だった。
「焼き鳥テイクアウトして、枝豆茹でて冷ましてる間にお風呂に入って……」
「先生、仕事終わったあとの流れ全部聞こえてますよ」
青ちゃんは、テンパるとメンタルが年齢の半分くらいになるらしい。
「そんなに目をつむって無防備なままだと、おっぱい揉みますよ?」
「いいよ。夢だし」
「い、いいのかよ……」
予想外の回答に逆に戸惑った。
けど、言った手前もあるし、現実だとわかってもらう一番手っ取り早い方法なのかもしれない。
俺は覚悟を決めた。
「…………じゃあ、いっ、いきますよ?」
ごくりと息を呑み、そっと青ちゃんのEカップ(噂では)に両手をのせる。
うわ、俺青ちゃんのおっぱい揉もうとしてる……! 初揉みが青ちゃんとか、夢すぎる……!
十指をふにふにとやると、ブラジャーの固さと覆われていない箇所のふよんっとした柔らかさが指先から伝わってくる。
お、おおおおう……。こ、これが、OPPAIってやつですか。
ぱちっと青ちゃんが目を開く。じわじわと顔が赤く染まっていった。
「も、揉んだ!? 本当に揉んだっ!? 信じられない。生徒がそういうのするのって、問題なんだから!」
「していいっていったの、先生ですよ」
「で、でも、今のハラスメントだよ!? 教育委員会に言ったら大問題なんだからね!」
「先生、ハラスメントも教育委員会も、もうこの世界にはないんですよ」
青ちゃんが夢だ夢だと現実逃避したり俺が青ちゃんのおっぱい揉んだり、なんだかんだしゃべっている間、召喚した人たちはなんか揉めていた。
「何故二人なのだ。三〇~四〇人は一度に呼べるはずであろう」
「陛下……恐れながら、召喚陣が稼働するまで時間がかかってしまったせいかと思われます。それが原因で予定時間より遅く召喚がはじまったようでございます」
片眼鏡の男が淡々と告げると、陛下と呼ばれた男はやっぱり王様のようで、頬杖をついたまま不満げなため息をついた。
「魔族どもに太刀打ちするためには、数多の英雄を召喚するしかないという話であろう?」
「仰る通りでございます」
「それがたった二人では」
「しかしながら陛下。英雄召喚の儀は、九割方最上級職を持って現れます。最上級職は、一騎当千……いや当万と呼べる存在。二人とはいえ、かなりの戦力になるでしょう」
騎士のオッサンが王様に尋ねた。
「陛下、どうなさいますか」
「呼んでしまった以上、やり直しは出来ぬ。戻す手立てもない……だな?」
「作用でございます」
片眼鏡が相槌を打つと、青ちゃんがぴくっと反応した。
「じゃあ私のビールは!?」
「先生ビールよりも戻れないことを心配してください」
「――そこの二人、よく聞くがよい!」
王様が俺たちに話しかける。
「聞こえていた通りである。我々は、魔族との戦争に勝つため、英雄召喚の儀を行い、そなたらをこの世界へ呼び出した。……どうか我らに力を貸してほしい」
「戦争? 魔族? そんなこと、いきなり言われても……」
まあ、そうだよな。青ちゃんの反応は当然だ。
ゲームの流れと同じで、俺はこうなることは知っていたけど、命を懸けて戦えっていきなり言われても、相当な覚悟が要る。
これはゲームじゃなくてリアル。オートセーブもリトライもない。死んだらそれまでだ。
深刻にならざるを得ない。
隅から隅まで知っているゲームの世界だったとしてもだ。
「英雄には、望む物を与えることにしておる。武器も道具も、食べ物も飲み物も金も異性も、望むがままだ!」
それだけ英雄とされる人物は特別らしい。
すると、シュバっと青ちゃんが挙手した。
「お酒飲みたいって言ったらくれますかっ?」
「当然」
「じゃやります!」
「早ぇよ」
大人にとっての酒ってそんなすごいのか? 命がけの戦いをあっさり承諾してしまうくらいのヤバさなのか?
「ありがとう。そなたらが力を貸してくれれば、魔族撃退の日も近くなるであろう」
「俺まだイエスって言ってないのに巻き添え食ってる!?」
……まあ、いいか。俺はこの世界がどうなっているのか知ってるし。
さっき王様たちが言ったように、俺たちが最上級職で、なおかつ俺のゲーム知識があれば楽勝。勝ち確だ。
「英雄たちよ。そなたらのステータスを開示し、我らに示してくれ」
「ステータス? 何それ」
青ちゃんが首をかしげた。ゲームとかやったことないっぽいもんな、青ちゃん。
「先生、ステータスっていうのは、人それぞれにある能力の通信簿みたいなものです。それを見てもらって、あの人たちに英雄だと認識してもらいましょう」
「そんなのがあるんだ。えと、どうやればいいの?」
「初回に限り、名前を言って、最後にステータスと言えば現れます」
「潮崎くん、詳しいね?」
「まあまあまあ……俺かじったことあるんで」
謙遜してかじったなんて言ったけど、膨大な時間を溶かしたゲームだ。他のゲームはさほどでも、『ガーディアンズ』だけは自信がある。
「それじゃ行くよ。――中林青葉、ステータス!」
――――――――――
中林青葉
職業:呪術使い
LV:1
HP:7
SP:15
攻撃:3
防御:5
魔攻:4
魔御:7
素早さ:3
称号:召喚されただけの女
スキル:呪い(E+)
――――――――――
「なんということか」
「【呪術使い】だと……!?」
「あれだけの時間と費用をかけて召喚したのが、【呪術使い】ごとき……」
広間が嫌なざわつき方をしているのは、【呪術使い】が底辺職のひとつだからだろう。
ついでに称号も酷い。村人レベルのパンピーが持ってるのと遜色がない。
王様も片眼鏡も騎士のオッサンも、天を仰いだり頭を抱えたり、険しい顔つきで目を細めたりしている。
ブルブルと手を震わせる王様が、肘置きを拳で叩きつけると一気に場の緊張感が増した。そして赤黒い顔で不満を一気に吐き出した。
「外れではないかッ! これのどこが英雄だッ!」
「へ、陛下。英雄召喚といえども、一定確率でこういった者も呼び出されるのです……だから数十人とまとめて召喚するのが本来でして」
「それが出来ておらぬからこうなったのであろう!」
おろおろする片眼鏡と苛立つ王様。
青ちゃんは目をぱちくりさせて「え、外れ?」と自分を指さしてきょとんとしている。
明らかに場違いなリアクションしてる青ちゃん可愛い。
【呪術使い】は、弱体化(デバフ)を主体としたスキルしか覚えないため、使いどころが限定的で汎用性の非常に低い職業だった。
ソロ活動だとすぐに限界がくるので九割方のプレイヤーに敬遠されている。
よっぽど暇か物好きな上級プレイヤーがサブキャラの一人として遊びで育てるのが【呪術使い】だ。
サービス開始当初は、パーティに一人いればありがたい、という位置づけだったのだが、それも序盤のほうだけ。
ゲームを進めるにつれて、デバフ能力のメリットよりもデバフしか使えないパーティメンバーがいるデメリットのほうが上回るようになる。調整されないままだったので【呪術使い】は運営に見放された職業のひとつと呼ばれていた。
……けど、必ずしもそうではない。
ゲームを好きになりすぎたあまり、俺は不遇職の活かし方を模索しまくったことがある。そして活用法を発見したのだ。
騎士のオッサンが渋い声で王様に促した。
「陛下、落ち着いてくだされ。まだ一人おります」
「……そうであったな。……少年よ。ステータスを見せてはくれまいか」
「わかりました」
王様たちが言う英雄職のどれかであれば、青ちゃんを守りながらこの世界で楽に生きていける。
俺は、ふうと深呼吸して声を上げた。
「潮崎湊(しおざきみなと)、ステータス」
――――――――――
潮崎湊
職業:盗賊
LV:1
HP:8
SP:6
攻撃:4
防御:2
魔攻:2
魔御:2
素早さ:8
称号:召喚されただけの少年
スキル:盗む(E+)
――――――――――
広間がまたざわついた。
王様も片眼鏡も騎士のオッサンも、青ちゃんのステータスを見たときと同じリアクションで嘆いていた。他の人たちもガックリと項垂れている。
「うわ。俺もかよ」
底辺職、その二だった。
「外れではないかッ! しかも二人とも! この召喚にかけた時間と費用が割に合わん! そこらへんの小僧と同じではないか!」
英雄がやってくると聞かされていた王様が怒るのは当然だろう。
現れたのがパンピーの美女と高校生なんだから落胆するのも仕方ない。
けど、嘆くなかれ。
【盗賊】は、これはこれで使い道のある職業だったりする。
ゲーム攻略、難敵撃破……これらをメインにゲームを楽しむつもりなら、初心者や中級者はまず素通りする職業。
初期スキルの【盗む】の成功率の低さがまず問題で、なんでこんなダメジョブ作ったんだろうって首をかしげるくらいだった。
だが俺は、【呪術使い】のとき同様、活用法を模索し続け、ダメジョブと言われた【盗賊】の運用法を完全に理解した。
「王様、これは当たりです」
俺は自信を持って発言した。
「これのどこがだ! 卑しい【盗賊】に胡散臭い【呪術使い】……英雄とはほど遠いではないか!」
「個人では外れかもしれませんが、ニコイチで考えると超優秀で、戦場で無数の敵をなぎ倒すような大火力はありませんが――」
「こっちはそれを求めておるのだ! 英雄とは、そういうものであろうッ」
あ、ダメだ。取り付く島もないな。これだから素人は……。
火力火力、一も二もなく火力……。
爽快で単純で、装備やスキルの使いどころを工夫する必要がないもんな、火力さえあれば。
このゲームは奥が深くて、浅い部分しか知らない人は火力ありきで考えがちだけど、必ずしもそうではない。
「召喚に失敗したなどと、他国に知られては恥となる」
「王様――! 廃プレイヤーの俺からすれば、成功の部類で中途半端な【魔剣士】や【銃魔導士】に比べれば」
「黙れぇぇえいッッッ! そっちのほうがマシだわいッ! もうよい。即刻ここから出ていけ! 言うことを聞かねば、そなたらを『呼ばなかった』ことにもできるのだぞ!」
暗に抹殺すると脅された。
「……呼んでおいて、勝手ですね」
「そ、そうよ。こんな仕打ち、ないわ」
もう話すことはないと言いたげに、王様は玉座を立ち広間から出ていく。片眼鏡もあとに従った。
「なんなのよ、もぉー! 感じ悪いわね!」
青ちゃんは、ぷんぷん怒っている。機嫌悪そうに頬を膨らませている青ちゃんは、やっぱり可愛い。
「君たちに罪はないが、陛下の意向は絶対だ。こちらの都合で振り回して申し訳ないと思うが、悪いことは言わん。従ったほうがいい」
騎士のオッサンはそう言うと、お金をくれた。二人合わせて一〇万リン。
「ありがとうございます。……潮崎くん、これいくらくらいになるか、わかる?」
青ちゃんがこそっと訊いてくる。
「日本と同程度の貨幣価値と考えていいですよ」
「少ないが、持っていってくれ」
騎士のオッサンもこれ以上取り合うことはなく、マントを翻して去っていった。
「本っっっっ当に少ないわね!? 迷惑料としちゃ安すぎない!?」
怒ったかと思うと、ぺたりと座り込んだ青ちゃんは、しくしく泣き出した。
「着替えもないし住むところもないしお風呂上りのビールもない……部屋で全裸で泥酔もできない……」
普段そんなことしてたのかよ。
「先生、元気出してください。俺がどうにかします」
「え?」
俺たちは兵士に連れられて、城から追い出された。
青ちゃんは不安いっぱいみたいだけど、俺は違った。
【盗賊】と【呪術使い】がいて、俺の知識があるならこの世界で十分勝てる――。
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