第61話

「お姉ちゃ──うわ、なにこの魔力濃度」


 兄2人と入れ替わるようにしてパン屋へと入ってきたのは……クーリアの妹、リーフィアだった。

 入って早々、リーフィアはパン屋内の魔力濃度の濃さに、思わず顔を顰めた。


「あぁ、ごめんリーフ。すぐ戻す」

「それはいいんだけど……何があったの?多分お姉ちゃんの機嫌が悪かったか、怒ったんだろうけど……」


 さすがクーリアの妹か。クーリアのその時の様子を勘で言い当てる当たり、姉のことをよく分かっている。


「……お兄ちゃんがきた」

「あぁ…」


 それだけでリーフィアは納得してしまった。どれだけ妹達に信用されていないのか……少し兄2人に同情してしまう。


 ちなみにこうしてリーフィアと話している間にも、クーリアは放出した魔力を再吸収していた。

 ……だが、魔力の再吸収など、そんなこと普通出来はしない。クーリアの魔力制御の高さがなせる技である。


「……相変わらずの制御力だね」


 半ば呆れた様子でリーフィアが呟く。


「まぁわたしにはそれしか取り柄がないからね」

「そんなことないよ!」


 リーフィアが思わず強く否定した。

 クーリアは自身を過小評価することが多い。だが、リーフィアはそれを止めて欲しいと常に思っていた。

 姉が正当な評価を受けない。それがとても悔しいのだ。


「……ごめん。つい」


 それを知るクーリアだからこそ、自身を過小評価しないようにしていた。今回は本当にうっかりだったので、素直に謝った。


「はぁ……まぁ、今に始まったことじゃないし、お姉ちゃんの気持ちも分かるんだけどね」

「なら」

「でも!お姉ちゃんは十分すごいんだからね!他の誰かが認めなくても、わたしが認めるから!」

「はいはい」


 ほんとに分かってるのー?と疑いの目で見られるが、クーリアはその目を無視する。すると聞く気がないと分かったのか、リーフィアは諦めた表情をしてため息をついた。


「はぁ…まぁ、いいや。それで体調は?」

「全然大丈夫だよ。心配かけてごめんね?」

「なんで謝るの!お姉ちゃんは悪くないでしょ!」

「う、うん、まぁそうなんだけど……つい、ね」

「……ほんとに住まなくていいの?」


 改まった様子でリーフィアが尋ねてきた。住むとは、クーリアがフェルナスの屋敷に住むということだろう。

 ちなみに今現在リーフィアや兄2人は別のところに住んでいる。色々と事情があるのだ。


「うん。わたしは、ここが好きだから」


 じーっとリーフィアがクーリアの目を見つめる。だが、すぐにまたため息をついた。クーリアが曲げるつもりがないことを理解したのだ。


「お姉ちゃんらしいね………で、気になってたんだけど、その狼、なに?」


 一転して興味津々といった様子で、クーリアが抱くリーヴォへと視線を向ける。


「あぁ、この子?リーヴォ」

「契約獣?」

「そうそう。撫でる?」

「え、いいの?!」


 そう言うが、もう既にリーフィアの手は撫でる体勢に入っていた。似た者姉妹である。


 クーリアが初めてリーヴォに会った時と同じように、まるで壊れ物を扱うかの如く、リーヴォを撫でた。するとリーヴォは満更でも無い様子で、目を細めて尻尾を揺らしていた。


 ………ちなみに、クーリアがリーヴォをリーフィアに抱かせなかった理由は、リーヴォが離れようとしなかったからであった。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る