第5話 家族

家に帰って、服を洗ってみたけれど、ブラウスの方は綺麗にならなかった。

元が白いブラウスだったから仕方がない。

捨てようかと思ったけれど、何となくそのまま干した。


借りた服も洗濯した。

レギンスは、やっぱり新しいのを返そう。

週末にならないと買いに行けないから返すのが遅くなってしまうけど、その分何か差し入れも添えて。


ふと、こんな時母親がいたら相談とかのってくれるものなのかな、と思った。

それともこういうことは母親には相談しないのかな。


サイドボードに置かれたフォトフレームの中の母はいつも笑っている。



ネットで調べたら、一番近いところで、天野のショッピングモールの中に入っているスポーツ用品店に、同じメーカーのレギンスが置いてあることがわかった。


週末になったら買いに行こう……




「ただいま」


玄関の鍵が開く音と共に、父の声が響いた。

仕事から帰って来た父は、一度玄関で帰宅を知らせ、リビングの母の写真に向かって、もう一度「ただいま」と言った後に、洗面所へ向かうのが日課になっている。


「お帰り。お父さん、今日はご飯どうした?」

「帰りに食べて帰った」

「そっか。あのね、週末に天野のショッピングモールまで行くけど、何かいるものある?」

「福寿のあんこパイ」

「好きだね」

「お母さんも好きだったよ。未来も好きだろ?」

「うち、みんな好きだよね」


消防署に持って行く差し入れもそれにしよう……




高2の時に亡くなった母は、今はリビングの写真の中でいつも笑っている。

残された父とわたしは、お互いできることをしていこうと約束した。

夕食は無理に作らない。

お互い余裕があったら作って、その時は相手に連絡を入れる。

家事は、やれる範囲でやって、時間がない時は家事代行の人を頼む。

それでうまくやってきた。

ありがたいことに、父はわたしが女だからという理由で家事をおしつけたりしない人だった。

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