第2話 出会い

学校が終わって、いつもはJRの駅までバスに乗る道を歩いた。

家に帰ったら、何かを考えてしまう前に眠りにつきたかったから。

とにかく疲れてしまいたかったから。


途中、なんとなくコンビニに寄った。


コンビニの自動ドアが開くと、サラリーマン風の男性がアイスコーヒーのカップにフタをしながら出てくるところだった。


突然、その男性の後ろに小学生くらいの男の子がぶつかった。

その拍子に、男性の持っていたカップの中身が全部わたしにかかってしまう。


男の子を母親が怒った。


「お店の中で走っちゃダメって言ったでしょ!」


母親のきつい物言いに、男の子が泣きだしてしまった。

前に赤ちゃんを抱いていた母親は、その状態で男性に何度も何度も頭を下げて謝っていた。


それを見て、そっとコンビニを出た。



コンビニの入り口から少し離れたところの壁にすがって、着ている服を誰にも見られないようにしゃがんだ。

白いブラウスとスカートはコーヒーのせいで茶色くなってしまっている。


服、すぐ乾くかな……

でも、乾いてもひどい有様に違いないけど。


何もかもうまくいかないな……


ひどく、落ち込んでるのは、こぼれたコーヒーのせいじゃない。




「どうぞ」


突然目の前にペットボトルを差し出された。

見上げると見知らぬ男が目の前に立っている。


「君が一番の被害者だって、どうして言わなかったの?」

「見てたんですか?」

「ちょうどレジのとこにいたから」


そう言いながら、その男はわたしの隣にしゃがんだ。


「あのお母さん、赤ちゃん抱いてたし、男の子はもうめちゃくちゃ怒られてたから。わたしのことでまたお母さんを困らせたくなかったのと、男の子が泣くのも見たくなかったから」


男は優しい顔でわたしを見ていた。


「さっき買ったばかりだから、ちゃんとキャップも閉まってるよ」

「ありがとうございます」


お礼を言ってペットボトルを受け取った。


ペットボトルについた水滴は、キラキラ光って、とてもきれいだった。


自分のペットボトルを口にする男の隣で、わたしもキャップを開けた。


「家近いの?」

「JRで30分くらいです」

「じゃあ、その服だとちょっと困るね。うち、ここから5分もかからないけど、うちじゃあ来にくいだろうから、職場の方に来ない? ここから近いから。助けてあげられるかも」


ナンパ?

でも、そんな風には見えない。


黙っていると、男は立ち上がって、わたしの真正面に来ると手を差し出した。


「東奈消防署の眞白修一です。職場というのは消防署だから。これで少しは信用できそう?」


消防士さんなんだ。

眞白さんが差し出した手を掴んで立ち上がった。


「日向未来みくです。お言葉に甘えさせてください」


眞白さんに頭を下げた。


「じゃあ、これ、こう、前に抱えるように持って。そうしたら少しは恥ずかしくないでしょ?」


眞白さんが自分のリュックを渡してきた。


「でも……」

「オレのはほら、黒いし、コーヒーくらい拭いたらとれる」


そう言って、わたしの白いトートバックを代わりに持ってくれた。

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