第24話 君のいない毎日はモノクロで
きっとすぐに退院してくるはずという淡い期待は裏切られ、山石君の入院は長引いていて全然退院する気配はなかった。この間毎日メッセージのやり取りはしてきたものの、山石君から帰って来る返事はいつももうすぐ良くなるの一点張りだった。
1週間経った月曜日になってやっと山石君が復帰してきた。帰ってきたのは良いことだけど、ただでさえ色白だった顔色はさらに白さを増してもはや蒼白だった。動きもなんだか元気がない感じだし。
「山石君、やっぱりまだどこか悪いの?」
放課後の2人での練習をしていた合間に聞いてみた。
「うーん、まだはっきり分かんないんだけど……実は色んな検査をしたりするから、また学校休まなきゃいけなくなりそうなんだよね。」
「そっか、うーん……まぁ、今はそれでいいよ。でもね、山石君。私はいつでも待ってるからね。山石君が何を言ってもどうなっても変な同情なんてしないし、いつも通り聞き流していつも通り一緒に練習するから。気を遣ってあげたりなんかもしない。だからね、気楽に話したくなったらいつでも何でも話していいからね。」
「……分かった、ありがとう。」
でも、山石君がそれ以上病気について話すことはなかった。
次の日からまた山石君は休みがちになり、学校に来る日の方が少なくなっていった。それでも、学校に来たら放課後一緒に音楽室に残っていつも通り練習をして過ごしていた。学校に来ない日も毎日連絡は取っていて、画面の中では山石君は相変わらず素直で優しくて元気だった。
外には雪がちらつくようになりコンクールの全国大会まで1ヶ月を切った頃、山石君は本格的に学校に来なくなり、入院生活が続いてるみたいだった。
「つばめ、最近元気なさそうだけどコンクールが近づいて緊張してるのー?それとも……誰かさんのことが心配でたまらないって顔かなー?」
「やめてよ、ゆっこ。別に緊張もしてないし、山石君の心配もしてないもん。」
「あれれ?誰も山石君だなんて言ってなかったけどな。」
「……もう、いじわる。」
「とか言いながら、ずっと山石君から連絡来ないか気にしてるじゃん。」
無意識にスマホの画面を開いて通知を確認していたのを目ざとく見つかってしまった。
「そんなに気になるならお見舞いに行けばいいじゃん。まだ1回も行ったことないんでしょ?」
「うん。まぁ、倒れてすぐに押しかけてからは行ってないけど……別にお見舞いする理由もないもん。」
「理由?そんなもん無くても会いたいからってだけでいいでしょ?」
「でも、迷惑かもしれないし……」
などなど行かない理由をもごもご喋っていると、裕子が突然乗り出してきて私の頬を両手で挟んできた。
「……なにを……」
「大事な友達がお見舞いに来てくれて迷惑なわけないでしょ。あんた、もし私が入院してもそうやって理由つけてお見舞いに来ない気?そんな薄情な人だったなんてねぇ……」
「そんなことないよ!ゆっこだったら毎日お見舞い行くよ!」
「でしょ?それなら山石君にも行ってあげなよ。あんた達友達なんでしょ?行かない理由が100あっても、行く理由が1つあれば行くの。ぐずぐず言って行動しないのが1番後悔するんだからね。」
「……うん、うん。私行ってくる!でも迷惑かもしれないから一応連絡は入れておこう。」
「それでいいよ。好きなんだったら、なりふり構わず行動あるのみよ。」
「す、好きっていうわけじゃ……」
「良い良い。春は短し、恋せよ乙女だよ。」
真っ赤になる私を見て裕子はケラケラ笑っている。裕子のおかげで一歩踏み出す決心をすることができた。ちょっと顔を見るだけでもいいからお見舞いに行ってみよう。そう考えるだけで目の前の景色がすっきりと色を取り戻した気がした。
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