異世界で紐解く二廻目の呪われた人生 〜前世から呪いを引き継ぎ、迫害されながらも魔術師の頂点を目指します〜

砂糖あずさ(さとあず)

第一章 幼少期 新たな世界編

プロローグ

『今日午前十時三十分ごろ、金沢市に位置する尾山神社で、不審な鉄製の箱が置かれているのを観光客が発見し、警察に通報しました。警察の調べによると、箱のサイズは長さ十五センチ、幅二十四センチ、高さ十センチで、箱には文字の様なものが刻まれており、中には赤色の液体が入った細長いガラス容器が複数含まれていました。』


『専門家によると、液体は毒性を持っていないことが確認されました。近日中に詳細な分析結果が報告される見込みです。なお、先週の土曜日から付近で同様の箱が発見される事件が相次いでおり、警察は同一人物またはグループの犯行の可能性を強く疑い、捜査を進めています。』



 *



「今日のホームルームで言ってた事件。お前どう思う?」


「あぁ、あれな。大量の血が入った箱だろ?」


 電車内でたまたま居合わせた同級生の声に、耳を傾けていた俺は、携帯のニュースアプリでその事件の詳細を探していた。


 不審な鉄製の箱。

 細長いガラス瓶に入れられた赤い液体。

 箱に刻まれた謎の文字。


「そうそう!まぁ血かどうかはまだ分かんねえけどな」


「いーや!絶対に血だ。最近起きてる行方不明事件の被害者の血に間違いねえよ」


 同級生の発想は、誰も信じない突飛なものだが、俺だけはその可能性を信じることが出来た。


 俺を中心に奇怪な現象や不可解な事件が多発していたからだ。

 それこそ同級生が話す事件のような。


「なぁ、明日から夏休みだしよ、俺らで犯人見つけね?」


「うわ!それめっちゃアリ!」


 楽しそうに現場に向かう計画を立てる同級生たち。

 やがて二人は電車を降りていくが、俺はその計画を止めることはしなかった。


 俺がかかわった人間は何かしら事件の被害に合うからだ。

 まるで呪いのように。


 それに気づいたのは地元の人間のおかげ。


 俺を怖がり、遠ざけた結果、奇怪な現象や不可解な事件はピタリと止んだ。

 それ以降、地元で俺は居ない者として扱われ続けている。


「――あ、やば。別の車両乗ろ?」


「なんで?あー。そだね」


 地元の駅に近づけばこの通り。

 近づこうともされない。


 気が付けば俺の車両からは人影が消えていた。




 最悪の気分のまま、線香の香りがする家へと帰って来た。

 自分の誕生日に家が線香の香りで充満するのは、やや複雑な気分だ。


 ドアを開けると俺を呼び止める声が聞こえたが、耳を傾けることなく俺は自室の二階へ駆け込んだ。


 高校生活、最後の夏休みを控えた今日、成績表を持ち帰っていた。

 出来の悪いそれを見せて、更に気分を下げることは避けたい。


「明日でいいか」


 成績表を机の上に置き、布団に散らばる小説を一冊手にとった。

 気分を紛らわせるには、没頭できる小説が丁度良い。


 物語に集中し始めたころ、怒鳴るような足音で誰かが階段を駆けあがってくる。

 ドアが勢いよく開くと、姉の非難に満ちた視線が、俺に突き刺さった。


「ちょっと!ママがごはんだって言ってんでしょ!早く降りて来なさいよ!」


 腕を前に組み、俺を見下ろす姉は、勉強や運動、全てにおいて優秀で、天才だ。

 誇らしいはずだが、人を見下す態度がやけに鼻につく。


「あぁ~。何?この成績表。勉強も出来ないんだったらバイトでもすれば?社会経験も積めて友達もできるんじゃない?」


 姉はにんまりと笑みを浮かべ、成績表をちらつかせながら部屋を出て行った。


「——あ、ちょっと!」


 急いでベッドから降り、姉を追いかけた。


 一階では既に母の手に成績表が渡り、視線が注がれていた。


 息をのんで立ち尽くす俺の前で、母はため息を漏らしていた。

 そして、これまで何度も聞かされた、いつもの説教が始まった。


 「——こんな成績じゃ、将来どうするつもりなの?大学もまともに行けないわよ。もっと真剣に勉強しなさい」


 そして、再度ため息をついた後、最後に新しい一言が追加された。

 母の視線は成績表から離れ、家に一枚だけ飾ってある父さんの写真へと移っていた。


「あの人の血が濃いのかしら。」


 父さんのことを言い出すなんて、今までなかった。

 母の目は冷たく、ゾッとした。


 まるで、「お前も、もうこの家にはいらない」そう言われているみたいで、胸が窮屈になる。


 母は俺の噂のせいで仕事を辞めさせられている。

 きっと俺の存在が邪魔なんだろう。


「もういい、わかったよ」


 周りの人間から居ない者として扱われ、避けられる。

 最後の繋がりであった家族からも、必要とされない。


 今まで感じていた、怒りと悲しみが言葉と共に吐き出された。


「そんなに俺が嫌いなら出てくよ。ちょうど学校も休みだし住み込みで働ける場所探して、もうこの家には戻らない!」


 母は変わらず父の写真を眺め、何か思い詰めた様子だった。

 俺は返事も聞かず、自室へ荷物をまとめに向かった。




「ねぇ、ほんとに出てったりしないよね?」


 突然の姉の声に、荷物をまとめていた手が止まる。

 いつもは高飛車な姉の声が、今は不安げで小さい。


「出ていくよ」


 この環境で生活をするには精神的に、体力的にも限界がだった。

 生きたまま死んだような扱いを受けるくらいなら、苦労をしてでも環境を変えるしかない。


「あ、あのね。これ、ママがあんたにって。出ていくなら、ついでにお父さんの形見を持っていきなさいって言ってた」


 渡されたのは古びた、小さな鉄製の箱だ。

 父の形見を「ついでに」とは、まるで父さんの存在を、この家から消し去りたいかのように感じた。


「な、なんだよ。これ」


 電車の中で調べたニュースが頭によぎる。

 確かあれも鉄製の箱。

 

 恐る恐る蓋を外し始める。


 中身が見える直前、急に頭痛と吐き気が沸きあがってきた。


 手は震え、体中、滝の様に汗が流れ始める。


「なぁ、中には――」


 言葉を発した瞬間、姉の姿が消えていた。

 ほんの数秒、目を離しただけ。

 どんなに静かに動いても、服が擦れる音くらい聞こえるはず。


「どこ……に……」


 体は金縛りにあったように自由に動かせない。

 まるで全身から血が抜け落ちていくみたいだ。


 それにあたりの音、光までが徐々に消えていることに気がついた。


 (呼吸が上手く出来ない……!)


 視界もぼやけ、意識が薄れていく。


 そんな絶望的な状況の中、箱の中で光る、が目に入った。

 その輝きは今の絶望的状況を和らげる温かい光だった。


 俺は最後の力を振り絞り、蓋を取り外した。

 

 中には、シンプルな作りの指輪が入っていた。


 指輪を目にした瞬間。


 全ての五感が、活動を止めた。




++++++++++++++++++++++++++++++++++++


初投稿です。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます!

少しでも気に入っていただけましたら

フォローや評価、応援、レビュー等よろしくお願いいたします。


次話から異世界に突入します。展開が遅いかもしれませんが、お楽しみに。

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