お水の神様がついているのに、お水にならないのは不幸な事だ
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「やだ、ダンテあんたただのイケメンじゃなかったのね!本当に天才!最高!結婚して!!」
やりやがったのだ、このイケメン!
伊達に王国一番の魔術師と呼ばれているわけではない。
「どうだ見直したか!私にかかれば不可能はない!」
わはははと悪役のように笑うダンテに、今日はミシェルも異論はない。
ミシェルの目の前にあるのは、どこからどうみても、栗とキノコの炊き込みご飯だ!完璧だ!
「栗がほくほくで、キノコがしゃきしゃきで、出汁がきいてておいしいわ!どうやってあのもち米みたいなオイチャを、こんなに粒がしゃっきりしたお米みたいに仕上げたのよ!天才じゃない??」
そう、ダンテは、ミシェルに聞き取り調査をして、ミシェルの食べたかった炊き込みご飯の触感と、そして味を完全に再現したのだ!
当然、お茶碗などしゃれたものはないので、フルーツボールにこんもりと盛られたそれは、なんだか妙な感じではあるが、味は完璧だ。ミシェルは白旗完敗だ。見直した。
ダンテの屋敷は、ミシェルの目から見ると豪邸だが、本宅ではなく、別邸にあたるらしい。
ダンテの祖母が所有していたというこの邸宅は、繁華街からも歩いてすぐな、閑静な住宅地にある。
実家は人が多すぎて、魔術の研究に集中できたいとかで、ベアトリーチェを見送って(いや、まるっきり見送ってはいない。なんとか取り戻そうといまだに躍起ではあるが)すぐにこの、小ぶりな家に引っ越した、とか。
料理が趣味であるダンテは、この屋敷の台所で、晩御飯は忙しい中でも毎日自分でつくる。
ダンテは人嫌いという訳ではないが、研究に没頭するのに、人の気配はとても邪魔なものらしく、魔術師は、わりと高い身分であっても、使用人もおかずに、ダンテのような暮らしをしている連中は少なくないらしい。
さっさとこの鬱陶しい男と縁を切りたいのだが、どうにもこの男のメシはかなり美味しいので、それだけは縁を切ったらもったいないな、とミシェルは思ってしまう。
「もっちりした所を、分離魔力で整えて、粘着を抑えたのだ。それから普通のコメとやらは、赤い色ではないのだろう?白に発色する魔法粉をまぜて、あと出汁とやらは、凝縮魔術で魚を一匹粉にしたものを、混ぜ込んだ。栗やキノコはこの世界とお前の世界では、同じだというからな」
鼻のアナをちょっとふくらませて、ダンテはおおいばりだ。
ひらり、ひらりとフォークを蝶のようにフォークを翻して炊き込みご飯を食べているのだが、ダンテが食べると、炊き込みご飯が、まるでなにか長ったらしい名前のついたフランス料理にみえるから、お貴族様とは立派なものだ。
「ダンテ様、王国の最高の魔術を、こんな食事の為に使うなんて・・」
ダンテは胸を張っていばるが、カロンは困り顔だ。
「なにをいうか、カロン、食はすべての生命の源だ。食を軽んずるものは、命を軽んずる事と同じ意味となる。そこの食い意地の張った女も、この世界で食物を口にしたのが、この世界での全てのはじまりではないか。ああ、ベアトリーチェがもしも、あの時、召喚に成功して、果物の一口でも口にしていてくれていたら・・ううう・・」
また辛気臭いのがはじまってしまった。
「あー、はいはい、醜い女が間違いで出てきてしまってすみませんでしたね!」
ミシェルは悪態をついて、べーっと、舌を出す。
「お、、お、お前はこの私に、そんな侮辱を・・」
煽り耐性ゼロのこの男は、今度は真っ赤になって怒りに打ち震える。
(本当に、黙っていればいい男なのに)
鬱陶しいし辛気臭い上に、失礼この上ないが、こいつのつくるメシは実にうまい。
メシに罪はない。久しぶりの炊き込みご飯に、ミシェルはなんと、3杯もお代わりしてしまった。
「あんた本当に料理だけは最高よ。もうちょっと、大人の男のゆとりとか、そういう部分を学べばきっと、ちょっとマシになるわよ」
ミシェルは親切心からそう言ったのだが、またダンテの怒りを買ったらしい。
「マシとはなんだ!私はこの王国最高の魔術師で、」
「最高の割には、魔術に失敗して私みたいなの召喚しちゃってえらい目にあわせてるじゃないの!」
「あー!!二人とも、落ち着いて!」
また二人の程度の低い喧嘩が始まりそうになって、カロンが大急ぎで二人の間に入って止める。
「確かに、本当においしかったです、ダンテ様。神殿の奉納当番の日はに、オイチャの干菓子を持っていきますが、ダンテ様のタキコミゴハンも、持って行っては?これほど美味の、珍しいものであれば、きっと神殿の聖女様もおよろびになりますよ」
「なるほど、聖女様にか、よい考えだな、カロン」
「聖女様?」
ミシェルは食後の紅茶をいただきながら、聞いた事のない異世界の用語に反応する。
「ああ、聖女様だ。この国全体の結界を担当される、貴いお方だ。神殿の長の、その上に君臨されている、大変清廉なお心の持ち主だ。そうだな、しばらく聖女様にお会いしに行っていなかったし、当番の日に、もう一度タキコミゴハンを作って、聖女様に面会にいこうか」
ダンテも今回のタキコミゴハンは自信作だったのだろう。非常に機嫌がよい。
「ミシェルもおいでよ!聖女様はとても素晴らしい方だよ。お会いするだけで、心が晴れると評判なんだ。それに、聖女様の庭園は、今ユリが見ごろで、とてもきれいだよ。きっとミシェルも元気になるよ」
カロンがにっこりとそう誘ってくれた。ミシェルは、エンの件で、悲しそうな顔をしていたのだろう。
(あー、なんていい子なんだろう)
本当に、カロンはダンテの弟子なんぞしている場合ではないかわゆさだ。
「そうねえ、でもちょっと気分じゃないかもしれないわ」
カロンには和むが、でもミシェルは心の清廉な聖女様なんぞに、ぶっちゃけ興味はない。
どうせ子供のころから苦労もなく、蝶よ花よと、立派な環境で、立派な大人たちに、大切に、大切に育てられた女なのだろう。
清廉な心の持ち主なんぞ、人工モノならなんとでも出来上がる。ミシェルだって、両親を失う惨事に会い、田舎で息をひそめて暮らすようになるまでは、そこそこかわいい性格をしていたと、自分でそう思うからだ。
だが、聖女様とやらはには興味は全くなかったが、次のカロンの一言で、ミシェルはダンテのお付きとして、神殿にお邪魔する事を決める。
「聖女様の騎士は、聖女様を怖がらせないように、みんな見目麗しい、王国最高の美貌の騎士が交代で担当するんだよ。今月の担当騎士は、王族の近衛の騎士のアラン様だ。アラン様は近衛部隊で一番美しいと評判の、美貌の騎士なんだよ」
イケメン大好物のミシェルは、食い気味に即答した。
「いきます。いえ、つれてってくださいカロン様」
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