黒ずきんちゃんと光ずきんちゃんの巻

 私、光ずきんちゃんのことを崇拝しているの。


 彼女はお空からこの街を見守ってくれている救世主メシアのような存在で、ときおり天から降臨して私たちを助けてくれる。

 美しくて優しくて温かくて、とても慈愛に満ちているから、光ずきんちゃんの像をおうちに飾っている人も少なくないのよ。


 でもたまに、とつぜん天にかえっていってしまうの。



 ある日のこと。

 私は光ずきんちゃんをたたえる広場でハトさんにエサをあげていた。これらの鳥さんは野生ではないから、あげても大丈夫なの。


「光ずきんちゃん、いつも私たちを助けてくれてありがとう。ハトさんたち、いっぱい食べてね」


 すると辺りが急に輝きだし、空から光ずきんちゃんが降りてきた。


「黒ずきん、あなたはとても良い子ですね」


「ああ、光ずきんちゃん! なんて神々こうごうしいの」


「いつも私の鳥にごはんをくれてありがとう」


「いいえ、もったいないお言葉です。お店で出たパンくずですみません」


「とても美味しいパンくずだって、この子たちもたいへん感謝していますよ」


「えへへ。この街がいつまでも平和でありますように。さあ、召し上がれ!」


「ごっふぅ!」


 唐突なバードストライク。

 驚いて光ずきんちゃんを見やると、みぞおちにハトさんがくい込んでいた。


 光ずきんちゃんはそのまま天に召されていった。



 またある日のこと。

 みんなでおいもを持ち寄り、空き地で焼き芋大会をすることになった。


 本当は、おうちが倒壊した防災ずきんちゃんのためのもよおしだった。

 もちろん火を使うから、近くで大人が見守ってくれている。


「うぅ、みんなの友情に感謝するだす」


「何を言ってるの、防災ずきんちゃん、急に焼き芋が食べたくなっただけだよ」


「みんなの優しさに感激だす。ぐすっ」


「なんだかまぶしくないかしら?」


「どうしたの金ずきんちゃん。あっ、みんな上を見て、光ずきんちゃんよ!」


 まばゆい光とともに、空き地へ光ずきんちゃんが降り立った。


「みなさん、友達思いでとても立派ですね」


「こんにちは、光ずきんちゃん!」

「ああ、光ずきんさま……」

「ご来光のようだす……」


「みなさん顔を上げてください。いい匂いにつられて降りてきてしまいました」


「えへへ。光ずきんちゃんもどうぞお召し上がりになってください」


「はい、じつは焼き芋に目がないのです。では遠慮なく──」


「そろそろわたくしのくりも焼ける頃合いですわ」


「え? 金ずきんちゃん、いつの間にそんなもの入れたの?」


 バン!


「ごはぁ!」


 焚火たきびに近づいた光ずきんちゃんが突然、くの字に折れ曲がった。


 バン! バン! バン! バン! バン!


「ばっ! びっ! ぶっ! べっ! ぼっ!」


「ああ、光ずきんちゃん!」


「み、みんなが無事で……よかっ……た」


「光ずきんちゃーーん!」


 召された。

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