オーロラの雨

ろくろわ

オーロラの雨

 深夜2時。

 大通りから一歩外れたこの通りには、灯りもまばらで人の通りも殆ど無い。

 そんな外れた通りの中、まだ営業している喫茶店のカウンターで私は小説のコンテストに向けた構想を練っていた。

 コンテストの題材は「オーロラの雨」

 パッと思い付いたのはオーロラと雨の色のイメージ。そしてそこから美しく儚い恋が色付いていく話になる道筋は出来たのに、何処かで聞いたような話にしかならず、書き出したのは良いものの早速行き詰まってしまった。


 私は三杯目になるアイスコーヒーを頼みながら喫茶店の主人に話しかけた。


「ねぇ白崎しろさきさん。何か良いアイディアは無いかしら?」

「急に言われても困りますよ真冬まふゆさん。それで今回はどんな話なんですか?」


 私が白崎さんと呼んだ男は、この喫茶店の主人。

 そしてと言われるように、私は何度も白崎さんに小説の相談をしている。

 私は今、考えているオーロラのこと。そして雨を題材にした恋愛小説の構想について白崎さんに説明した。

 白崎さんは私の説明を一通り聞くと注文を受けたアイスコーヒーを私に出した。


「それでは真冬さんは今回の題材ののどちらに焦点を当てていますか?オーロラの雨って少しイメージが難しいですよね?どちらかと言うとオーロラのカーテンとか光、ベール、衣とかの方がイメージしやすいと思うんだけどね。ちなみに真冬さんは雨ってどんな雨だと思います?雨の様子によってその後の展開も変わると思いますよ」

「と言うと?」

「今回のオーロラの雨って題材、両方がメインになれると思うんだけどね。だからこそとも取れるしとも取れるような気がします」

「そうね。私はずっとオーロラが雨のように降り注ぐイメージだったよ」

「雨の様子でイメージが変わるよね。大粒の雨。小雨。晴れの中降り注ぐ雨。どんな雨なんだろうね」

「私オーロラって見たことなくてイメージが何処か遠かったんだけど、雨なら幾つも経験してるから何となく切り口が変わりそうな気がするわ。白崎さん有り難う。だけど日本でもオーロラが見えたら良いのになぁ。そうしたらもっとイメージが出来たのに」

「真冬さん。実は日本でも北海道とかでは条件が揃うとオーロラが見えたそうですよ」

「えっそうなんですか?」

「はい、まぁ殆ど見ることは出来ないそうですが。それとは別に実は真冬さん、貴方もオーロラに包まれているのですよ?」

「えっ?」


 白崎さんは驚く私を横目に喫茶店のマッチを取り出した。


「真冬さん。うちの店の名前知らないでしょう。まぁ看板も出していないから仕方ないのですが」

「そう言えば確かに私、この店の名前知らなかった」

「うちの店は店名を北極光といいます。北極光はオーロラのことなんだよ」

「そうなんですか?北極光って何か意味があるんですか?」

「うちの喫茶店、何でこんな遅くに開いているかこっそり教えてあげるね。この店はね、真冬さんの様に真夜中に活動する人達が寄り添える場所として遅くに開けてるの。作家さんの中には夜中に冴える人が良くいる。そんな人達がゆっくり書けるようにね。そしてその人達をベールで包みながら見守るって意味の店名だよ」

「じゃあここには他にも話を創作する人が来るの?」

「今は真冬さんだけかな。でも真冬さんの小さな才能がキラキラと輝くオーロラのようになびいて雨のように降り注ぐのを私は楽しみにしています」

「ねぇ白崎さん。それを、今の話を、この店の事を小説にして良いかしら?」

「今の話が小説になりますかね?」


 私は白崎さんの返事を待たずに書き出した。

 喫茶店オーロラに通う一人の名もない小説家。そこの主人は夜中に店を開け、お客さんの話を聞き、その才能の小さな雨にオーロラの輝きを与える。そんな隠れ家のような喫茶店を私は見つけた。

 恋愛小説ではなくなったけど素敵な話になりそうだ。

 そうだ、タイトルはこれにしよう。


「オーロラの雨」


 深夜3時。

 オーロラの中には溢れる雨が降り注いでいた。




 了

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オーロラの雨 ろくろわ @sakiyomiroku

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