「人」と言う名の獣
ふるみ たより
第1話 出会い
和室の真ん中には、大きな木製の机がドンと中心を陣取っている。
自分で語るのも何だが、この部屋は質素で目につくような家具は無い。
家族や友人からもよく指摘をされるが、改善しようとは一切思わなかった。
自分自身物欲はあまりないし、特段やりたいことなんて言うのもなく、ありきたりでありふれた人生を何となく送っている。
でも、誰しもそんなものだろう?
やりたいことがあって、目標に向かって生きている人間なんてこの世界に一握りしかいないのではないか。
そう感傷的に思考するほどに、目的や目標なんてものは持ち合わせていない。
なんて考えながら、昨日から高校生になった俺は机の上に置いた教材とノートとにらみ合う。
勉強は嫌いでもなければ好きでもない。
どうしてもどちらを選ばなくては殺されるとまで迫られれば、好きと答えるかもしれない。
勉強をしない理由もないので、小学校、中学校と深く考えずに学習をしていた。
そして、高校生になってもそれは変わることは無かった。
机の右端に置いた電子時計に目を向ける。
時間は午後6時を示したところだ。
「はぁ、もうそろそろか」
ピンポーン
案の定だ。
教育に熱心な母親は、高校から家庭教師をつけると一方的に決めつけていた。
別にそんなもの居なくても適当に勉強するのに、と思ったがいちいち反対するのが面倒に感じ、場の流れに身を任せた。
そして今日がその家庭教師の初訪問の日だった。
高校は地元でも有数の進学校だが、家から左程離れておらず、中学校時代の仲のいい友人もいた。
今日は高校生になって二日目ということもあり、友人や新しいクラスメイトから放課後遊ばないかと誘われたが、この為にわざわざ断ったのだ。
「はぁめんどくさいな」
そう一人言をつぶやきながら和室のふすまを開けて玄関に向かう。
本来であればインターホン越しに顔や声を確認することができるのだが、あいにく数日前にインターホンの画面が壊れたため、自分で歩いて玄関に行く必要があった。
やや重い足取りに鞭を打ちながら、トボトボと廊下を進んで玄関にたどり着いた。
「どーぞ」
わざわざサンダルに履き替えて、玄関の戸を開けるのが面倒だったので、少し声を張って外にいるであろう家庭教師に声をかけた。
ガラガラガラ
徐々に戸が解放する。
そして目の前に現れたのは、華奢で華麗な一人の女性だった。
「”きさらぎみお”と言います。今日からよろしくお願いいたします」
その女性は玄関の戸を開けるなり深々とお辞儀をした。
先ほどまで面倒くさいと思っていた自分に一発殴りたいと思うくらいの礼儀の正しさ。
「きさらぎみおさん…あ、僕はなつめしゅうや、季節の夏に目、秋に心で愁、それで也で夏目愁也です」
「夏目さん、よろしくお願いいたします。私は二月の如月に美しい桜できさらぎみおです」
これが俺と、家庭教師の彼女との出会いだった。
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