溶ける

片眼の兎

第1話

生ぬるく

どんよりと湿った空気が

纏わり付く


嗅ぎ慣れた鼻は

腐敗の臭いが判らず

家を漂う

臓物の臭いも

薄くなった着物に染み着いた

獣のような臭いも


秋の涼やかな風のように

通り過ぎ

不快の跡だけを残す


時折

女房は何処へ行ったかと

頭を過る


其れ程迄に

溶けた女房を

見やる


嗚呼


己の脳味噌も

女房程に

溶けとるんやろなあ


鼻から

赤い筋の混じった

脳漿が流れる

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溶ける 片眼の兎 @katameno-usagi

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