おひめさまごっこ

木目ソウ

第1話

 昼。

 少女の町に、ミサイルが落とされた。

 学校から帰ると、少女の家は爆散していた。

 鉄の飛行機が空をとんでいる。

 夕闇におおわれ、おおきな鳥にみえた。

 次に破壊するものをさがすため、夕空をくるくるまわっている。


 少女は廃墟から、使えそうなものをさがした。

 がれきの下に母の指輪をみつけた。

 死体はみつからなかった。

 茶色のものがころがっている。それは、少女が大切にしていたクマのぬいぐるみであった。

 ひろいあげると、ぱらぱらと音をたてて、塵になった。

 ビー玉でできた目玉だけは、焼失せずにのこっていた。煤でよごれていたけど、まだ少女をみつめかえしていた。

 少女はそれをぎゅうとにぎりしめた。


 ランドセルは捨てることにした。

 大した思い出も、大した物品も入っていないそれは、逃げることに決めた少女には、不要な物であった。


 山の方に歩いた。

 生存者とやけどをおった人々は、黒い影となって、山にむかっていたから、それに追従した。

 町はまだ、火と銃の音がする。


 やがて夜がやってくる。

 月明りが山にふりそそぐ。

 ふりむけば、まだ銃の音がきこえ、死の気配がてまねきしているようだった。

 少女は音をきこえないふりをして、木々のすき間を歩いた。


 紫色の光につつまれた湖で、少女は水を飲んだ。

 幻惑的な色彩をおびた鹿が、対岸から少女をみている。

 鹿は森に逃げていった。

 少女はその足跡を追いかけた。

 森の木々のゆらぎのなかに、おおきなバスをみた。

 それは大きな黒猫の影だった。




 少女は森のなかに家をみつけた。

 木でつくられた二階建ての家だった。

 あちらこちらに風化のあとがあり、蔦がからまっている。

 窓はひび割れがひどく、中を確認できない。

 呼び鈴を鳴らすと、かわいらしい鈴の音がきこえた。

 反応がなかったので、少女は無言で、玄関戸をひらいた。

 廊下には燭台がいくつか備え付けられていて、蝋燭に火がともっていた。

 すぐ近くに階段があった。てっぺん付近は暗闇におおわれていた。少女は手探りで階段をのぼった。登りきってすぐの部屋に入った。

 中は真っ暗であった。床に落ちていたマッチ箱に数本のマッチが入っていた。一本に火をつけて、様子を確認する。みわたすが、なにもない。机もなければ、窓も、ベッドもない部屋だった。しずかだ。

 少女は目をつむった。そうすると、子宮にいたころの記憶が、よみがえってくるようだった。

 燭台をひとつてにとり、少女は階段をおりていった。


 家全体から、物体を構成する気配をかんじた。

 この家は生きている。

 とびらをひとつあけると、ピンク色の絨毯が敷かれた、リビングがあった。灯りがともっている。中央のテーブルに顕微鏡によくにた小型の機械がおいてある。

 その機械のレンズの先に、黒い光……すこし粘性を含んでいることがわかる物質がが、無音であつまっている。少女は理解した。これは、自分がのぞむものを手にいれる機械なのだと。


 黒い粒はしだいに人の形になった。

 少女は女の手をおもいうかべた。

 黒色のそれは、すこしずつ指になり、しなやかな骨格のまわりに皮膚をくみつけはじめた。

 少女はつくられたてのひらをにぎりしめた。

 そして、本能的に、少女はこの家の主が自分なのだとさとる。

 

「私の名前はアルベリア」

 少女の手の中にあった、クマの目玉が、すべりおちていった。(山を歩く時、ずっと大事ににぎりしめていた)

『アルベリア』

「私はこのお城の姫。ユーストラ公国の民を守る義務がある」

 それが本名であるか、あるいは、そう思い込んでいるだけなのか、判別するには、材料が足りない。

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