悪魔と呼ばれる悪役貴族に転生した俺、破滅フラグを壊したら最強になったので平穏に暮らしてみた
YMS.bot
第1話 悪役貴族、転生
……知らない天井だ。
俺はぼぅっと天を見上げ、そんな事を呟いた。
知らない天井、え? 俺は飛び上がるように起き上がり、周りを見つめる。
明らかに現実離れしている煌びやかな部屋。寝転がっていた天蓋付きのベット。
「え……何処? ここ……」
俺はアパートで一人暮らしの貧乏社会人。こんな物語の中でしか見た事が無いような金持ちの家に居ることなんて絶対にありえない。
だって、昨日の夜はいつも通り、仕事を終えてから帰宅して、酒でも呑みながら、ゲームをしていただけ。
俺はすぐさまベットから降りると同時に気付く。何だか視界が低くないか?
俺は急いで部屋の片隅に置かれた鏡を覗き込む。
「え?」
そこに移りこんだ自分自身を見て、目を丸くする。
黒髪黒目の小太りな男の子がそこには居た。俺は言葉を失う。
これ、誰? いや、待て。俺は顔をじっと見つめ、思い出す。
「この顔……見た事あるぞ。そう!! ユベル!! ユベル=アマルティア!!」
俺が眠る直前までやっていたゲームに出てくる序盤の悪役。
悪役らしく何処までもゲスで、意地汚く、邪悪。それでいて、悪辣で無慈悲。
奴隷を物のように扱い、人の生き死にすらも自分の手のひらの上だと勘違いしてるクズ野郎。
そんなクズ野郎に俺が、なっている?
ヒンヤリ、と俺は背筋が凍るのを感じた。待て、それだと俺って、もしかして、16歳までしか生きられない? だって、ゲームのユベルって確かそこで死んでる……。
「……ま、まずくないか? いや、落ち着け。まだ、そうと決まった訳じゃない。これは他人の空似の可能性がある!!」
あまりにも唐突な展開に俺の頭は大混乱。
それでも努めて冷静に。落ち着こうと深呼吸を繰り返す。
そんな時だった。コンコン、と優しげなノックが二回、響いた。
「お坊ちゃま。失礼致します」
「え?」
ガチャリ、と遠慮がちに開かれた扉から出てきた女性を見て、俺は絶句した。
その女性を俺は知っている。でも、それ以上に目を引いたのは――。
何でエロい下着姿なんですか?
その女性は雪のように白い髪の上にメイドが身につけるようなカチューシャをつけている。
顔立ちも可愛らしくまるで妖精のようだ。でも、首から下はとてつもなくエロい。
黒を基調としたスケスケのブラジャーと黒いスケスケのパンツ。そして、下腹部から伸びる黒のガーターベルト。なんというか、彼女の純粋さに対して、身体が不釣合いすぎる。
それにスタイルも良いせいで、目を離す事が出来ない。
彼女の名はリリィ=ピュワー。
ここ、アマルティア家の新人メイドであり、俺こと、ユベル=アマルティアにあてがわれたメイド……そう俺は記憶している。
リリィは俺を見つけると、目を丸くした。
「あ……お、起きられてたんですね」
「え? あの……その格好は……」
「も、もしかして、お好みではありませんでしたか!? も、申し訳ありません!! すぐに更に過激なモノに着替えてまいりますので!!」
「いや、違う!! ちょっと待って!!」
ユベル、グッジョブ。と心の中で一瞬思ってしまった俺の雑念を消し去る。
俺はリリィに問う。
「お、俺って……ユベル=アマルティア、だよな?」
「は、はい。そうですけれど……どうか、されましたか?」
ビクビク、と怯えた様子を見せるリリィ。
その瞳も細やかに揺れていて、身体にも冷や汗なのか、汗が伝っている。
そんなにも緊張しているのか。俺は一旦、ベッドに座り込み、溜息を吐く。
それと同時にビクン、と大きくリリィが肩を震わせた。
「も、申し訳ございません!! わ、私の不手際で!! どうか……どうか、お許しを!!」
と、リリィが慣れた様子で膝を折ろうとした瞬間、俺は声を上げる。
「そんなにビビらなくても、あ、いや……えっと……あー、くそ、どうしたらいいんだ」
完全にリリィが俺に恐怖している。それは間違いなく、俺というか、ユベルという男が過去にしてきた事の影響。
俺が困惑していると、意を決した表情で身体を震わせながら問う。
「お坊ちゃま? あ、あの……どうかされましたか?」
「何でもない。それと、リリィ。そんなにビビらなくても何もしない。心を入れ替えたんだ」
「…………」
「信用できる訳ないよな、こっからだな」
俺は心の中で盛大に溜息を吐いた。
最初の評判が最悪すぎて、相手に何を言っても、裏があるんじゃないかと勘繰られる。
だったら、態度でそれを示すしかない。俺は服装に手を掛けると同時にリリィがすぐさま立ち上がる。
「お、お坊ちゃま!! お召し物は私が」
「リリィ、座ってろ。このくらい自分でやる」
俺は部屋の中にあるクローゼットから適当な黒服を選び、それを適当に着る。
それにアワアワと冷や汗を流したまま困惑した様子のリリィ。
「リリィ、服を着ろ。それじゃあ、風邪を引く」
「お、お坊ちゃま?」
「後、お坊ちゃまやめろ。ユベルって呼べ」
「そ、そんな恐れ多い……」
「良いから。はい、繰り返す!! ユベル!!」
「ゆ、ゆ……ユベル……さま……」
困惑したままのリリィに無理矢理声を掛け、混乱しながらも状況を進めていく俺。
思考するよりも先に態度で示せば、多少なりとも変わるだろう。
リリィはいそいそと持ってきていただろう紺色のメイド服に身を包む。
それからリリィは口を開いた。
「あ、あの……これからお父様とお母様との食事の時間が……」
「分かった……とりあえずは現状を把握しよう」
とりあえず、自分自身が『ユベル=アマルティア』だという悪役なのは分かった。
だとしたら、次に知るべきは自身の現状とアマルティア家の事だ。
この家、俺の知っているゲーム世界なんだとしたら、最低最悪だ。
俺が部屋から出ようとすると、リリィが慌てて部屋の扉を開けようとし、俺は口を開く。
「リリィ、開けなくていい」
「で、ですが……」
「開けなくていい。俺が自分で開ける」
俺は自らの手で扉を開けて、廊下に出ると、リリィがこちらです、と言ってから、歩き出す。
廊下も無駄に豪華な装飾や壷などが並べられていたり、恐らく父親であろう銅像が並んでいる。
悪趣味だな。
そんな事を思いながら足を進め、食堂に到着する。
リリィが扉を開けようとすると、ハっとなり、一歩後ろに下がる。
それで良い。俺はリリィを一瞥してから扉に手を掛け、開ける。
すると、そこには見た事のある二人が居た。
身体は完全に肥え、口元には髭を生やした燕尾服に身を包んだ男。イビル=アマルティア。
俺、ユベル=アマルティアの父だ。
もう一人は黄金色に煌く髪をこれでもかとボリューミーにし、身体中には宝石が散りばめられたアクセサリーをつけているいかにも、悪趣味な女。マル=アマルティア。俺の母だ。
「ユベル。おはよう」
「おはよう、ユベル。さあ、食事にしましょう」
「……ええ、お父様、お母様」
既に机の上には豪勢な食事が並べられている。
それを見た瞬間、俺のお腹が鳴り、俺はすぐに椅子に腰掛ける。ちょうど右斜め前には母、左斜め前には父が居る。
二人もまた優雅に食事を摂りながら、会話をしていた。
「そういえば、ユベル。明日、婚約者になるリュミエール家のご令嬢がやってくるらかな。しっかりとした『教育』をするように」
「そうですわよ。ここ、アマルティア家に相応しい淑女にならなければなりませんから。最初の『奴隷』としてよく使ってあげなさいな」
そう言ってから、母であるマルは目の前にあった食事に手を付け、口に運んだ瞬間。
目の色を変えた。それと同時に、ガシャン、という大きすぎる食器の音を響かせ、叫ぶ。
「誰!! この食事を作ったのは!!」
「わ、私です!!」
ヒステリックに叫ぶマルの近くに立ったのはリリィだった。
今日のご飯はリリィが作ってくれたのか。どれも頬っぺたが落ちる程に美味だ。
しかし、マルは食事を全てリリィの頭の上から被せ、叫ぶ。
「こんな不味い料理を私に食べさせるなんてどういう事!? 貴方、私にエサでも食べさせているつもり!?」
「も、申し訳ございません!! すぐに作り直して……」
「作り直す? どれくらいかかるの? ねぇ、私はすぐに食べたいんだけど!? 貴方のせいで、私の貴重な時間が失われるんですけど!! ねぇ! ねぇ!! ねぇ!!!!!!」
声を荒げ、リリィに詰め寄るマル。
リリィは身体をガクガクと震わせ、顔も青白くなっている。
俺が立ち上がろうとした瞬間、父であるイビルが冷酷な眼差しをリリィに向け、口を開いた。
「またか……リリィ、やはり、君は地下室に来なさい。君の価値はそれしかないようだ」
「ま、待って下さい!! それだけは!! それだけは……」
「私の決定に従えないかな?」
地下室……。その不穏な言葉の意味を俺はすぐさま理解した。
それを察したのか、リリィは顔を絶望の色に染める。俺はすぐさま食事を平らげ、口を開いた。
「お、おふぉうふぁま!!」
「何だい? ユベル」
先ほどまでの冷酷な眼差しを消し去り、優しい笑みを向けてくる。
気色悪いな、こいつ等。
俺はリリィを見つめ、口を開いた。
「ち、地下室じゃなくて、リリィを俺の奴隷にしたい!!」
「……そうかそうか。そうだな、お前も奴隷の遊び方を学んだ方が良い。よし、じゃあ、リリィを使って好きなだけ遊びなさい」
「やったぁ!!」
俺は適当に喜ぶふりをしてから、リリィに声を掛ける。
「じゃあ、リリィ。お部屋にいこっか」
「え……」
「ほら、早く」
俺はすぐさま椅子から飛び降り、リリィの手を掴む。その手は酷く震えていて、冷たかった。
俺は二人を一瞥してからその場を去る。
なるほど、そういう事か。マルはメイド長に次の料理を頼む姿を見て、俺は部屋を後にした。
やっぱりここは――悪魔の一族 アマルティア家で間違いないらしい。
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