第5話 一目惚れした彼女の名前
「まず、レジの人と彼女に謝ってください」
これで冷静になるとは微塵も思っていない。しかし、謝らせたかった。彼女を傷つけようとした事に対して蓮は腹を立てていた。なぜかは分からない。自分が傷つけられたわけではないのに。
「なんで俺が謝らなきゃいけないんだ!」
「まず、貴方がレジの方に怒鳴った事だ。どんな理由があれ男が女性に対して声を荒げて良い理由がないだろ!」
蓮は男尊女卑の意識はないが父親から"女性には紳士的に接しなさい"と育てられて来たのだ。そんな蓮からしたら女性を怒鳴るなんて言語道断だった。
「知るか、そんなもん!俺が買いたいっつってんだ!それを拒んで仕事しなかったあいつが悪いだろ!」
こんな暴論、初めて聞いた。しかし、こういう相手には正論を言っても聞く耳を持たない。
「貴方が油を買いたい理由はわかる。だからと言って皆が守っているルールを破っていいはずがない!」
とりあえず相手の言い分を理解し、そこで相手の問題点を伝える。怒っている相手にはこれが良いと聞いたことがある。今回の相手は"油が買えない"という点に怒っていると判断し、その点を共感、理解している事を伝え、そこから何が悪いのかを伝え方が良いと思ったのだ。
これで収まってくれたら良いのだがこの怒りようだどそうもいかないだろう。どうしたら怒りを収めてくれるだろうか。
そんな時に
「お客様、どうされましたか?」
誰かが呼んでくれたのか、それとも騒ぎを聞いて駆けつけれくれたのか。このスーパーのお偉いさんが登場してきた。
「...」
「おや、貴方、既にこのスーパーから出禁を伝えたはずですよ?」
「...え?」
こんな事があるだろうか?
「警察を呼ばさせていただきますね」
「頼む、それだけは勘弁してくれ!」
そう言われた男性は逃げるようにスーパーから去っていき、お偉いさんはレジ係の人と話した後、蓮たちの元に来た。何でも少し話がしたいのだが先に状況を整理したいので少し待ってもらいたいとの事だった。
数分後、スーパーのお偉いさんが蓮と彼女に話がしたいという事でスーパーのバックヤードで話をする事に。
「この度はお二人に迷惑をおかけして申し訳ありませんでした!お二人ともお怪我などはないでしょうか?」
「はい、俺は大丈夫です」
「はい、私も大丈夫です」
なんでも話を聞いているとあの男性は以前もこのようなトラブルを起こしていたらしい。というのも最初は小さい物だったというが最近は事が大きくなってきたので出禁を伝えたという物だった。
「しかしなんでまたスーパーに現れたんですかね?」
この地域にはこのスーパーだけでなく、他にも買い物出来る場所はあるのだ。なぜここに現れたのか。
「多分ですけど、他のところでも同じようなトラブルを起こしているのではないかと...」
「「あ〜...」」
2人の声が重なった。申し訳ないがとても想像出来る事だったのだ。
「すみません、お時間を取らせてしまって。まだお二人ともお買い物の途中でしたよね?」
「いえ、後はレジに通してお金を払うだけなので」
「彼と同じです」
「そうですか。ではこのクーポンを差し上げます」
受け取ったもの見ると5,000円分の商品券だった。
「流石に受け取れませんよ」
「いえいえ、受け取ってください。貴方たちお二人が行動に移さなければあの男性はレジの者に何をしていたか分かりません。貴方たちが表立って行動してくれてレジの者には被害が向かなかったんですから」
「う〜ん...」
本当に貰っても良いのだろうか?というのも今回の件に関してはお店が悪いところはあまり無いのだ。確かに男性をスーパーに入れたというのはセキュリティ上少し問題があるだろうが。だからといってこんな額のクーポンを受け取るのは気が引けた。
「またこのクーポンでこのお店で買い物をしてください。そして、今後はこんな事にならないようにちゃんと注意事項を社員やアルバイトなど含め全員に伝えるよう徹底するので」
「そういう事でしたら...」
ここまで言われては拒否するのも失礼だろうと思い受け取ることに蓮。彼にとってこれはとても大きかった。
「しかしお二人ともよく臆さずにあの男性に立ち向かいましたね。周りの大人は何も出来なかったのに」
「流石にあんな態度を店員さんに向けたので我慢できなくて...」
「私もです。あんな酷いことをなんで出来るんだろうと思うと...」
「お似合いのお二人なんですね」
「「え?!」」
びっくりした。そんな事を言われるとは思わなかったのだ。
「あれ、違いましたか?申し訳ありません!」
「いえいえ、大丈夫ですが...」
「わ、私たちは初対面なんです!」
それからはもう一度お礼と謝罪を言われ、スーパーのレジに戻り会計を終えた。荷物を詰めている間、彼女がやってきて隣で荷物を袋に入れ始めた。
「あ、あの」
「?」
「あ、ありがとうございました」
何のことだろう?蓮がポカンとしていると
「私の事を後ろに引き寄せてくれて。あの男性の手が伸びてきたとき、パニックになって何も行動できなかったので」
「あ〜、いえいえ。こちらこそ急に引っ張ってごめんなさい」
いくら危ない状態だったといえど女性を急に引っ張るのはよくなかっただろう。
「い、いえ。あのままだと何をされていたか...」
あの男性は彼女の顔を狙って手を伸ばしたように見えた。意図は分からないがあそこで何もしなければ絶対に良くない事が起こっていただろう。
「貴方が無事で何よりです」
そう伝えた蓮だったがなぜか返事がなく彼女は顔を赤くしたまま固まっていた。
「!いえ、心配までしてくださってありがとうございます!」
急に我に帰ったかと思うとものすごい勢いで荷物を入れ始めた。そして瞬く間に入れ終わるとカゴを返し出口の方に歩いて行った。
かと思うと彼女が戻ってきた。
「あ、あの!」
「は、はい?」
彼女は勢いよくこう尋ねてきた。
「わ、私は
宮橋純恋。それが蓮が恋に落ちた相手の名前だった。
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こんにちは、Ariesです。
ついに、蓮が純恋と会話しました。本当はもっと早くするつもりだったのですが色々書いてると長引いてしまい... お待たせしてしまって申し訳ありません。
さて、タイトルに書いてある"高校生活"ですがもうすぐ始まります。少し言い訳をさせてもらうと皆さんもご存知の通り蓮はあまり一般的ではない生い立ちを設定にしたのでその設定やどういう人物なのかを書いているうちに長くなってしまいました。
しかし、すぐに高校生活編を始めるので引き続きこのストーリーを読んでもらえると嬉しく思います。
このエピソードを読んだくださってありがとうございます。次のエピソードも読んでもらえると幸いです。
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