15. ぼくの追想(3)

 焚火のなかで、四通の手紙は、そこら辺に落ちていたまきとともに、火の肥やしになっている。これでもう苦しまなくてすむ。


 ぼくはあの手紙を読み返すたびに、前とは違う解釈をしてしまったり、行間に不穏なものが浮かんできたりして、不安を抱くことが何度もあった。


 そういったぼくの不安を横目にフレアは、わたしは先人の哲学を違った読み方で解釈する仕事だから、賛同できないのだと言った。


「ほんとうに……捨ててよかったの?」

「火の肥やしにするために持ってきたようなものだから」

「大切なひとからの手紙だから、いままで捨てきれなかったんじゃないの?」

「だとしたら、いつまでも持っておくべきではないよ。ぼくが消えたあとに、だれかに読まれたらいやだから……それに、なんの証拠も残しておくべきではないし」


 フレアは上着のすそをまくり、焚火に手をかざした。

 朝の澄んだ青空へと、うっすらと彼女の白い息が昇っていく。


「ぼくはこのあと、遺書を書くけど、フレアはどうする?」

「もし余っている紙があったらちょうだい」

「ペンは?」

「折紙をすることができるほど、わたしにこころの余裕はないから……あなただって、そうじゃないの?」


 焚火のなかに消えていった手紙。マリーヌによって書かれた手紙が焼失しても、彼女によって書かれた手紙であったという「事実」までもが、煙となって消えてくれるわけではない。


 それは、不幸なことだと思う。

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