第38話 無自覚な行動
まずは牛のリムからお世話をする。
ペリカにお世話の仕方を教えながら作業を進めていく。
「えーっと、餌はここから取り出してこっちに入れるよ」
「いれたのです」
「つぎはここからブラシを取り出してリムの体をきれいにしてあげる」
「こんな感じなのです?」
ペリカはガシガシとブラッシングをしている。リムは心なしか不満そうな顔をしている気がする。
「もうすこし優しくしてあげて。こんな風に……」
俺はペリカの手を持ち動かすことで教えてあげる。
「…………」
ん?ペリカがおとなしい。
「ペリカどうした?わからないところあったかな?」
「だ、大丈夫なのです!」
ペリカは耳をぴくっとさせそれから慌てるように首をぶんぶんと横に振る。
大丈夫そうなのでまたペリカがブラッシングしている様子を見る。
「……(リムよくやったのです。)ボソッ」
うん、先ほどと違いリムをいたわるようにブラッシングしている。少し丁寧すぎるくらいだが雑よりはいいので気にしない。
「で、あとは乳しぼりでここに牛乳を入れる容器があるからこれを下において始める」
それから実際に乳しぼりをやってみせる。
「こんな感じだけどどう?」
「おっきいのです」
「何の話だ」
「おっぱいです」
「…………」
「コウタはおっきい方が好きなのです?」
唐突に始まるその手の質問。これは何が正解なのか。
「大きさで好き嫌いの判断しないから何とも言えないな」
「ふーん、そうなのです?」
ペリカは大きくもなければ小さくもない。何がとは言わない。
「いや、それよりも乳しぼりやらないの?」
「やるのです」
ふぅ……、なんとか軌道修正ができたようだ。
これでリムの世話も終わったので次はステラたちのお世話に映る。
「ステラたちは基本餌あげるのと卵を回収するだけだよ。あとは床とか汚れてれば掃除くらいかな」
鶏はブラッシングとかないのでリムの世話ができるのであれば大丈夫である。
それから特に何事もなく作業を終える。
「これで終わりだけどどうだった?」
「これならボクだけでも大丈夫なのです。明日からもボクが担当してもいいのですよ」
手伝ってくれるのは普通にありがたい。
「それじゃあ、お願いしようかな。なにかあったら相談してね」
「任せるのです!何ならあと百匹くらい増やしてもいいのです」
それは無理じゃないかな。
「百匹は無茶だけど、増やすのは全然いいからね。対応できる範囲だったら大丈夫だしそういうのも相談してね」
「わかったのです」
それからペリカとともに家の中に戻る。
「すごくいいにおいがするのです!」
家の中に入ると甘い匂いとコーヒーの匂いが広がっていた。
「今日はアップルパイとコーヒーです」
コーヒーは珍しいね。リリアは紅茶がほとんどだったから。
「午前中に雑貨屋さんに挨拶したときに目についたからリリアさんにお願いしたのよ」
どうやらフー姉の希望のようだ。たしかフー姉はコーヒーをよく飲んでたな。
それぞれ席に着き早速ティータイムとする。
「うん、アップルパイ美味しいね」
アップルパイを食べると甘みと酸味が口に広がりとてもおいしい。
「それはよかったです」
リリアはニコリとほほ笑む。
「私も手伝ったけど本当においしいわね。それにしても王女様が料理をここまでできるようになっているのは今でも信じ難いわ」
「フーリアさん、それ昨日からいってますよね。失礼ですよ、もー」
フーリアさんにからかわれてリリアは少しむくれる。
「リリアちゃんはすごいのです。ボクはただ焼くか煮るくらいしかできないのです」
「ふふ、ペリカさん、今度教えてあげますよ」
「やったのです!」
ペリカの言葉にリリアはすぐに穏やかな顔になる。
ずいぶんと仲良くなっているなぁ。
そんなことを考えつつコーヒーを飲む。
「うん、コーヒーもおいしい。アップルパイとよく合う」
コーヒーは苦みと酸味を感じ、アップルパイの甘みと酸味にとてもマッチしている。
「うふふ、酸味が特徴の品種にしたのよ」
どうやらアップルパイとあうコーヒーを選んでくれているようだ。
「う~、苦いのです……」
ペリカは苦手なようだ。
「ペリカちゃん、ミルクとお砂糖を入れるといいわよ」
ペリカはミルクと砂糖をかなりの量入れていく。
なんなら追加のミルクを入れるために別のカップに半分コーヒーを移している。
「うん、これなら飲めるのです」
それはもうコーヒー牛乳では?
まあ、好みはそれぞれだしいいか。
それからペリカが家畜の世話を担当をすることになったことを話す。
「そうそう、これからペリカが家畜のお世話をしてくれるようになったから」
「任されたのです!」ムフー
「ペリカさんが担当してくれるならその分畑も広げれそうですがどうするのでしょうか」
「しばらくは現状維持でいいんじゃないかな。空いた時間はみんなと過ごせばいいし」
広げていたのは資金を短期間で貯めるためだったし、今は急ぐ必要もない。当初の目的通りにのんびりしていきたい。
「「「……………」」」
なんかみんなの視線が熱を帯びた気がした。
「うふふ、コウちゃんは私たちと一緒にいたいのね」
「…………まぁ、うん」
言葉のチョイスをミスったかな。フー姉にからかわれてしまった。
すると、ペリカが後ろから抱き着いてくる。
「ずっと一緒なのです」
「ああ!ペリカさんずるいです!」
リリアも対抗して抱き着いてきた。
二人に挟まれるような形になる。非常に恥ずかしいので離れていただきたい。
「ふ、ふたりとも離れてよ。フー姉からも言ってよ」
「それじゃあお言葉に甘えて私も」
「ちょっ!?なんで!?」
もうめちゃくちゃだよ。俺は三人にもみくちゃにされて何が何だか分からない。
みんなが満足するまで待つこと数十分やっと解放された。
「……堪能しました」
「そすか……」
なんかみんなつやつやしているように見える。
リアルでこういうコミュニケーションをする人がいないため慣れておらず俺はぐったりしている。
「そういえばフレイヤちゃんって精霊?なのよね。この世界だとどういう存在なのかしら」
フー姉がふと疑問を口にする。
「前きいた話だと精霊がいると空気中の魔素の濃度が濃くなるって」
「濃くなるとどうなるのです?」
「魔素にひかれてモンスターが住み着くようになるって……あっ」
そうだよ、モンスターの存在があったよ。
「何か対策をしないとまずいのではないですか?」
「そうだね、そのあたりはクリスさんが詳しいから相談してみるね」
「誰なのです?」
「研究者の男の人だよ」
あとでクリスさんに相談してみよう。早めに気づけて良かった。気づいたらモンスターが村を襲ってきたとか嫌だしね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます