第35話 俺が好きなのは……

「えーっとじゃあまずは、それぞれの仕事とか役割を考えようか」


「「「え?」」」


「え?」


 なんで3人ともキョトンとした顔をしているのだろうか。今後のそれぞれの生活の仕方とかそういう話し合いだと思っていたのだけど。


「私たちとコウタさんの関係性の話ではないのですか?」


「「うんうん」」


 え?いきなりですか?いきなりそこ突っ込みます?まだ早いといいますか、ちょっと心の準備が出来ていないといいますか、もう少し自分の気持ちを確かめたい。それに、ペリカもフーリアさんもこちらに来たばかりだし、生活に慣れて落ち着いてからでもいいと思うんだけどな。


「2人はまだ来たばかりでしょう?一旦、こちらの生活に慣れてからでもいいんじゃないかな」


「コウちゃん、私たちとしてもね自分の立ち位置が不安なのよね。もちろんあなたのことは信じているのだけど、一度言葉にして伝えてもらって安心したいのよ。だってあなたに拒絶されたら私たちの存在意義がなくなるもの」


 フーリアさんは優しいまなざしで理由を伝えてくれる。しかし、そのまなざしも若干不安そうに揺れているような気もする。


「そうなのです。不安なのです……」


 ペリカはうさ耳を折りたたみ不安そうな目線で吐露する。


「私は不安とは思ってないです。私としては3人揃ったので関係を進めたいと思っています」


 リリアはネックレスを握りしめてそう言った。


 今俺が出せる答えでいいのだろうか。みんなが納得できるような答えが出せるかわからないけど、俺の気持ちが分からないからこその不安であれば答えたほうがいいのだろう。


「わかった。とは言え何を話すんだ?」


「まずは私達の気持ちを知ったうえでコウタ様にこたえていただきたいです」


 何となく察しているとはいえ改めて面と向かって言われるのは恥ずかしいのだが俺は了承する。


「では、まずは私から。――――私はコウタ様を愛しています。他の誰よりも愛している自信があります。あなたの笑顔が好き。あなたの優しいところが好き。あなたのにおいが好き。あなたの声が好き。私のことをよく見てくれるところが好き。あなたのすべてが好き」


「ボクもコウタが好きなのです!ボクに人の温もりを教えてくれた。誰かといる楽しさを教えてくれた。誰かと食べるご飯はおいしいと教えてくれた。ボクの考えを認めてくれた。ボクという存在を受け入れてくれた。そんなコウタが好きなのです」


「私もコウちゃんを愛しているわ。あなたの強いところも弱いところもすべてが愛おしい。私のすべてを使って癒したい、甘やかしたい、尽くしたい。あなたの都合のいい女でいいから傍にいさせてほしいわ」


 みんなの言葉を聞き、思いの強さが伝わってくる。思いの強さが伝わるからこそ、ここで自分が軽薄に答えていいものか、本当にリリア達本人が好きなのか自信が持てなくなる。俺はリリア達をあくまでゲームのキャラとして好きなのではないか、そんな考えが浮かんでくる。


「みんなありがとう。……でもごめん。みんなほど強い気持ちかと言われると自信が持てない。中途半端な気持ちで付き合うのはしたくない。もう少し待ってくれないかな」


「え……、私ではだめ……?」


 リリアはハイライトの消えた目でこちらをみて呟く。


「いや、ダメとかじゃないんだよ。なんていえばいいか……。時間をもう少しいというか」


 うまく言葉が出てこない。


「一緒にはいられるのです……?」


 ペリカは不安そうな顔で問いかけてくる。


「うん、どんな答えを出すとしても一人にはしない。約束するよ」


 別に嫌とかではない。もう少しみんなと向き合ってから答えを出したい。


「大丈夫よ。私たちのことを真剣に考えてくれてるのよね」


 フーリアさんは慈愛を感じるまなざしで問いかけてくる。


「はい、嫌だとかではないんです。むしろ好きです。ただみんなの気持ちを知れば知るほど自分の気持ちが軽いものな気がしてきて。だから、もう少しだけ俺に時間をくれないだろうか」


「私は大丈夫よ」


「ボクもいいのです」


 フーリアさんとペリカは了承をしてくれる。


「好きな気持ちはあるのですね。……わかりました」


 リリアも俺の言葉がのみこめたのか了承をしてくれる。


「ありがとう」


 こうして、この話は俺の答えを保留にしてもらう形になった。それでも今の俺の気持ちとして拒絶ではないことは確認できたためか不安そうな表情はいくらかなくなったように思える。

 それから、この村での過ごし方などに話題が移っていった。


 一通り必要なことは話し終え、時間も遅かったのでログアウトした。


「はぁ、中途半端な答えでがっかりしただろうな」


 俺はベッドの上で今日のことを思い出す。

 みんなから俺への想いを聞いて嬉しいという気持ちに嘘はなかった。ただみんなほどの気持ちかというと自信が持てなかった。リリアと過ごし、ペリカ、フーリアさんの言葉を聞き自分の気持ちがとても軽薄なように思えたからだ。


 俺はみんなが好きだ。だけどこの好きというのはゲームのキャラとしてではないか。例えるなら、映画の登場人物が好きなこととそれを演じている役者自体が好きなことは一致しないといえばいいのだろうか。


 みんなは俺個人を見ているけど俺はゲームのキャラとしてみてはいないか。所詮相手はデータだけの存在であり、都合が悪くなればリセットしたらいい。そんな風に考えていないか。


 そんなことをずっとぐるぐると考え続けてしまう。のんびり牧場ファンタジーを始めて色々なNPCと交流しても特に今までと変わらずただのゲームの登場人物としてしか見ていないし、そういう風に接してきた。


 でもリリアが来て違和感を感じるようになった。FWOではわからなかった。でものんびり牧場ファンタジーのNPCと比較できるようになって何かが違うような気がした。具体的にどこが違うかはうまく言語化ができない。……なんだろう、ほかのNPCはそういう設定で行動しているように見えるといえばいいのか。反対にリリアは意思を持って動いているように見える。なぜかはわからないがそんな風に感じた。


 俺の気のせいと言われればそれまでだし、気にしたところで何が変わるのかはわからない。でも、ここで考えることをやめると取り返しのつかないことが起きそうな気がした。


 俺は今いる彼女たち本人が好きなのだろうか。


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