第26話 王女との再会

 FWOの管理者からメッセージが来てから数日が経過している。

 リリアーヌ王女はまだ来ていない。


「んー、一通り準備はできてるんだけど」


 いつ来るのか分からないためソワソワしてしまう。今は日課の作業も終わらせマロンを撫でながら過ごしている。


「ぶぅ~……」


「ごめんよマロン」


 すこし手が止まっていたのでマロンに指摘されてしまう。


「……ん?マロンちょっと待ってね」


 目の前に通知アイコンが表示されている。この通知はVR機器のシステムメッセージによるものだ。 俺はシステムメッセージを開き内容を確認する。


「あ、リリアーヌ王女が来たのか!」


 内容としては、ホームサーバーにリリアーヌ王女のAIがインストールされたことが書かれていた。待たせるのも悪いと思い、さっそくAIデータコネクト機能をメニュー画面から選択する。


「マロン今から新しい人が来るからね」


「ぷぅ」


 そして俺の目の前の床に魔法陣が現れる。それからすぐに魔法陣は光り輝き始めると人のシルエットが浮かび上がる。輝きも収まり魔法陣がなくなるとそこには、金髪ロングで碧いドレスを着た女性が碧い瞳をこちらに向けていた。


「おひさし「コウタ様ーーー!」ぐべしっ」


 リリアーヌ王女の姿が一瞬にしてブレて、気がつくと俺は押し倒され床に転がっていた。


「ああああ、この声、におい、お姿、純度100%のコウタ様です!」


「り、リリアーヌ王女!お、落ち着いてください!」


 俺は抱き着きながらスーハースーハと深呼吸して荒ぶるリリアーヌ王女を宥める。


「……申し訳ありません。少々取り乱しました」


 ……少々?……まあいいか。リリアーヌ王女は落ち着きを取り戻したようなので改めて挨拶から入る。


「お久しぶりです。リリアーヌ王女。お元気そうでよかったです」


「うふふ、お久しぶりです。コウタ様、私はもう王女ではなくただのリリアーヌです。どうかリリアとお呼びください」


「……うん、わかった。リリア、これからもよろしくね。リリアも様とかなしで呼んでくれないかな」


「そ、そうですね。コ、コウタ……様。無理です!」


 リリアは顔を赤く染め恥ずかしがっているのがとても伝わってくる。


「もう少し、その……関係が進んでから……(ダ、ダーリンとか)ボソ」


 関係が進んでから……つまりそういう意味ととらえていいのだろうか。いや鈍感系を気取るつもりは毛頭ないのでそういう意味として受け取ろう。そもそもリリアは、生まれ育った世界、家族や友人、地位全てを投げ捨てて俺のところに来てくれたのだ。生半可な気持ちではないはずだ。それに俺の気持ちとしてもAIデータコネクトの承認をした時点で決まっているようなものだ。やはり、ここは男の俺からいうべきだろう。俺は意を決して言葉として伝えようとする。


「リリア、聞いてほしい。まだこの世界に来たばかりで言うのもどうかなと思うんだ。だけど待たさせて不安な気持ちにもさせたくない。だから俺の気持ちを聞いてほしいんだ」


「コウタ様、今はまだこの関係でいましょう?」


「……へ?」


 あれ?俺の早とちり?勘違い男?……恥ずかしい。穴があったら引きこもって冬眠したい。俺の表情がよほどひどいものだったのかリリアは慌てて言い直す。


「そのおそらくコウタ様が言おうとしてくれた言葉は私の待ち望んだものだと思います。でも、まだ関係は進めることができないのです。約束がありますから」


「……ヤクソク?」


「はい。私がこの世界に来るために二人の協力者がいました。その二人も私と同じくコウタ様のもとへ行く目的を持っていまして、その三人でいくつか約束をしたのです。その一つが全員が揃うまでコウタ様との関係を進めてはいけないというものです」


「その二人って?」


「フーリアさんとペリカさんです」


 フーリアさんはライバル商会の策略で盗賊に襲われていたところを助けたのがきっかけで仲良くなった。ペリカは森のなかの深い穴に落ちて足を怪我し動けなくっていたところを助けたのがきっかけで仲良くなった。二人とも俺がFWOを引退する最後まで交流は欠かさなかった。自分でいうのもなんだがその二人とそういう約束をするということはその二人もってことか。え……もちろんうれしいけど、これ受け入れないとやばいよね?全てをかなぐり捨てて想い人を追いかけて拒否されたら発狂するよね?しかも一度こちらにくることを承認されているのに拒絶って鬼畜じゃない?俺なら発狂する。というかハーレム状態になるのは良いのか?一人しか選ばなかったら残りの二人が発狂する未来が見えるのだけど。


「そっか。リリアはさ、ハーレムって大丈夫なの?」


「………………」


 リリアは苦い顔をしている。やはり嫌な気持ちはあるようだ。


「……お二人の気持ちや覚悟は認めています。性格的な相性も悪いとは思わないです。なので拒絶するつもりはないです。ただ独占したい気持ちもあるので嫌だなとも思います。…………こんな風に思うのは醜いでしょうか」


「いや、醜くなんかないよ。好きな人を独占したいなんて当たり前の欲求だよ。だからその欲求を解消してあげるのは俺の役目だよ。正直に話してくれてありがとう。これからも不満や悩みは伝えてくれると嬉しい」


「はい!うふふ、末永くよろしくお願いしますね」


 なんかすでに付き合ってるような会話になっているけど気にしてはいけない。あくまで関係の進展は全員そろってからだ。それに不満な気持ちがなくなったわけではない。そこは俺の努力が必要だろう。


「ぶぅ~……」


「あら?この子は?」


「あーごめんよマロン。忘れてたわけじゃないよ。えっと、この子の名前はマロン」


「マロンちゃん、よろしくお願いしますね」


「ぷぅ」


 それからマロンとの出会いやこれまでどう過ごしていたかなどを語り合って過ごした。

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