第25話 神の褒美

とあるVRMMO内の出来事 リリアーヌ視点


 私が王城の一室で書類の確認を行っているとき突然視界が真っ白に染まった。


「え!?何事っ!?兵士状況を確認しなさい!」


 私は部屋の外にいるはずの兵士に聞こえるように指示をとばす。しかし、それにこたえるような物音は一切せず視界は白く染まったままだ。


「…………え?」


 どう対応しようか思案していると視界が晴れ、神殿を思わせる建物の中にいました。そして、目の前には白いひらひらした服装の神々しい女の人がいました。


「私は法・掟の女神テミスです。個体名リリアーヌ・サザランド、あなたは世界の秩序へ大きく貢献しました。そのため、掟によりあなたの望みを一つだけ叶えましょう」


「!!」


 と、とうとうやり遂げました。私の推測は間違っていなかったようです。よかった……。いえ、まだ喜ぶのは早いですね。まずは私の望みは可能なものなのかを知ってからです。


「私の望みは異界人であるコウタ様のいる世界へ渡ることです」


「異界人のコウタ……少々待ちなさい」


「はい」


 女神はそれから両手を胸の前に組み祈るような体勢になる。私はただじっとその様子を見ながら待ち続けます。その状況が数分経つと女神は体勢を戻しこちらに話し始めました。


「異界人のコウタの世界へ渡ることは可能です。ただし、条件として異界人コウタの承認が必要です。承認につきましては私の方で確認しましょう。それでは、これを受け取りなさい」


 私の目の前に蒼く透き通った球体が現れました。


「それは導きの宝玉。異界人コウタの承認が得られればその宝玉が光り輝きます。その状態の宝玉を手に持ち願えば異界人コウタの世界へ渡ることができます。……もし、承認が得られなければ宝玉は砕け散ります。その場合は別の願いを改めて叶えます。ここまでよろしいですか?」


 砕けることはないでしょう。コウタ様は私と再び会うことを約束しています。気にする必要はないでしょう。


「はい、女神様」


「世界を渡るとこの世界に戻ってくることはできません。そのため、この願いを取り消したい場合はその宝玉を砕きなさい。その宝玉はあなたの意思のみで砕くことができます。他の第三者に盗まれたり砕かれる可能性はありません。説明は以上です。不明点はありますか?」


 取り消しは世界がひっくり返っても無いでしょう。それに第三者に邪魔されないのも助かりました。警備の手配もしなくてすみます。


「いいえ、ありません。ありがとうございます」


「それでは元の場所に戻します」


 再び真っ白な視界になり少し経つと元の王城の一室に戻っていた。


 さて、色々準備を進めなくてはいけないですね。


・・

・・・


 あれから、私の受け持っていた仕事の引継ぎやこの世界からいなくなることの説得をしていました。以前からも伝えていましたのでそこまでもめることもなく終わりました。それに神からの褒美であればそもそも拒否すること自体恐れ多いというものです。


 そして、いまは協力者の二人と対面しています。


「それがコウタさんのもとへ行くための宝玉ね。……いくらでも出すから譲っていただけないかしら」


 フーリアさんが寝言を言っています。寝不足なのでしょうか。商会会長の立場ですから忙しいでしょうし寝る時間がなかなか取れないのかもしれないですね。


「フーリアさん、こちらの紅茶をお飲みになってはいかが?目がすっきりと覚めますよ」


「……ええ、いただきます。……それで確認ですけれど殿下がいなくなった後も王家の協力は引き続き行われるってことでいいのですよね」


「ええ。元々王家として対応しているものでしたので引継ぎも終えています」


「そう、それなら安心ね。このままいけば私もすぐにコウタさんのもとに行けるでしょうし」


「王女様、依頼された通りボクの一族の長に話は通して了承は得たのです」


「ペリカさん、ありがとうございます。それに、追放された身のペリカさんには酷な依頼をしてしまい申し訳ありません」


 私はペリカさんの一族に対してペリカさんと同じ仕事を依頼することにしました。私がこの世界からいなくなるからといってこの世界がどうでもいいかと言われたらそうではありません。そのため、引継ぎもしましたし、今後出てくるであろう穴、つまりペリカさんが抜けた時の対策も考えました。考えた対策としてペリカさんの一族に王家からの依頼という形にすることにしました。ただし隠れ里だったので使者を出す事が困難でした。そのため、ペリカさんにお願いすることになりました。


「別に大丈夫なのです。それに追放された原因はクリアしてるうえ大口の仕事を持って帰ってきたので、驚いて腰を抜かしたアホ面を拝むことができたのです。満足なのです」


「ふふ、それはよかったです」


 完全にやり残しはなさそうですね。これで憂いなくコウタ様とイチャイチャできますね。


「殿下、淑女同盟はお忘れではないですよね」


「……………」


 淑女同盟……はて?


「王女様、とぼけた顔してもダメなのです」


「……チッ。ええ、覚えてますよ。3人揃うまで関係の進展は無し、先にコウタ様に会った人は他2名のことを伝える……ですよね?」


「態度は若干気になりますが……そうです。殿下が約束を違えない性格なのでそこは信頼してますよ」


「別にいちゃつくのは問題ないのです。単純に制限がないと暴走してコウタの負担になる可能性が高いからブレーキ役が必要なだけなのです」


「まるで私が暴走する危険な女みたいな言い方ね」


「殿下だけではないでしょう。全員よ。お互いがお互いのブレーキ役よ」


「わかっています。冗談ですよ。……それと向こうに行けば私は王女じゃなくなります。なので殿下や王女様ではなくリリアとお呼びください。敬称も不要です」


「……リリアさんと呼ばせていただきますね」


 まだ少し躊躇いがあるのかフーリアさんはそう答えました。


「リリアちゃん!」


 ペリカさんは嬉しそうですね。なんだかこう素直に嬉しそうにされると照れますね。ペリカさんは年齢も近いですし話しやすいのでつい気を許してしまいますね。これがと、友達というものでしょうか。


「それではそろそろ行きます。もたもたしてるとコウタ様のほうが我慢できなくなって同盟どころではないかもしれませんね。その場合は不可抗力です」


「うふふ、すぐ行くわよ」


「そんな暇は与えないのです」


 私は軽く挑発をしその場を後にしました。今日はずいぶんと軽口を叩いてしまいました。このあとコウタ様に会えるということで気が緩みすぎていたかもしれません。それから私は王城の見晴らしの良いバルコニーに移動し、この生まれ育った世界に別れを告げる。


「さようなら」


 そう一言つぶやき私は宝玉を掲げる。そしてコウタ様のいる世界へ渡ることを願うと光り輝いている宝玉はより一層強く輝き私の意識が遠くなるのでした。

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