第8話 家族

 悲痛そうな甲高い鳴き声が聞こえてきた。さすがに気になるので様子を見に行くことにした。


 鳴き声の聞こえるほうへ向かうとそこには、足を怪我している薄い茶色の体毛をしたウサギがいた。足の怪我で動けないウサギはこちらに気づくと黙ってじっと見つめてくる。


「デジャブというか前にもこんなことあったな」


 思い出すのはFWOで助けたウサギの獣人。全身真っ白な毛皮に覆われ、ミディアムの黒髪にルビーのように赤い瞳をもつ獣人の女の子。あの時は、大穴に落ちて足を怪我して出られなくなっていたんだよね。あの子は元気にしているかな。ドジな面があるから少し心配だ。


 そして、そんな似ている状況を見過ごすことなんてできるわけもない。というより一般的な感性をもっていれば大体助けるよね。


 俺は傷薬を取り出し、なるべく警戒させないようにウサギにそっと近づき怪我をしている足に傷薬を塗る。すると怪我は徐々に消えていき、きれいさっぱり怪我がなくなったところで足がぴくぴく動き出す。足が動くことに気づいたウサギはその場でぴょんぴょんと跳び、足元にすり寄ってきた。


 とりあえず現状を確認するため鑑定をする。


<ウサギ 【状態】健康、ペット可>


 ペット可ってことはペットにできるんだろうけどどうしたらいいのかわからない。Tipsに情報はないか確認する。


 Tipsによると仲が良くなった動物に名前を付けることでペットになるらしい。


「なるほど。俺名づけのセンスないんだよなー」


 いつも名前をつけるのに困ったら食べ物の名前にしているので今回もそうするか。このウサギの特徴は茶色の毛だから茶色の食べ物にしよう。

 うーん、モンブラン?いや、普段呼ぶのに5文字は微妙に長い。モンブランだから栗…クリちゃんはちょっとあれだな。マロン……?うん、マロンでいいな。


「よし!君の名前はマロン。これからよろしくな!」


「ぷぅ!」


<マロンがペットになりました>


 マロンも無事ペットになったので村に帰還する。足は完治したと思うけど念のため抱きかかえて歩いた。


 その後特に何事もなく家につき、マロンにご飯をあげる。


「リンゴならたべるかな」


 ウサギを飼ったことはないため、ニンジンが好物という本当かどうかは知らない浅い知識しかない。 そのため、住んでいた森にあったリンゴなら食べたことあるんじゃないかなという考えのもとリンゴを与えてみる。


 マロンはリンゴを見ると嬉しそうにぴょんぴょん跳ね、リンゴを近くに置くと前足でリンゴを押さえつけながらシャクシャクと食べ始めた。どうやら、お気に召してくれたようだ。


 それからリンゴを食べ終えるまでマロンを見守っていた。ただご飯を食べているだけなのになぜこんなに可愛いのだろうか。


 食事を終えたマロンは俺のまわりをぐるぐると走り回り始めた。俺はまた見守り続け、時折手元で止まるのでその時は頭をなでたりして過ごした。


 そして、マロンは疲れたのか眠り始めた。


 マロンめちゃくちゃかわいいな。たったの数時間でマロンに心をわしづかみにされてしまったようだ。


「俺も今日は休むか。おやすみマロン」


 キリもいいので俺はログアウトすることにした。今日で気分が少し軽くなった気がした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る