プロポーズはマシンガンのように
第7話 13時すぎ、2回目の結婚の打診は絶叫とともに
「おお! おかえ……り……」
昼休みも終わり、会社へもどってきた
いっしょに行ったはずのパヌーも見あたらない。
とりあえず話せる場所へと
「まあ、あの、うまく、いかなかったのかなーなんていうのは、見ててなんとなくわかるんですけども、一応ですね、状況について、お聞きしてもよろしいでしょうか……?」
「…………ぱい」
「なんて?」
「…………失敗しました…………」
会議室に重い沈黙がおとずれた。
「
「ヒマリさんっていうのか……まああの、フラれることはよくあ、いやプロポーズはそんなにないか、でも世のなかにはそれなりにってこれじゃなんの慰めにもならんな……」
「フラれる……わからない……『はい』って言ってくれたのに、一度はうなずいてくれたのに、怒り出して、しまった……」
「
「いや、仕事に、支障をきたすわけにはいかない……出るよ」
ツイドリさんは重要な取引先であることもあり、涙のあとをのこしつつ、ともかくも一度姿勢を正してから受話器をとる。
「お電話代わりました、
という
『やーお忙しいとこすみませんな。念のための確認をしとかんとと思いまして、月末の入金、まちがいなくされると思ってよいですよね?』
社長が1億円をもっていずこかへと消えたあと、プロポーズにも失敗したしなんの金策もできていない。
「はっ、もちろんです」
とりつくろうためにとっさに答えてしまう。
『やーそれなら安心しましたわ。なんせ6000万円でしょ。いままでは毎月払っていただいてたのに、うちの社長が突然「3カ月ごとにまとめてやってくれ」とか言い出すもんですからね、どうもそちらの
受話器をおろすこともできず、思考がぐるぐると脳内を行き交うのを耐えるように、「ツーツー」という音が耳のなかに
「……なんて?」
おそるおそる、
「入金……確実にお願いしますよって」
そっと受話器をもどしながら
「社長と連絡は、とれてないよね」
「まったくダメだ……」
「そうすると……」
「やっぱり、結婚しか……」
「いや、そ、その、ヒマリさんとは、ダメ、だったんだろ……? ちょっと状況よくわかんないけど、そっちはたぶん一回ちゃんと時間あるときに考えたほうがいい気がするから、結婚どうこうは一回忘れようぜ。おまえの、人生に関わることだしさ。1億は、ほかの方法で、どうにか……」
「ほかの方法って、なにかある? 利息的に論外ではあるけど、サラ金にしたって1億なんて大金はそもそも借りれないはずだし、
「……おれも、知り合いの会社やってる連中とかに『もし、もしもの仮定の話だけど』っていくらか借りることできないかって聞いてみたんだけど……」
「せいぜい1000万円だった……」
「1億なんて、個人で、しかもこの短期間でどうにかできる金額じゃないんだよ本来。どうにか達成するためには、通常じゃありえないような方法じゃないと……」
無意識に爪をかみながら
いや、と
あれほど傷つけてしまって、二度と連絡するな、近寄るなと言われた自分が、それを破って連絡しようとするのは彼女への
こんな状況における誠意というものがもしまだ存在するのなら、彼女の意思を尊重すること、誤解があれば解きたい、自分への悪印象をぬぐい去りたいなどという自分の保身にもとづく連絡を、控えることがせめてもの誠意といえるのではないか――
「人生……そうだよ」
目をつむると、
時刻は、13時すぎ。
期限の17時までは、あと4時間もない。
「うん、そうだ……やっぱり、結婚しかない。ちょっとプロポーズしてくる」
「いやちょっと待てよプロポーズって誰に?」
「そのへんにいる人にでも」
「なに言ってんのおまえ!? ちょっと変になってるよ落ちつけって。ど、どうしたんだよらしくないぞ」
「人生が、かかってる……」
「自分だけじゃない、社員の人たちの人生がかかってる。ツイドリさん、50人の社員が路頭に迷うって、言ってたよ。うちだって、人を増やしてきて30人近い人がいる。お金が足りないと、その人たち全員の人生を狂わせることになる。うちはまだ20代とか30代が中心だけど、ツイドリさんは親御さんから引き継いだ会社で、50代の社員さんもいるって、まえに言ってた。その人たち、いきなり会社がつぶれてかんたんに再就職できると思う? 役員になって、多少だけどみんなよりお給料をもらっているのは、こういうときに責任をとるためなんだと、自分は思ってる。少なくとも役員になることを決めたとき、そういう覚悟をすべきと思って、了承した。……いま、自分が、その責任を果たすべきときだ」
強く断じる
ため息をついたあと、また頭をかいて言った。
「わかった、おまえにばっかり背負わせて、すまん。おれもできるかぎりのことする。でも、その結婚の条件をくわしく聞いて打開策を考えたかったんだけど、パヌーさんってどこ行ったの?」
「さっき『ちょっと行くとこあるから』って別れた。ただ『結婚するなら教えてね』って言われて連絡先は交換したし、移動中、こまかい条件いろいろ教えてもらったよ」
「そっか、そしたらさ、おまえが行ってるときちょっと考えてたんだけど、『どんな結婚もウェルカム』って言ってたじゃん。同性でも結婚できるって言ってたから、おまえが万一うまくいかなかったら、おれとおまえで……結婚する? とか考えたんだよね。はは、おれ嫁さんいるけど、こうなりゃ
「考えてくれたんだ……でも、じつは、それ自分もちょっと考えて聞いてみたんだ。そうしたら『その国で法的に認められた結婚じゃないとダメ』なんだって。だからパヌーさんのポッペンシャルルって国に行けば同性同士でも結婚できるんだけど、日本からは片道で1日半かかるから、自分の場合は先に誕生日が来ちゃってアウトになる」
「なんだよおれ結構覚悟決めてたのに! 日本基準ってことは、
「結婚生活どうこうは、判断が難しいから日本だと籍が入ってるかどうかでいいみたい。『ほんとはヨクナイ』とも言ってたけど、かといってダメって断定するのも難しいからって。逆に、すぐ離婚する場合は明確にペナルティがある。結婚が7年間つづかないと、財産が没収されるうえに、ペナルティとして一割多く払わないといけないルール。途中で亡くなったりしたら免除されるみたいだけど」
「7年ってさすがに長すぎない……? ペナルティも、1億の一割だと1000万円か……もとがでかいからしんどいな……これもちなみにだけど、パヌーさんと結婚とかは認めてもらえないのかな? あの人結婚相手たくさんいるって言ってたし、あのノリだったらひとりぐらい増えても『オッケー』って
「パヌーさんが
「なんだよ八方ふさがりじゃん! マジで手あたり次第行くしかないの……?
「ひとりもいない」
そういえば、
と、話していると――
コンコン
ふいに会議室のドアがノックされた。
もしかしてほかに使用予定があったかと
「ご、ごめんいろいろ聞くまえにさ、今月末で辞める予定の、アルバイトの加藤さんいるじゃん。あの子、まえに飲み会やったときに『彼氏紹介してくださいよぉ~あたし結婚願望マックスなんでぇ~』ってめちゃくちゃ酔っぱらってからんできてさ、いや、時間ももうまったくないし、社員とかバイトの子だったら、しっかり事情を話して、絶対に無理強いしない感じにして、もし結婚をオッケーしてくれる子がだれかいたら、そっちのほうがいいんじゃないか? っていう考えもあって、とりあえず時間になったら会議室くるようお願いしちゃった……」
と弁明しているうちに、「失礼しまーす……?」と中をうかがいながら加藤さんが入室してきた。
「……と、いうわけで、お恥ずかしい話会社の危機ということもありまして、あの、ほんとに、もし加藤さんがよければなんだけど、断ってくれてマジでぜんぜん大丈夫なんだけど、もしよければ、
と、
「イ」
かすかにイと聞こえたがなんの音であろうと
「イ、イ、イヤァァァァ!! ありえないですよそんなの、イヤッ、イヤッ、イヤァァァァァ!! 結婚の強要だなんてセクハラ&パワハラの極地、極意奥義集大成、人の人生をなんだと思ってんですか私きょうで辞めます、どうせ辞める予定でしたけどもうこんなところには一秒たりともいられません。イヤッ、イヤッ、イヤァァァァァお世話になりましたァァァ!!」
さけびながら、加藤さんがいきおいよく会議室を出ていく。
遠くはるか先からも「イヤァァァァァ」のおたけびがこだましていた。聞きようによってはやまびこのごとき
「…………まあ、こうなるよね…………」
ふたりは顔に深く、暗いかげを落として
しばしの沈黙ののち、
「社内の人にこれ以上迷惑はかけられない(こんな原因で辞められたら正直こまるし)。あと4時間もないし、とりあえずそのへんでプロポーズしてくる!」
会議室のプリンターで何枚かの書類を印刷したあと、イスの背にかけていたジャケットを手にして
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます