番外編その2 りんのすけとひゅうがの会議。
とある土曜日。今日はりんのすけとひゅうがが、二人きりで遊ぶ約束をしていた日だ。
ひゅうがは五分前に、駅中に公衆電話の横に立って待っていた。黒いバケットハットに、スポーツブランドの白パーカー、黒いジーンズを履いている。スマホをいじりながら、ニヤケ顔をしていた。
(次、つかさと遊ぶ時どうしようかな。あそこも行きたいし、でも、お家でゆっくりするのも……。)
妄想しているひゅうがの頭を、誰かがチョップした。ひゅうがは驚いてマヌケな声を上げる。
「何をニヤついている。公衆の面前でその面は不適切だぞ。」
「りんのすけ!?ビックリしたー。普通に登場出来ないのー?」
黒髪センター分けのお坊ちゃんが、ひゅうがの目の前に現れる。白いワイシャツの上に、薄水色の薄いセーターを着ていて、暗い紺色のスキニージーンズを履いている。
「ふん。僕を普通なんて言う枠に嵌められると思ったら大間違いだぞ。」
りんのすけは腰に手を当てて、偉そうに鼻を鳴らした。
「ついに認めちゃったよ。変人である事を……。」
ひゅうがは苦笑いしながら、スマホを仕舞った。そして、歩きながら言う。
「じゃあ、行くかー。ライバル会議。」
「ああ。お手柔らかにな。」
「そっちこそな。」
お互いが睨み合い、火花が散る。
ジュースの入ったグラスを、同時にテーブルに置き、席に着く。
二人はファミリーレストランに来ていた。ドリンクバーだけをとりあえず頼んだ二人は、お互い向かい合って座った。
「それで、議題についてだが。」
りんのすけはスマホを取り出し、メモアプリを開き始める。
「ちょ、ちょっと待って!そんな本格的に話し合うの?」
ひゅうがは、りんのすけのスマホ画面を手で覆った。
「無論だ。それが今日の目的じゃ無いのか?」
口をへの字に曲げながら、りんのすけは不機嫌な顔をした。ひゅうがは首を横に振る。
「いや、もっとさ。こう。恋バナみたいな感じだと思ってたよ?おれはね。」
「何だそれは?どうやってやるんだ?」
真剣な目で聞いてくるりんのすけに、ひゅうがは目を逸らして、ジュースを飲む。説明に自信の無い、と言っても、根本的に恋バナを理解出来ていないひゅうがは、頭の中で無意味に渦を巻いた。
「よし!まず、つかさの何処が好きか言い合おう!」
思い切ってひゅうがは発言した。純粋な真っ直ぐな目でりんのすけを見つめる。
「僕の事を好きなところだ。」
自信たっぷりなりんのすけの発言に、ひゅうがはイラつきを抑えられなかった。
「はぁ!?ちょっ、待てって!抜け駆け無しって言ったよな?」
「抜け駆けはしていない。事実を述べただけだ。」
りんのすけは、やれやれと首を横に振る。
「そんな事言ったら、つかさはおれの事も好きだと思うなー?海外行く時も帰ってくる時も、お迎えしてくれたし!保健室で手握ってくれたし!」
ひゅうがは立ち上がって、りんのすけを指差した。
「ぬかせ。それは、つかさのお人好しだろう。勘違いするなよ。」
「じゃあ、そっちだって、ただのお人好しなんじゃ無いのー?」
「うっ……。」
りんのすけは言葉を詰まらせる。
「ほら!やっぱり……、待って、なんか自信無くなって来たな。」
ひゅうがは座って、肩を撫で下ろした。お互い沈黙が続く。
「たぶらかされてるだけだったりしてな。いや、おれが勝手に好きになってるだけなんだけどさ。」
「そうだな。あのボーッとしてる男が、たぶらかす様な器用な真似は出来ないだろう。こっちが踊らされているだけかも知れない。クッ……小癪な……。」
りんのすけは、ピクリと眉毛を動かして明らかにイラつきながら、コップに入ったジュースを飲んだ。
「そもそもつかさは、おれ達の事ただの友達としか思ってないよ。普通の高校生ならそうじゃない?仲良く一緒に遊んでるだけって感じ。おれは親友とか出来た事ないから分かんないけどさー。」
ひゅうがは頬杖をついた。
「僕は友達がそもそも出来なかったからな。ひゅうがが分からなければ、僕も分からない。」
お互いに見つめ合う。コップに視線を動かし、二人同時に中身を一気に飲み干す。
「とりあえず、ジュース取り行こう!」
「ああ。そうだな。」
二人でドリンクバーへ向かう。コップの中身を補充して席に戻る、
「りんのすけってジンジャエール好きなの?さっきもジンジャエールだったよね?」
「味が混ざるのが嫌なだけだ。ひゅうがこそ、野菜ジュースの後にコーラを入れるのはどうかと思うぞ。」
言われたひゅうがは、コップの中身を見る。恐る恐る口を付けた。
「コーラが強過ぎて混ざってるか分かんねー!ハハハ!」
ひゅうがはジュースを飲んでから笑い始めた。りんのすけはまだ疑っている。目を細めて、ひゅうがのグラスを凝視した。
「そう言えば、ひゅうがはどうしてつかさの事を好きになったんだ?」
りんのすけはソファの背もたれに寄りかかって腕組みをしながら言った。
「えー。入学式の時に、助けられて、多分一目惚れに近いかも。その時は自覚してなかったけど、つかさがりんのすけを向かいに行った時あったろ?」
「春頃のあれか。僕が実家へ帰った時。」
「そうそう。つかさに、迎えに行けー!って言ったの、おれなんだけど。言ってから、なんか辛くなっちゃって。そこで自覚したなー。」
りんのすけは、やや気不味そうに視線を下に下ろした。
「そうだったのか。」
「りんのすけは?何で好きになったの?」
りんのすけは、目を見開いた後、苦い顔をする。
「僕が女装していた時に……。」
ひゅうがは言葉を遮った。
「え?女装?」
「うるさい。最後まで聞け。西条寺のストーカーが続いていた頃、オカルト研究部の部活動に必要な物の買い出しに行ったんだ。そのままで行ったら、ストーカー被害に遭うと恐れて、女装をした。その時、変な男に絡まれたんだが、つかさが助けてくれたんだ。弱いくせにな。」
「かっけぇ。流石はおれの惚れた男だぜ。」
ひゅうがは目を輝かせる。りんのすけは少し顔を赤くして、鼻を鳴らした。
「多分その時だな。好きになったのは。その時はよく分かってなかったが、僕の実家まで迎えに来てくれた時に、自覚したと思う。」
「じゃあ、同じ日に惚れてる事に気がついたんだなー。すごい偶然。」
「そうだな。」
二人同時にジュースを飲む。暫く沈黙が流れる。
「で、何の話してたんだっけ?」
ひゅうがはとぼけた顔で言った。
「今後のつかさに対する態度について、話し合いたいんだけどね。」
りんのすけは、少し上の空で呟いた。
「そうそう!それそれ。わざわざ変えるのは無理じゃない?今までも、好きって言うアピールはして無いし。多分。」
「確かに、それはそうだ。ふむ。なら、告白はしたいと思っているのか?」
ひゅうがは顔を赤くして、両手を振りながら首をブンブンと横に振った。
「ムリムリムリムリ!今の関係が壊れるのは絶対にイヤだ!」
「そんなに嫌か。」
「りんのすけは嫌じゃないのかよ!」
りんのすけは口に手を当てて考えた。
「隠し事をしている関係は嫌だな。」
「えぇ!」
ひゅうがは頭を抱えた。
「とは言え、告白したいとは思っていないぞ。天秤にかけた時、やはり大事な親友を失う方が怖い。」
「そうだよねー。よかったあー!」
ひゅうがはヘナヘナとソファの背もたれに体を埋めた。
「じゃあ、並走し続けるのかなー。えいえんに。それもなー。」
寂しそうな顔をしながらひゅうがは呟く。
「それは、つかさ次第だろう。奴が並走する事を望むのなら、僕はそれに従う。」
結局、二人の会議はつかさに委ねると言う結論で終わった。
お互いの気持ちを知り得る仲として、りんのすけとひゅうがは、少し風変わりな友として歩んで行く。
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