【番外編専用】高校に入学したのに、女友達が出来ない。それどころか、男友達に振り回されている。

駿河犬 忍

番外編その1 クリスマスプレゼントを買いに行こう。

 高校一年の十二月下旬。

 今日は終業式だ。明日から短い冬休みが始まる。

 体育館でボーッとしながら、俺は今月の出来事を思い返した。

 ほとんど、大会の発表資料作りをしていた気がする。

 友永さんに絵を描いてもらったり、原稿を作ったり、パワーポイントで資料を作ったり、発表の練習をしたり。色々あった。

 進一は、一人で機械を弄っていたが、それも発表で使う予定らしい。何が起こるかは当日のお楽しみだそうだ。

 いよいよ、来月は大会本番だ。その前に、台湾旅行へ行かないと。後は……。

「あ!!」俺は大事な事を思い出して声に出ていた。

 終業式中の生徒達に見られ、睨まれたりニヤニヤされたりした。

 俺は恥ずかしくなり俯く。

 教室に戻り、席に座ると後ろからトントンの背中を突かれた。

「醜態を晒していたな。どうしたんだ?」

 振り返ると、りんのすけが腕を組みながら偉そうに座っていた。

「明後日、クリスマスイブだろ?弟用のプレゼント買うの忘れてたんだよ!ヤバい。時間が無さすぎる。」

 俺は頭を抱えて、絶望的な顔をした。

「何だ。そんな事か。」鼻で笑われた。

「大事な事なんだぞ!父親は仕事で忙しいから、サンタさんは俺がやってるんだ。なあ。一緒に買いに行くの手伝ってくれないか?」

 体を後ろの席に向き直し、手を合わせる。

「つかさー!」

 廊下から大声で呼ばれて、振り返るとひゅうがが手を振っていた。

 もう直ぐで帰りのホームルームが始まるが、ひゅうがはお構い無しに入って来た。

「今日の放課後、一緒に買い物行かない?」

「俺も丁度行こうと思ってたんだよ!行こう!」俺はひゅうがの手を握る。

「僕も行くよ。」りんのすけは腕を組んでへの字口で言った。

「決まり!じゃあ、ホームルーム終わったらまた来るね!」

 ひゅうがは笑顔で手を振りながら自分の教室へ戻って行った。

「僕も源左衛門様に何かプレゼントをしたい。」

「本当か?それは弟も喜ぶよ!ありがとう!」

 りんのすけの肩をポンポンと叩いて笑顔を向ける。

 そっぽを向いてりんのすけは小声で言った。

「あくまで源左衛門様の為だからな。」

 放課後になり、学校から歩いて近くのショッピングモールに向かう。

 肌寒い季節になり、俺は茶色のマフラーを着けている。りんのすけはクリーム色のカーディガンをブレザーの中に着ていて、ひゅうがは赤い猿の形をしたニット帽を被っていた。

「何だ、その間抜けな帽子は。」

 りんのすけはひゅうがの猿帽を睨みながら言った。

「可愛いだろお!耳が隠れるから結構良いんだぞ。」ひゅうがはニット帽の耳当て部分から垂れた毛糸の紐を両手で摘んで小さく振り回した。

「良いな。ひゅうがに似合ってる。」

 俺は猿帽のテッペンに付いているボンボンを触った。ひゅうがは嬉しそうに、ニシシと笑う。

「振り回すな鬱陶しい。」りんのすけはひゅうがから一歩距離を取る。

「つかさ、またりんのすけがおれをいじめようとしてる。」ひゅうがは悲しそうな顔を俺に向けた。

「まあまあ。りんのすけなりの愛情表現じゃ無いか?」

「えー!そうなのお?」ひゅうがはりんのすけの顔を覗き込む。

「勝手な事を言うな。」りんのすけは鬱陶しそうに、ひゅうがの顔を鷲掴みにした。

 店の中に入り、適当にブラブラと歩きながら、俺はひゅうがに聞いた。

「何買う予定何だ?」

「叔父さんへの誕生日プレゼント!クリスマスが誕生日なんだよお。」

「へえー!あれ、そう言えばみんなの誕生日知らないな。」

 俺は誕生日祝いのタイミングを逃したのでは無いかと、少し焦る。

「おれは四月十日!入学式の頃にはもう歳取ってたよ。」

「僕は二月二十日だ。まだ誕生日は来てない。」

「そうだったのか!じゃあ、誕生日会出来るな。」俺は安心して胸を撫で下ろす。

「つかさはいつなんだ?」りんのすけが聞いた。

「俺はエイプリルフール。」

「ええ!おれより年上だったって事じゃん!」

「大袈裟だな。同じ学年になっているのだから、年上も年下も無いだろう。」りんのすけは腕を組んだ。

「りんのすけが一番末っ子だな。」俺はニヤニヤしながらりんのすけを見る。

「煩い。早く買い物を済ませるぞ。」

 りんのすけに腿の裏側を蹴られた。普通に痛い。

 お洒落な雑貨屋さんに着いた。文房具からキッチン用品まで、色々な雑貨が並んでいた。

「漫画家ってずっと座ってるから、クッションにしようかなぁ。健康器具でも良いんだけど。」ひゅうがは棚を見ながら悩んでいた。

「穴の空いたドーナツ型のクッションが良いんじゃ無いか?座り仕事の人なら喜ぶと思うぞ。」りんのすけは商品を指差して言った。

「へえ!じゃあそれにする!」

 ひゅうがは商品を取りレジに直行した。

「凄い。優柔不断と言う辞書はひゅうがの中には無いんだろうな。」俺は決断力の速さに呆気に取られる。

「決断力の高さもサッカーで養われたのかもな。僕達もプレゼントを決めなければ。」

「そうだなあ。俺は玩具屋さんで決めるよ。りんのすけはどうするんだ?」

「うう。悩ましい。無難にお菓子か、それとも本か。」りんのすけは顎に手を当てながら悩み始めた。

「部室の備品買う時は即決だったのに、今は優柔不断なんだな。」

「備品は最初から何を買うか決まっていたからな。人へのプレゼントとなると、悩むのが普通じゃ無いか?」

「言われてみれば確かに。」

 俺は店の外に目をやると、急に思いついた。

「ちょっと、選んで待っててくれ。俺、買う物あるから。」

「分かった。」

 俺は二人を残して、別の店に入った。偶然見つけた商品を購入して、スクールバッグに仕舞う。

 早足で二人の元に戻る。

 ひゅうがとりんのすけは、プレゼントについて話し合いをしていた。

「昔の人ならさあ、煎餅とか好きそうじゃ無い?」

「食べ物は無難だが、煎餅だとクリスマスらしさに欠けないか?」

「プレゼント決まりそうか?」俺は二人に声をかける。

「いや、決まらない。」りんのすけは口をへの字に曲げて苦い顔をする。

「そう言えば、弟は動物が好きだぞ。狐とか狸とか、後なんて言ってたかなあ?」

 俺はこの前の話を思い出そうと首を傾げて考えた。

「そうなのか!なら、キツネのぬいぐるみにしよう!」りんのすけはズンズンと歩き出した。

「つかさ、どこ行ってたの?」

歩きながら、ひゅうがに聞かれる。

「ちょっと別件で買うものがあったからさ。」

「そーなの?」ひゅうがは少しだけ不思議そうな顔をした。

 玩具屋に着くと、りんのすけはぬいぐるみコーナーは直行した。俺もプレゼントを探す。

「年相応の物じゃ無くても良いって分かると、悩むな。」商品棚を睨みながら悩んでしまう。

「今何歳だっけ?」ひゅうがが質問する。

「四歳だ。子供も大人も楽しめるのが良いのだろうか?」

「そうだなあ。つかさが選んでくれた物なら何でも嬉しいと思うけどねー。弟くん良い子だから、何でも喜びそうじゃん?」

「そうなんだよ!うちの弟は本当に良い子なんだ!うーん。俺が小さい頃好きだった玩具にしようかな。」

 俺はレゴブロックの商品棚へ行き、動物園が作れるセットを手に取った。

「おれも小さい時遊んでた!良いと思う!」

 俺はレジへ行き、ラッピングされた商品を受け取った。

「つかさ。コレも一緒に渡しておいてくれ。」

 りんのすけはプレゼントを渡した。

「ありがとう!しっかりサンタさんして来るよ。」俺は二つのプレゼントを大事に持った。

 帰り道でクリスマス会の話題になった。

「家でやるから、今まで友達とクリスマス会はした事無いんだ。何やかんやで忙しくて、今年もやる暇無さそうだ。」

 俺は言いながら少し寂しい気持ちになる。

「おれも、部活とか叔父さんの誕生日とかあるからなあ。」

「僕もだ。実家で堅苦しいパーティーに参加しないといけないからな。時間を作れない。正月なら空けられるぞ。」

 ひゅうがは走って前に出た後、振り返って言った。

「じゃあさ、じゃあさ!初詣行こうぜ!」

「良いな、それ!行きたい。りんのすけは?」

「勿論行く。」りんのすけは優しく微笑んだ。

「あ、そうだ。」

 俺はスクールバッグから小さな紙袋を2つ取り出し、二人に渡した。

「これ、ちょっと早いけどクリスマスプレゼント!」

 りんのすけは驚いた顔をして、「ありがとう。」と受け取る。

 ひゅうがは嬉しそうに満面の笑みを浮かべ、「開けていい?」と聞いた。

「ああ、勿論だ。大した物じゃ無くて申し訳ないけど。」

 中身は木製の軸で出来たシャープペンと三色ボールペンが一本になった物だ。

 りんのすけは赤色、ひゅうがは黄色、俺は青色で色違いにした。

「すごい!めっちゃ嬉しい!ありがとう!」

ひゅうがは喜んで俺にハグした。

「喜んでもらえて嬉しいよ。三人でお揃いなんだ。」俺は自分のペンを二人に見せた。

「つかさ、ありがとう。」

 りんのすけは顔を赤くして、小声で言った。

「あー!りんのすけ照れてんの?」

 ひゅうがはりんのすけを指差した。

「煩い!照れてない!指差すな!無礼者!」

 りんのすけはひゅうがに喰ってかかる。

「お前ら喧嘩すんなって!」

 二人の取っ組み合いを俺は必死に止めようとするが、なかなか止められなかった。

 冷たい風が通り過ぎて、息が詰まった。

 明日から冬休みが始まる。

 また来年も、皆んなと過ごせますように。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る