超克星旅伝フィロソフィアス

火雷犬

Chapter_1 フィロソフィアス始動

 宇宙。 無限に広がる世界に多種多様さまざまな宇宙人が生息する世界。 

 星の数だけの夢と光に満ちた冒険がキミを待っている!





 誰かが言った、そんな言葉。 

 この世界はそんなに輝かしくはない。 

 今、彼が立つ場所の名前はDスター。 宇宙の廃棄物スペースデブリがこの星の特殊重力によって引き寄せられて辿り着く宇宙のゴミ星の一つである。 宇宙船の残骸から宇宙人の死骸まで、スペースデブリに括られる様な物の殆どがここに集まりこの星を構成している。

 こんなゴミ星ではおよそ生命体は活動できない。 生存していられない。


 一人を除いては。 


 その一人、名をイルトと言う。 

 彼はこの星に流れ着く廃棄物を回収・修理し旅人や商人に売り捌く……所謂ジャンク屋を営む人型アンドロイドだった。

 容姿としては汚れた紺色の作業着に白髪、肌は黒鉄、瞳の色は黄色をしている。


「ありあとやしたー!」


 お得意様の商人に手を振り作業に戻る。 

 彼の生業はたまに来る買手との商売、商品となるジャンクの品揃え、生活地であるDスターの一応の手入れが主になる。 その生業のうち、大半の時間は星の手入れが占めている。 常に何かしらが辿り着くこの星では、使えるものは生活品にしたり商品にしたり……この選定はイルトにとって生活を支える大切な作業であった。 


 重力が星の中で最も高まっている星捨塚ほしすてつかと呼んでいる場所に来たイルト。 

「多いなあ……」

 先程まで商人と手続きをしていた間に既に多くの星屑が溜まっていた。 星屑の塊をバラして、使える物は背中に背負った籠に、そうでないものは宙に放り投げて適当に漂わせる。 モグラのように千切っては投げしてゴミ山を進んでいくと何か大きい物にぶち当たった。 

「あ?」

 感触からやや大きい。 お宝か? に、しては小さい。

 ゴミ星生活の経験から異質な物である事を感じ取っていく。 全体を見る為、一旦周りの廃棄物を払い除ける。




 それは冷凍睡眠コールドスリープカプセルだった。 しかも、表面の冷気を拭き終えると、人間の少女が見えた。 

 空の青のような蒼髪に、いつか本で見たセーラー服というらしい珍しい服装。 

 あまりにも美しいその姿にイルトは見惚れ言葉を失い呆然としていると突如カプセルがガタガタと動き出す。 イルトは焦り居住ブロックへカプセルを運び出す。 イルトは察した。 記録データ通り、地球人の生存において酸素や環境が不可欠とするならば、こんな宇宙空間でカプセルが開いてしまってはすぐに命を落としてしまう!

 イルトはカプセルを担ぎ、籠の拾い物が零れ落ちているのも気付かず大急ぎで居住ブロックへ向かった。 





 居住ブロックへ着き、有り合わせの道具でなんとか一応の人の住める場所を整えたイルト。 

「これで良いか……?」

 そう呟くと同時にカプセルの振動が止まり、煙を放って蓋が開き始めた。 恐る恐る身構える。 暫くすると少女は眼を開き、数歩歩いて口を開いた。 

「……どうも……」

「えっあっ……どうも、はじめまして……?」

 お互い、目の前の人物に対し、反応に困っていた。 



「どうぞ、楽にしてください……」

「あ、ありがとうございます……」

 Dスターの居住ブロック。 イルトが生活地にしている家の中。 イルトのDスターでの生活歴は長い。 一応の生活用品と環境維持システムなどは揃っているのだ。 

 二人は小狭い部屋でちゃぶ台を隔て対面している。互いに対応の仕方が分からず気まずい雰囲気が流れている。

「と、とりあえず自己紹介しますね!」

 イルトが自己紹介を始める。

 自分はイルトと言う名前以外殆ど記憶と知識が無い事と気付けばDスターに居た事、とりあえずここで生活を続けている事を話した。


 そして。 


「じゃん!」


 イルトは胸と頭にそれぞれあったに手をかけて蓋のように開け、そこから頭と体を引っ張り出した。 

 それは地球人の物らしき心臓と脳味噌。 ドクンドクンと脈を打ち、赤黒く綺麗に光る。 

「僕の体、地球人の脳味噌と心臓が入ってるんです。 しかもちゃんと思考回路や動力源として機能してます。 だから長い間外気に触れて見せてるのはきついんで……」

 よろめくイルト。 脳と心臓をしまい気を取り直して言う。

「僕は、この脳味噌と心臓が何なのか知りたいんです。 

 長い間この星で商売しててアンドロイドの客とかもいて、脳味噌と心臓持ってるのは珍しいらしいと知って。

 いつかこの星を飛び出してこの体の、自分の謎を解き明かしたい……それが僕の夢なんです。 まあ今はDスターここで足踏みしてるんですがね」

 イルトは輝く瞳で自分の夢を語った。 

 それを聞いて少女は。 


「綺麗……」

 脈打つ脳と心臓に見惚れていた。


 その後、聞くと少女は自分の名前以外何も記憶を持っていなかった。 

「じゃあ記憶が戻るまでここで一緒に住みませんか?」

 イルトが提案する。 

「あっ嫌じゃなかったらですけどね! 嫌なら行きたい星まで送るようにしますし……その……もし良かったら、一人じゃ寂しいから、一緒に居てくれればって……」

 しどろもどろになりながら言葉を紡ぐイルト。 

 少女は暫く戸惑うイルトを見た後、クスリと笑って。 

「よろしく、イルトさん!」

「……!!! はい、エアさん!!!」

 それが、互いの名を呼んだ最初だった。 





 そうして、イルトとエアの日常が始まった。 

 日の光に照らされたら起き、起きたらDスターの手入れをする。 

 使える物は拾い使えない物は放り、手入れして商品や生活用品にする。 

 偶に来てサービスエリア代わりにする旅人に商売をする。 

 そんな日々が続き、イルトとエアは仲を深めていった。 


「イルトさーん! この機械どうしますかー?」

「はーい! …… これクーラーですね、今のやつ調子悪いからパーツバラして使いましょう!」

「わかりました、こっちは?」

「これは……スペースマシンのブースターかな? 高く売れそうですね、お手柄ですよ!」

「へへへ……ありがとうございます!」


 少女、エアはよく働いた。 イルトの教えをしっかりとメモして動く。 飛び抜けて優秀という訳ではないが、とにかく真摯で健気だった。 見た目も可憐な顔付きと綺麗な蒼髪はDスターに来る旅人に受けが良かった。 

 数日も経つと元々記憶喪失だったのが嘘の様に、明朗快活な少女となっていた。 

 イルトは一緒に居てくれて嬉しい反面に思った。 何故、エアはあの時OKしてくれたのか?

 イルトは解らなかった。 ずっと一人で生きていた彼にとって、エアが何を考えて生きているのか。 それがとても不安になったのだ。 

 そんな不安を抱えつつ、迎えた朝。 

 は、突然やってきた。 





 ズン!!!!!!!

 大きな地震が瞬発的に発生する。 

 軋む地面。 

 イルトは外の宇宙へ飛び出しそれを確認する。


 外銀河怪獣がいぎんがかいじゅう

 まだ誰も知らない未知の銀河系からやってきたとされる宇宙の脅威。

 普段はDスターなんて目もくれず過ぎ去るその存在が、何故かDスターに降り立っていた。 

 シュモクザメのような顔をした外銀河怪獣は口から光線を放ち、鋭利な爪で周囲を切り裂き宇宙に存在しない筈の風を巻き起こし星を蹂躙していく。 

「……ッッッ!!!」

 瞬間、イルトはエアの部屋まで飛び出した。 ちょっと前までのイルトなら怯え立ち竦んでいた。 

 しかし、イルトは変わった。 エアと出会い……大切に思う人と出会い。 死にたくないと脳が警鐘を鳴らす中、煩い黙れエアは無事かと脳がほとばしる。 

「エアさん!!!」

 部屋の扉を勢い良く開けるが姿はない。 

 先に逃げた? いやそんな事をする子ではない。 短い日々だったが、イルトは既にエアに全幅の信頼を置いていた。 

 考える。 エアがやりそうな事。 この数日間でわかった人となりから推測する。 やがて脳裏に浮かんだ。 



 外銀河怪獣ヤツに立ち向かう。



 イルトは星捨塚ほしすてつかへ急ぐ。 

 このDスターは星の核による超重力によって宇宙廃棄物が引き寄せられ構築されている。 実はその星の核とは、一つの人型のマシンなのである。 

 イルトはそれをエアに話していた。 マシンを操縦して立ち向かう気なのでは?

(エアさん……エアさん!!!)

「うわぁっ!!!」

 必死で星を駆けるイルトに外銀河怪獣が気付き光線を放つ。 直撃はしなかったが吹き飛ばされる。 爆煙に隠れ、星捨塚へ勢いをつけて急行する。 エアが奥へ既に入ったのであろう穴がある。 そこへ瓦礫を蹴り付け跳び入る。 

 穴の先の星の中心、マシン格納庫。 

 そこには崩れた瓦礫の下敷きになっているエアがいた。 

「エアさん!!!」

 駆け寄り、瓦礫を吹き飛ばす。 

「しっかりしてくれ! おい!!!」

「……イルト、さん……?」

 どうやら格納庫の瓦礫にぶつかったらしい。 頭から血が出ている。 

「大怪我では無い、逃げますぞ! 外銀河怪獣がもうそこまで迫ってる!」

「いや、です」

「なんで!」

「この星を……壊されたく、ないから……」




 エアが目覚める前。 意識は冷たい煙の中にあった。 それを覚ましてくれたのはアンドロイドのイルトだった。 

 ひょんな事から一緒に生活する事になった。 

 イルトにとっては今ある日々の日常に変化が起きたと言う認識だろうが、エアにとっては全てが真新しかった。 

 イルトが自身の脳とに心臓を見せた時、エアはそれに魅せられた。 星の世界を見せた時、それにも魅せられた。 全てが美しかった。 

 彼女は本当に素直で綺麗な性格だった。 

 この世界を、この世界を共に生きる人を壊されたくない。 その一心で、生活する中で見つけイルトに説明されたマシンの元へ駆けたのだった。 




 イルトはエアの瞳を見つめる。 その想いは確かに受け取った。 

 イルトは意を決する。 

「エアさん、掴まってください!」

「イルトさん……?」

「昔やったんですけど……僕一人じゃダメだったんです! でも、あなたとなら!

 あなたとなら……やれると思う!!」

 エアはコクンと頷き、イルトの肩に手を添える。 





 搭乗室に入る二人。 

「さてとぉ……!」

 コンソールを操作するイルト。 

 パチリリリリと起動音を鳴らし、全周囲モニターが外の映像を映す。 

「動いた!!?」

 本当に動くとは思っていなかった。 心臓と脳味噌が突き動かす衝動に従いエアを乗せて適当に弄ったら動いた。

 そういえばさっきから気性も落ち着かない、焦りが収まらない。 治らぬ心のままイルトはおぼつかない手つきで操縦用の体感連動グローブを装着し、起動コードを……その者の名を叫んだ!


「フィロソフィアス・アイガイオン!!!」


 その声に応じ、アイガイオンと呼ばれた白い身体に三原色の血脈の様なラインを走らせたマシンは身体を軋ませ、地表を割って外銀河怪獣の前に向き直る。




 ズドシャァァァァァ!!!




 轟音が鳴り響き、宇宙の闇に染み込んで消えた後。 

 その場には向かい合う外銀河怪獣とアイガイオンの二者。 

「グワァァァァァァァァァァァッ!」

 先に仕掛けたのは外銀河怪獣だ。 目の前に立ちはだかる明確な敵に対し鋭い爪を振り翳す。 

 強烈な引っ掻きとタックルを受け、突き倒される。 馬乗りになられなすがままのアイガイオン。 痛みがイルトにフィードバックされる。 

「ぐあっ! こ、の、おおおおおおおおおおっ!」

 イルトが叫ぶ。 瞬間、アイガイオンに奔る三原色に発光する血脈のようなラインが輝きを放つ。 

「ギャアァァァァァァァッ!?」

 外銀河怪獣がたじろぐ。 

「!? 今だぁぁぁぁぁぁっ!」

 その隙を見逃さず、イルトが気合を入れてアイガイオンが立ち上がる。 外銀河怪獣の首根っこを掴み持ち上げる。 

「おおおああああああああっ!」

 ブンッッッ!!!!

 力任せにそのまま放り投げ、外銀河怪獣はその勢いのまま宇宙の闇へ無様に飛んで行くのだった。 





「ハァ……ハァ……」

 息切れするイルト。 体感連動グローブを外し身体を楽にする。 

「や、やりましたね……」

 息切れしながら喋る。 機械人アンドロイドの体が不慣れな激しい動きに堪えて軋むの抑えている。


 エアは揺れる搭乗室の中でじっとしているので精一杯だったようだ。 言葉は出せず頷きで心配と確認の言葉の意図を返す。


「さて……」

 イルトは荒廃し切ったDスターを見渡して、深い一息をついた。

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