第37話:どう動く?

「それじゃあまずは、三人と同じスキルを持った冒険者の基本的な動き方を説明していくわね」


 そう口にしたクレアは罠師、快速、怪力について基本的な動き方を説明してくれた。

 まずは罠師、これは正面から魔獣と相対するようなスキルではなく、名前の通り罠を設置して魔獣を誘い込み、罠にかかったところで攻撃を仕掛ける動きがメインになってくる。

 なので身軽でありながら罠を作るために必要な道具を持ち運べる、そんな装備が好まれている。


 続いて快速、こちらは主にカイナのように斥候役を任せられることが多いスキルだ。

 単純なスキル故に求められる役目も決まっていることも多い。

 身軽であることは当然だが、接敵してしまった時のために武器はナイフなど小さめのものが好まれている。


 最後に怪力だが、こちらは罠師や快速とは違い真正面から魔獣と相対することの多いスキルになっている。

 こちらも単純なスキルなのだが、快速とは異なり盾を持ってメインタンクにもなれるし、剣を持ってメインアタッカーにもなれる優秀なスキルだ。

 故に、こちらは公太がどちらをやりたいかによって選ぶ装備も変わってくる。


「公太、いいなぁ」

「怪力ってマジで有能じゃねえか!」

「そ、そうかなぁ? でも僕はメインアタッカーにはなりたくないかも」

「それならコウタ君はメインタンクってことでいいのかな? 最初に魔獣と対峙する役目になっちゃうけど」

「うっ!? ……で、でも、自分を守る力が欲しいし、それでいいです!」

「分かったわ。タイチ君とユウト君も、私が選んだ装備でいいかしら?」

「「はい! よろしくお願いします!」」


 それから四人は武具店の中を歩いては装備を確認していき、それぞれに合ったものを選び始めた。

 基本的にはクレアが選んでいるが、太一たちも気になったものがあれば手に取って見て感触を確かめている。

 全てをクレアが選ぶこともできるが、実際に身に着けるのは太一たちなので、彼らが本当に気に入ったものがあれば、それを中心に考えてみてもいいかなと考えていた。


「どう、みんな。気になった武具はあるかな?」

「俺は特にないな」

「僕も」

「タイチ君はどうかしら?」


 勇人と公太が特にないと答える中、太一だけは返事がなく、クレアは気になりそちらへ歩み寄った。


「……それ、気に入ったの?」

「えっ? あっ、すみません!」

「へぇー、きれいなナイフねぇ。……えぇっ!! ご、5000ジェン!?」

「あはは、そうなんですよ。だから諦めます、すみません」


 太一たちが決めた予算の半分を使ってしまうナイフに、クレアは驚きの声をあげてしまう。


「んだ、騒がしいなぁ」

「あぁ! ごめんなさい、ダジールさん!」


 その声を聞いてダジールが険しい顔で出てくると、慌ててクレアが謝罪する。

 だが、ダジールはすでに謝罪を聞いておらず、太一が手にしていたナイフを見てニヤリと笑った。


「なんだ、タイチの坊主。それが気に入ったのか?」

「そうなんですが、さすがに予算の半分がなくなっちゃうんで諦めます」

「……いや、それは買いだと思うぜ」

「ちょっと、ダジールさん。急に商売人になるの止めてくれませんか?」


 ダジールが買いだと口にしたことでクレアが口を挟んだが、彼は商人ではなく鍛冶師の顔で言葉を続けた。


「冒険者にとって、これだ! と思える武具に出会えることは少ねぇ。これがそうなのかどうかは俺には分からねぇが、坊主が気に入ったなら買いだって思ったんだよ」


 これだ! と思えたのかはどうかは、冒険者として経験の浅い太一にも半信半疑だったが、手に取って見て妙に馴染むなと思ったのも確かだ。

 5000ジェンという金額に腰が引けてしまっていたが、それでもほしいと思っているのだから、そういうことなのだろうと覚悟を決めた。


「……クレアさん、やっぱり俺、少しお金を借りたいです!」

「本当に買うの、タイチ君?」

「おいおい、嬢ちゃん。本人がこれだ! って思ったんだから、口を挟むのは野暮ってもんだぜ?」

「ダメ、ですか?」


 クレアが渋い顔をしているとダジールが口を挟み、そして太一は申し訳なさそうに確認を取る。

 その表情がどうにも母性本能をくすぐり、クレアは強く言うことができなかった。


「…………はあぁぁ~。分かったわ、タイチ君」

「あ、ありがとうございます!」

「その代わり! 残りの装備は私に選ばせてちょうだいね!」

「よろしくお願いします!」


 こうして太一たちはクレアに装備を選んでもらった。

 勇人と公太は当初の予定通り1万ジェン以内に収めてもらい、太一だけが4000ジェンをギルドから出してもらった。


「タイチ君ならすぐに返せると思うから、頑張ってね」

「ありがとうございます、頑張ります!」

「俺たちもいるんだ、あっという間だぜ!」

「僕も頑張るよ!」

「ありがとう、勇人、公太!」

「また何か入用なものがあったら寄るんだな! いつでも相談に乗ってやるぜ!」

「「「ダジールさんもありがとうございました!」」」


 装備を整えることができた太一たちはその足で一度冒険者ギルドに戻り、そして都市外での依頼を選び、そのまま出発した。

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