第19話:一人での依頼(太一編)③
「……君、私のことを先輩って言ってたけど、もしかして冒険者なの?」
「はい! 今日、冒険者になりました! よろしくお願いします!」
計算の早さに驚いていた女性冒険者が太一に声を掛けると、彼は元気よく返事をした。
「……冒険者じゃない方がいいんじゃないかしら?」
「いきなりそれですか!?」
「いやだって、こんなに計算が早い冒険者なんて普通いないわよ? これくらいできるなら、商業ギルドだったり、別の組織で登録した方がよかったんじゃない?」
女性冒険者がそう口にすると、太一は頬を膨らませながら抗議する。
「だって、保護してもらったのに、恩を返さず別のところに行くのは筋が通りませんから」
「保護? ……あっ! もしかして君、迷い人なの?」
合点がいったという感じで女性冒険者がそう口にすると、太一は同じ表情のまま頷いた。
「なるほどねー、だから計算もさっさとできたってことかー」
「まあ、そうですね」
「……それに、私の耳も見てたでしょうー?」
「き、気づいていたんですか! その、すみませんでした!」
まさかの指摘に太一はハッとし、勢いよく頭を下げて謝罪した。
「あはは! いいんだよ、そんなことは! この世界だと獣人は珍しくないけど、他の世界だとそうもいかないらしいしねー」
「……本当にすみませんでした」
「だからいいんだって! それよりも、冒険者ギルドに保護されたってことは、ギルマスに無理やり保護させられたの?」
カイナが笑いながらそう口にすると、太一は慌てて否定した。
「ち、違います! ディーさんたちに助けられて、その恩を返したくて冒険者ギルドで保護してもらったんです!」
「なるほど、ディーさんたちかー。それなら納得だわ」
「……先輩もディーさんたちを知っているんですか?」
「そりゃ当然よ! ディーさんたちには私も何度もお世話になっているからね」
ニコニコしながら教えてくれた女性冒険者の表情を見て、ディーたちが後輩冒険者の世話を焼いている光景が目に浮かんだ。
「そういえば自己紹介がまだだったわね! 私はカイナ! Dランクの冒険者よ!」
「弥生太一です、太一って呼んでください! よろしくお願いします、先輩!」
「……その先輩って呼び方、止めてくれないかな? なんだか恥ずかしくって」
「分かりました! それじゃあ……カイナさんで!」
「うーん……まあ、後輩になるわけだし、それでいっかな」
お互いに自己紹介を終えると、カイナはどうして太一がここにいるのかを聞いてきた。
「初めての依頼で、クレアさんにこちらの依頼を紹介してもらったんです」
「初めてならおばちゃんのお店は最適だね! だって、ここのポーションは最高だもん!」
「ほほほほ、お世辞が上手いねぇ、カイナは」
「お世辞じゃないよ! おばちゃんのポーションは新人や中堅に上がったばかりの冒険者の命を救っているんだからね!」
カイナが本気でそう口にしたのを見て、太一は自分たちにも関わることだと思い質問を口にする。
「命を救うって、ポーションでってことですか?」
「そうなんだよ! ポーションはいろいろなところで売られているんだけど、大手の商会とかは高価なポーションをメインに取り扱っているところが多いの。安価なポーションを取り扱っているところもあるんだけど、最低限の効果が保証されているだけで使い勝手があまりよくないんだよねぇ」
「最低限の効果って、どの程度なんですか?」
「軽い擦り傷が治る程度かな」
「……す、擦り傷? 切り傷とかじゃなくて、擦り傷?」
魔獣と対峙することも多いだろう冒険者である、切り傷というならなんとなく想像がつくが、擦り傷と聞くと子供が躓いて膝を擦りむいたような傷、という風に聞こえてならない。
「そうそう、擦り傷。でも安価のものとは言っても、一般家庭から見ればちょっと高価なものになるし、擦り傷程度でポーションを使うなんてことはほとんどしないんだよ? それなのに効果を最低限に絞って売り出しているんだから、使い勝手は相当悪いよ」
「……ほ、本当に擦り傷なんだ」
あくまでもイメージの話かと思っていたが、本当にイメージ通りなのかと愕然としてしまう。
「それと比べておばちゃんのポーションはしっかりと効果が出てくれるし、金額もちょうどいいんだよね! ありがたやー、ありがたやーだよ!」
「ほほほほ、おだてても何も出やしないよ」
「おだててない! 本音だよ、ほーんーねー!」
詳しく聞いてみると、下級ポーションの相場が300ジェンで、これは最低限の効果を持ったポーションの場合だ。
リーザのポーションは下級ポーションだが、骨には至らない、少し深めの傷にも効果を発揮してくれる。
値段はやや高めの400ジェンだが、100ジェン高くても効果は十分期待できるということで、カイナはリーザのお店でポーションを買うようにしていた。
「でもそれって、リーザさんに儲けって出ているんですか?」
冒険者側から見ればありがたい話だが、経営者側から見ればどうなのかと太一は質問を口にする。
「心配しなくても大丈夫だよ。最低限ではあるがちゃんと儲けが出るように金額を決めているからね」
「大手になると従業員も多いし、なるべく利益を優先したいんだろうねー」
「仕方がないことさ。わしのような個人だと数を用意することは難しいから、一人ひとりの顧客を大事にしているのさ」
「私はこれからもおばちゃんのお店で買うからね!」
「ほほほほ。嬉しいが、上のランクになったら自分に合ったところできちんと準備するんだよ、いいね?」
「はーい!」
それから太一は、リーザだけでなく、ここからお店に残ってくれたカイナも交えて閉店まで会話に花を咲かせた。
これで太一も無事に依頼を完了し、それ以上にカイナから冒険者の先輩として貴重な話を聞くことができ、大満足の依頼になったのだった。
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