第14話:初めての依頼

「さて! それじゃあいろいろと話をしたけど、せっかくだから最初の依頼を受けてみない?」


 真面目な話の後だからか、太一たちはやや思案顔を浮かべる。

 だが、実際にどんな依頼があるのか、そしてどのように依頼を受け、達成後の報酬を受け取るのかもやっておきたいと思い、三人はすぐに頷いた。


「ありがとう。それじゃあ、部屋を出て依頼板のところへ向かいましょうか」


 クレアの案内で依頼板へ向かうと、そこには大量の依頼が張り出されている。

 よく見てみると、受けられるランクも記されていて、Fランクが受けられる依頼は一番端っこの依頼板に張り出されていた。


「どぶ掃除に庭掃除」

「犬の散歩の店番」

「解体作業の手伝い」

「「「……これ、冒険者の仕事ですか?」」」

「あはは、新人冒険者はみんなそう思っちゃうんだよね」


 太一たちの忌避ない意見に、クレアは苦笑しながら答えてくれる。


「冒険者のことをなんでも屋みたいに考えている人もいて、だからと言ってこういった依頼を断っていると危険な依頼しか残らない場合も出てくるの。新人冒険者が受けられる依頼を確保しようと思ったら、どうしてもねぇ」


 受ける、受けないのその人の自由だ。だが、受けられる依頼がなければそもそも選ぶことすらできなくなる。


「とはいえ、冒険者らしくない依頼ばかりだとモチベーションが下がっちゃうこともあるし、なかなか難しいところではあるんだよね」


 新人冒険者が受けられる依頼の確保、モチベーションの維持、それらを天秤にかけながら、受ける依頼の取捨選択を行っているとクレアは口にする。


「確かに、子供でもできる犬の散歩とか庭掃除ばっかりだったら、モチベは上がりませんね」

「俺だったら絶対に嫌だわ」

「僕も飽きてきちゃうかなぁ」

「そうだよね。でもまあ、最初は安全な依頼からでもいいと思ってこっちを案内したの」


 安全な依頼と聞いて、太一たちはデビルベアのことを思い出す。

 魔獣との戦いなど勝てる気がしないと思っている三人は、クレアの意見を受けて都市内でできる、比較的稼げる依頼を探すことにした。

 だが、そういった依頼は新人冒険者の中でも取り合いになってしまうもので、すでに残ってはいなかった。


「……三人一緒にできるものがいいよな?」

「……でも、スキルも使ってみたくないか?」

「……そうなると僕は、解体作業の手伝いになるのかな?」

「コウタ君の場合はそうね。となると、ユウト君は犬の散歩かな。犬が走り出してもついていけるはずだし」


 ダッシュで犬に追いつけるのかと驚いた勇人だったが、そう言われてしまうとスキルを使ってみたくなるのが少年心というものだろう。


「でも、それじゃあ俺は?」

「タイチ君のスキルを使えるのは……うーん……ないかも?」

「ですよね~」


 ガクッと肩を落とした太一に苦笑を浮かべながら、クレアは二つの依頼を選んで見せる。


「一人でもできる依頼ってことなら、庭掃除か店番かなぁ。でも、店番だとお金のやり取りとかも出てくるから、計算が必須になっちゃうけど、できるのかな?」

「お金については教えてもらえましたし、バイトでもレジ打ちとかやっていたんで大丈夫だと思いますけど」

「だったらこの店番の依頼をやってみない? ちょうど今日が期限で、私の知り合いのお店なのよ」

「そうなんですか?」


 クレアの知り合いと聞き、太一はスキルを活かせる依頼がないのであればそちらでいいかと思い、一つ頷いた。


「ありがとう! それじゃあタイチ君は店番の依頼、ユウト君は犬の散歩、コウタ君は解体作業の手伝いでいいかな?」

「「「はい!」」」


 受ける依頼を選んだ太一たちは、そのままカウンターへ移動する。


「受ける依頼を見つけたら、今度は依頼書を持ってカウンターに来てもらいます。ここで私たちが適正な依頼なのか確認を行い、問題がなければ受けてもらうという流れね。もしも適正でなければ私たちは受けさせないから、そのつもりでいてね」

「これも冒険者を守るため、ですよね?」


 太一がそう口にすると、クレアは微笑みながら頷いた。


「特に新人冒険者に多いんだけど、背伸びをして、かっこつけて、魔獣討伐の依頼を受けたがる新人が多いの。そうして命を落としちゃう新人もね」


 命を落とすと聞いて、太一たちは表情を曇らせる。


「タイチ君たちは大丈夫だと思うけど、そうじゃない新人もいるってことだけは覚えておいてね」

「「「はい!」」」


 元気のよい返事を受けて、クレアは最後の説明を伝えていく。


「最後に依頼を完了したら、依頼主から依頼書にサインを貰って、こっちに提出してもらえれば報酬の受け渡しになるわ」

「依頼に失敗したらどうなるんですか?」

「報酬が受け取れないのはもちろんだけど、ギルド内の評価も下がっちゃうから、ランクアップがし難くなるとかがあるかな」

「なるべく失敗しない依頼を選ばないとだな」

「そ、そうだね。……なんだか緊張してきた」

「うふふ、Fランクの依頼は難しいものじゃないから安心してちょうだい」


 依頼内容はきちんと精査してランクを設定しているとクレアは語る。


「同じ解体作業の手伝いでも、難しい内容なら上のランクに設定しているのよ」

「だったら大丈夫、かな?」

「もしも依頼主側が無茶な手伝いを言ってきたら、ギルドに報告してちょうだい。きちんと抗議もするし、これからの新人を守ることにもつながるからね」


 説明をしながらも手を動かしていたクレアは、それぞれに依頼書を手渡した。


「場所の地図も書いておいたけど、大丈夫そうかな?」


 ディルガイドが初めてだと知っているクレアが確認のため聞くと、太一たちは手渡された地図を確認し、頷いて見せた。


「これなら大丈夫そうです」

「むしろ、こんだけ丁寧な地図で迷ったら方向音痴になっちまうな」

「僕も大丈夫そうです」

「よかった。それじゃあ三人とも――いってらっしゃい」

「「「いってきます!」」」


 こうして太一たちは、初めての依頼に挑むのだった。

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