第13話:お金についてと異世界と
「まず、こちらの世界には硬貨が一〇種類あります」
そう口にしながら、クレアは最初に七種類の硬貨をテーブルに並べた。
「それじゃあ、左から順に説明していくわね」
クレアの説明によると、大きさの違う硬貨が七種類。素材は物によって異なり、硬貨に施された数字でも金額を見分けることができるようになっている。
「1ジェン硬貨、5ジェン硬貨、10ジェン硬貨、50ジェン硬貨、100ジェン硬貨、500ジェン硬貨に、1000ジェン硬貨か」
「……なんか、日本の硬貨の単位と似てるな」
「……1000円札が硬貨になったくらいだよね」
覚えやすくて何よりだが、ここまで同じでいいのかと思わなくもない。
だが、ここから日本とは大きく変わるお金の説明に入っていった。
「次に残りの三種類なんだけど……ここにはないの」
「そうなんですか?」
「えぇ。まあ、あるにはあるんだけど、高価すぎて簡単には持ち出せないと言った方がいいかしらね」
残りの三種類は金貨、大金貨、白金貨というもので、それぞれが一枚で10万ジェン、100万ジェン、1000万ジェンとなっている。
金貨と大金貨は大きさで見分けられ、白金貨は素材も違えば特別な意匠が施されているのだとか。
「正直なところ、私も白金貨にはお目に掛かれたことがないのよね」
「それだけ高価な硬貨ってことですか」
「おっ! 太一、上手いこと言うじゃないか」
「勇人君、茶化したらダメだって」
「うふふ、でもまあ、そういうことよ」
ここまでの説明を終えると、クレアは七枚の硬貨を袋に戻して太一たちの前に置いた。
「ここには3万ジェン入っているわ、返しておくわね」
「3万ジェンって、大体どれくらいの価値になるんですか? その、一般的な収入で換算した時とか?」
「そうねぇ……平均的な月収が1万5000ジェンくらいだから、二月分くらいかしら?」
「「「ふ、二月分!?」」」
「えぇ、そうよ」
「俺たちの制服が、そんな高い金額で売れたんですか!?」
まさかの金額に太一たちは驚きの声をあげた。
「こちらの世界では未知の素材だもの、これくらいは当然だわ」
「そ、そうなんですね」
こちらの世界の人間が当然だというのだから、それは当然なのだろう。
しかし、ここで太一には一つの疑問が浮かび上がった。
「……あの、クレアさん。先ほどからこちらの世界とかって言ってますけど、何か決まった名前とかってあるんですか?」
「世界の、名前?」
「はい。なんて言えばいいのか……えっと、俺たちが元々いた場所は日本っていう国で、世界で例えると……地球、になるのかな?」
太一たちは地球にある日本という国からこちらの世界にやってきた。なら、こちらの世界のことをなんと呼べばいいのかと太一は気になっていた。
「うーん、世界に関してはよく分からないけど、国って言うことでいえば、ここディルガイドは、アルダール王国に位置しているわね」
「アルダール王国の、ディルガイドですか」
「えぇ、そうよ。……そっか、タイチ君たちは、ディルガイド以外は分からないんだもんね」
そこで一つ思案顔を浮かべたクレアは、一度個室から出ていくと、戻ってきた時には大きめの紙を一枚抱えていた。
「クレアさん、それは?」
「アルダール王国の地図よ。テーブルに広げるね」
太一の質問にクレアが答えると、公太が慌ててお金の入った袋をテーブルからどかした。
「ありがとう、コウタ君」
クレアがお礼を口にしながら微笑むと、公太は顔を赤くしながら何度も頷いていた。
「……公太、お前なぁ」
「……美人に弱いからなぁ、公太は」
「ち、違うよ! そんなんじゃないからね!」
太一と勇人がからかうと、公太は耳まで赤くして否定してくる。
「はいはい、こっちを見てちょうだい。簡単にだけど、アルダール王国についても説明しちゃうわね」
「「はーい!」」
「……は、はーい」
公太だけはやや恥ずかしそうにしていたが、クレアは気にすることなく説明を始めた。
「まず、この太い線で囲まれている部分がアルダール王国で、ディルガイドはここね」
それからクレアはアルダール王国の王都、そして主だった都市や危険な場所についてを教えてくれた。
「知っておいた方がいいのはこのあたりかな」
「ディルガイドの近くで危険な場所とかはありますか?」
「うーん、近くでは特別危険な場所とかはないわね。ただ、魔獣がいない場所なんてところはないから、外に行くなら警戒は怠らないこと、それが鉄則かな」
都市の中での依頼だけで生計を立てることが難しいというのはディーから聞いている。
ならば、少なからず外に出ての依頼をこなす必要が出てくるだろう。
そうなると、太一たちだけで魔獣と対峙する時がいずれやってくるかもしれない。
「外に出る依頼の時は、必ず私を通してちょうだい。最初は絶対に自分たちだけの判断で依頼を受けないこと、いいわね?」
今までは柔和な声だったり、冗談交じりで話してくれていたクレアも、この時ばかりは真剣な面持ちで話をしてくれた。
「「「……はい」」」
太一たちもクレアの真剣な想いに応えるよう、まっすぐに彼女の目を見て頷いた。
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