エトセトラ置き場

火雷犬

異世界転生令嬢熱血物語

 うおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!!!死んだぜ!!!


 ─人の子よ─


 声がするぜ!

 誰だぜ!


 ─人の子よ、速海はやみ 勇雄いさおよ。お前は生前、歌い手としてその熱さで多くの人々に歌を届けてきた。馬鹿すぎて初ライブでダイブして死んだお前の歌は、本来ならばより多くの人間に届くはずだった。

 だからお前の魂に異世界へ転生させてやろう─


 やったぜ!


 ─新たな人生においては、生き急ぐことなかれ─


 ぜ!(了解の意)






 光に包まれ、目が覚めるとそこは木製のベッドの上であった。

 陽光が刺し、眩しさに惹かれて寝室の窓辺に行くと、外には目を引く体重があり、その周辺には小鳥がさえずっている。どうやらこの家は丘の上らしい、町の展望が見える。

 どうやら中世的なファンタジー世界らしい。朝から活動しようとしている人々の服装は生前RPGやアニメで見てきたものと酷似している。

 穏やかな雰囲気の風景に目を慣らしている頃、後ろから声が聞こえた。

「失礼します、お嬢様。 朝食をお持ち致しました」

 ドアを開けてメイドさんが現れた。

 ふと見れば、俺は結構質の良いネグリジェを来た麗しい金髪のお嬢様だった。

 どうやら俺はこの子の肉体に転生したらしい。しかし、お嬢様らしい振る舞いなどてんでしらない俺は反応に困っていると、先に従者の方から声をかけてきた。

「お嬢様、体の具合は如何ですか?」

 うーむ、元の体のこの子の人生は尊重したい。しかし、俺は自分の生き方しか知らないので困った……ええい、何か問題があったらその時考えよう!

「元気だぜ!」

 体に不調は感じていなかったので、笑顔でサムズアップして答えた。

「!!?」

 メイドはびっくりして猫のように飛び上がった。

 まずかったか……?

「お、お嬢様、今なんと……」

「体に問題はないぜ!」

 腕をぐるぐる回してみる。

「ご、ご、ご主人様ーーーー!」

 メイドは血相を変えて部屋を出ていった。俺は苦笑いをしながら、深く息を吐くのだった。





 月日は流れ、わたくしは16歳となりました。

 改めて、この世界での私の名前は……

「フレイ・フラム・マクスペリオンと申します。

 どうぞ宜しくお願い致します」





 俺が私になって10年。

 意識が目覚めた時の俺は6歳で、そこから現在に至るまでに、色んな事がありました。

 最初の頃は女性の体と振る舞いに慣れず、両親やメイドさん達人間関係にも齟齬があり苦労をしましたが、生きていくうちにこの世界で私が生きてきた事を思い出し、なんとかやってこれました。

 私の属するマクスペリオン家はこの世界の3大陸の一つ、エクサダイン大陸、エクサダイオス王国の統治する片田舎の町の辺境伯の家であり、言ってしまえば田舎貴族でした。

 そこそこ良い暮らしができており、両親共々人柄が優しく良い人達でした。

 数人のメイドさんに囲まれ、優しい両親に育てられ。私は順調にこの世界に馴染む事ができていました。

 そんな折、両親から提案を頂いたのです。


「フレイ。首都に行きなさい。そこで君の力を存分に発揮するんだ」

 幼少の頃から魔力や体力に自信があったわたくしは、その能力をメキメキと伸ばし、この町では並ぶ者なし町の名物令嬢となっておりました。

 そんな私を見かねた父は、私の才能を活かす場として首都にある貴族学校、セレブレスティアラ学園への推薦を出してくれたのです。

 穏やかで時に厳しく、真面目な父の熱意を感じました。

「あなたは私達の大切な子。だからこそ、あなたの輝かしい未来はあなた自身でつかみ取って欲しいのです。」

 優しくそして誇り高い母の愛情は、私に首都に行く勇気と決意を抱かせてくれました。


 そうして16歳の誕生日を経て、高等部一年の折にこのセレブレスティアラ学園に編入させて頂いたのです。

 両親の期待、街の皆の応援…そしてなにより、この世界で俺が、いや私が、何の為に生まれ何をすべきなのか。 それを確かめる為に!

 この学園から、上り詰める…王国一、大陸一の貴族に、魔法使いに、お嬢様に!

 なって! みせますわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!




「オーッホッホッホ…」

 セレブレスティアラ学園高等部、その入学式、学舎へ向かう並木道。フレイの高笑いが響いていた。

 金髪縦ロールの青と白を基調としたセレブスティアラ学園高等部1年生制服を着たその少女は周囲の目線を集め騒めかせるには十分であった。

「何なのこの人…」「この人が噂の…?」

「お上りが偉そうに…」

 困惑する者、不愉快で腹を立てる者。反応はそれぞれである。

 

 ひとしきり笑い終わった後、気を取り直して並木道をきびきびと歩き出すフレイ。しばらく歩いて行くと道を阻まれた。

「…おどきになさって?」

「そうはいかないわ。」

「このセレブレスティアラ学園は王国でも選りすぐりのエリートが集う、入学しただけである程度の貴族地位の確立される優秀校!」

「貴方のようなお上りさんが踏み入れていい所ではあーりませんわ!」

 どうやら彼女らはフレイを侮り認めていないらしい。どうしたものかと考えていた。


 そこに、目に映るものがあった。


 自分と同じ制服。おそらく同じ新1年生であろう少女がその場にうずくまっている。 

 その姿は土埃で汚れ、背中には蹴り跡が付いている。髪を纏めている花の飾りが泥に汚れていた。

 それを見たフレイは。

「あなた!」

 瞬時にその少女の元へ駆け寄る。

「大丈夫ですか? 怪我はなくって?」

 フレイは心配し少女を抱き起こす。

「あ、ありがとうございます…」

 少女は伏せた目で応える。フレイは胸元を一瞥して名前を確認し。

「ヒカリ・アースクエアさん、ですね。

 ほら、コサージュと花飾りが汚れていますわよ」

 フレイはそう言って自身のポケットからハンカチを取り出し、ヒカリの汚れを落としにかかる。

「え、そ、そんな…!?」

「まあ、なんてこと!」

「知らないんですの!? その方は平民の出の者なのですよ!」

「おまけに所作振る舞いも貴族らし差の欠片無し!この学園に入学する資格はありませんわ!」

 立ちはだかってきた学生達は口々に言葉を投げかける。

「……」

 ヒカリは悲しそうに目を伏せ、表情を憂いで陰らせていく。


 それを照らしたのは。


「黙りなさい!」

 花も散るのを止めるような、熱き声であった。

「な、何を…」

「私、貴方々の事もこの方の事も学園の事も、まだ殆ど存じてあげておりません、所詮田舎上がりですか、。

 しかし、人の優しさくらいはわかるつもりですわ」

「優しさ?」

「彼女はこれだけされても貴方々に何か反撃をしましたか? してないでしょうね、この汚れ方の差を見れば!

 反撃をすれば、入学式に水を開ける事になります…それだけではありません!」

 フレイはヒカリのうずくまっている先を指さす。そこには一輪の花が咲いていた。

「たった一輪の花の為に、自身の名誉と体を盾にしても守り通す勇気と優しさ! これを貴族の淑女の人間の! 誇りと取らずなんとしますか! それを地位だの出身だので何だのと……恥を知りませんか!!」

 ぴしゃりと言い放つフレイ。狼狽える輩学生達。

「行きましょう、ヒカリさん」

「え、でも……」

「良いのです。誰に何と言われようと、自分の道は、自分で決めるものです。そして自分の道である以上、自分の好きなように歩いて良いのです……」



 それは、前世の記憶。

 歌い手として活躍していた前世。

 趣味と情熱で活動していたあの頃、再生数に伸び悩み流行りの曲に手を出し、それが受け、道に迷ってしまったあの頃。

 あの頃と決別するように、フレイは視線を上げる。



「行きましょう、私達の道を。」



 転生者として、前世は捨てず持っていく。その上で生きる。覚悟と矜持を持ったその姿は。


「はい……!」

 その少女にとって、眩しく見えたのだった。



「ま、待ちなさい!」

「勝手な事ほざいて……」

「調子に乗り腐るんじゃありませんわよ!」

 その学生達は激昂していた。だから。

「はあっ!」

 魔力弾。基本的で初歩級の魔法攻撃。当たれば骨折程度の威力。輩学生3人は力を合わせ合体させたそれをフレイに撃った。

「危ない!!」

 ヒカリが叫ぶ。しかし!



 ギ

 ガ 

 ッ

 ッ

 !



 フレイはその魔力弾を、炎を纏う足で蹴り返した!

「なっ……」

「ひえっ……」

「がっ……」

 絶句する輩学生3人。

 しばらくすると、周囲がざわめきだす。何だ何かと。 

 それを終わらせるように、フレイは。

「それでは、ごきげんよう。」

 謹んで一言、言い渡したのだった。







 ─フレイ・フラム・マクスペリオンは転生者である─


「ところでヒカリさん、良ければ私とお友達になっってくださらない?」

「えっ!? も、もちろん!」


 ─これは速海 勇雄として死に、新たな生を受けた彼/彼女が、この世界で─


「へえ、あれが……」

「フフフ……」


 ─熱く燃え光り輝き、生きていく物語である!─


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