ep4 バスケ部エースの恋煩い②

 ボールがあずま中学に渡ると、英至えいじ中学のパワーのある選手が奪い返す。

 咲乃はボールを受け取ると、そのまま流れるように投げた。ボールは、大きな放物線アーチを描く。リングに吸い込まれるように、ゴールポストに入った。

 キャッチアンドシュートからのスリーポイントシュートが決まり、客席から黄色い声が上がる。今日の観客は女子が多い。普段の練習試合ならば、ここまで観客はないのだが、篠原咲乃が試合に参加するという話を聞きつけて応援に来たのだ。


 部長が東中からボールを奪い、ゴールポストへ向けてシュートする。しかし、東中のガードの手によって跳ね返ったボールは、反対側へ飛んでいく。神谷と東中の選手の手が同時に伸びる。掴むようにして神谷が取ると、前から来る東中のディフェンスを軽々とかわし、隙を縫って英至中の選手へパスを回した。

 英至中のパスが続く。その先は咲乃へ――が、阻むようにして東中に奪われた。東中の伸びるようなボールパスが続き、背の高い選手が、ボールを流し入れるようにゴール。東中の観客席から歓声が沸き起こった。


 タイムは残り3分。スローインから再び、ゲームが再開される。東中のボールパスを、咲乃が奪う。前に立ちふさがるディフェンスにフェイントをかけて抜ける。シュート。ガゴンと音がして、ボールがゴールリングの淵をなぞるように入った。

 タイムアップ、ホイッスルの盛大な音が鳴り響く。


 最終試合第4クオーター。ここまでトータル43対43の同点で来ている。2分間の休憩インターバル中、水分補給する咲乃に神谷は近づき、耳打ちするように言った。


「篠原。正直おまえは、一番のシューターだ。東中むこうがわも、おまえのガードをより強めてくる。面倒な奴につけられたら、どこでもいいから投げろ。パスを渡そうなんて考えなくていい」


 咲乃が静かにうなずくと、神谷は咲乃の背中を軽くたたいて離れた。



 開戦を告げるホイッスルが鳴る。栄至中がジャンプボールを取る。そのままドライブしてボールをゴールポストまで運ぶ。

 部長にパス。部長がゴールへシュート。しかし、惜しくもボールはバックボードに跳ね返ると、東中がそのボールを取った。

 東中のパスが続く。英至中のゴールポストへ向かうボールを、咲乃が奪い返した。

 咲乃は自陣のゴールポストから離れると、仲間の位置を目測で確認する。しかし、パスを渡そうにも、先程から東中の選手にぴったりマークされていて隙がない。咲乃が動くと、相手選手が投げにくい位置に移動する。動きは完全に読まれている。


 無理にでも仲間にパスを渡すべきか。いや、東中に取られる確率の方が高い。移動すればするだけ、時間のロスになる。しかしここからでは、シュートを打てる距離でもない。


「篠原!」


 神谷の方を見ると、僅かに笑ったのを見た。


 ――パスを渡そうなんて考えなくていい。


 咲乃は高くボールを投げた。ボールはディフェンスの頭上を飛び越える。その先に味方の選手はいない。方向は頭になかった。


 予期せぬ方へ投げられたボールに、東側の反応が遅れた。ボールは無防備にもサイドラインに向かって飛んでいく。線を超えればアウトとなり、東中のボールだ。英至中の選手がボールを追いかける。すべての動きがスローモーションに切り替わる。あと少し、ラインを抜ける。ラインを抜ける。

 その時、神谷がギリギリでボール取った。


 けたたましく上がる歓声。咲乃がボールを投げる時、誰よりも神谷は先に動いていた。咲乃がボールを放る方向を見極めて回り込むと、サイドラインを出るギリギリでボールを取ったのだ。


 神谷はドライブしてボールを運びながら、素早く仲間にパスを回した。繋いだパスの先は部長へ。部長は、ボールをキャッチすると高く跳躍し、バスケットゴールへ叩き入れるようにシュートした。盛大な歓声とともに、ホイッスルが鳴り響いた。


 その後、4試合フォークオーターを終え、62対61という得点差で栄至中学校の勝利に終わった。

 喜びに沸く歓声に包まれながら、咲乃は揉みくちゃにされた。チームから荒い祝福を受ける中、神谷が咲乃に近づいた。


「ありがとう、神谷。おまえのおかげで助かったよ」


 咲乃は自分が投げたボールは、神谷が必ず取るはずだとわかっていた。神谷はそれを確実にやってのけたのだ。普段は信用したくない相手だが、やる時はやってくれる。


「やっぱ、おまえを頼って正解だったわ。これを機に、バスケ部入ろーぜ」


 神谷から軽くパスされたボールを、咲乃がキャッチする。咲乃は、爽やかに笑った。


「絶対にやだ」





 試合が終わると、咲乃は急いで制服に着替えた。

 バスケの練習で、津田成海つだなるみの家へ行く機会を失って3週間が経つ。ただでさえ全く信用されていないのに、これでは余計に不信感を持たれてしまう。

 これから打ち上げだという部員達の誘いを断って、咲乃は昇降口を出た。外では予報になかった雨が勢いよく降っている。こんな時についてない。

 咲乃はカバンを頭上に掲げると、雨の中を飛び出した。


*★*―――――*★*―――――*★*―――――

【神谷 亮】

https://bkumbrella.notion.site/bcf18ec4ef4644e289efc8157347ae90?pvs=4


【キャラクタープロフィール一覧】

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個人サイト

【Alanhart|THE MAGICAL ACTORS】

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