fast nebula(仮)

平山美琴

だからあれ程詐欺には気をつけろって

 噂、もしくはゴシップ。世界には星の数ほど話が漂っている。

 聞いたら嬉しくなる様な明るい話もあれば、悲しくなる暗い話もある。

 面白い噂話があったら調べたくなるのが記者の宿命という物だろうか。


■■■


「この場所で間違いない!」


──『拝啓、リチェルカ・ムジカ様』

『如何お過ごしでしょうか。お元気でいらっしゃいますことを願っております。私は貴重なひとときを拝借し、お手紙をお届けしたく存じます』


(中略)


『さて、お手紙の趣旨に移りまして、私たちは「」という特別な場所についてお話し致します。この部屋は夢のような空間であり、願い事が叶う場所として知られております』

『この部屋は、選ばれし者に限られた機会でのみ利用することができ、そこで叶えたい願いを思い描くだけで、奇跡的にそれが実現するのです』


(中略)


『それでは、お手紙でお伝えしきれない感謝の気持ちを込めて、ご健勝をお祈り申し上げます』

『心より、感謝をこめて。』


 私はただの記者だけど、日頃の行いが良かったからカギをくれたのだろう。

 取材の協力を唱えた手紙を鞄に仕舞って、屋敷にノックをしてみた。


──コンコン、と2回。反応しないや。


 誰か来るまで、今まで行っていた取材の話をしよう。

 マァー大陸と呼ばれる謎の多い無人島を発見し、そこで見つけた木製ゾウの人工繁殖に成功した。お陰で木の資材が尽きる事は無い。


 その様な大発見よりも、レガート家が実在していた事が1番の驚きだ。亡くなった人を幽世まで運ぶ人達は絵本の中でしか存在していなかったが、役割に囚われずに自由に暮らしていたのだ。DJをやっていたり、探偵業をしていたり。社会が成長していったからこその発見なのだと締め括ったのは今も覚えている。


「もしかして、この屋敷に入る前から試されてたり……」

 何十分経っても扉が開かないので、貰った鍵を使ってドアノブを回す。

──が。ドアが引っかかって反応しない。鍵を間違えたのか?


……こんな時に使えるのが、我が新聞社の社訓だ。

『闇の中で道は開く。常識を疑え』

 節電の為に作られた謳い文句だと言われているが、私はそう思っていない。

 物は見方によって変わってくるのだから。


「この普通の鍵。持ち手が鍵穴に合うとしたら……えいっ」

 鍵穴に鍵の持ち手を入れて回す。

──カチャリと音がした後に、鍵が食べられてしまった。魔法で作られた扉なんだろう。


「お邪魔しまぁー……!」


■■■


【シルク邸 一階】


「はい、乾杯ーー…………」


 カメラを構えた私の姿と、宴会をしようとする大人数と目が合った。

 気まずい空気に襲われ何も言えず、冷や汗をかいた少年が口を開く。


「鍵掛けてたんスけど……」

 釣られて誰かが入り口に目をやるが鍵が掛かったままだ。


「敵にしては武器が無い様に見えるが」

「でも幽霊じゃないのに扉を越えるのは……うーん」

「──もしかして、ムジカ様ですか?」


 バーテンダーの少年に問われたので、そうですと答えた。

 私がカメラを下げると、席に座っていた大人数は何か思い出したかの様に喋り出す。


「入るのに認められてないのじゃろう」

「兄さんは聞いたことあるの?」

「あー……聞き覚え無いな」

「資格が必要なの? ……面倒ですわ」

「入室するのに必要な契約をしてないのかもしれないわ!」


 私の事を無視して話を続ける。入るのに何か条件が必要なんだ、と希望が見えると……バーテンダー含む8名が私を囲い込んで契約書を持つ。


「俺ら全員が負けを認めたらメリールームに入る為の扉を開こう。ムジカだったか? 魔法もまともに使えなさそうなお前さんが楽に勝てる訳無いと思うが……」

「は、はい……」


 押しに弱い性分しょうぶんだったのを忘れていた。

「乾杯!」とグラスを鳴らすと、全員は霧の様にどこかに消えてしまう。


「あ、あぁぁ……どうしましょう名前も聞いていません……」

「リチェルカ、そのどうしようもない顔見せてると思ったら面白そうな事になってるな!」

「ネスターざんン……! 取材の為に契約しちゃったよ、どうしよう」

「何とかなるだろ。一人一人見つけて倒せばいいんだろ!」

 

 強気に喋っているこのヴィジュアル系陰陽師は、私の先祖リチェルカ・ネスターだ。降霊術を練習してたら、ギター片手にボロボロの狩衣かりぎぬを羽織って出てきた。私が弱っている時にだけ手を貸してくれるちょっとやんちゃな陰陽師。


「でも私、魔法とか一ミリもわがらない……」

「呪術を使って私を降霊させたのは誰だったっけ?」

「あれはたまたまです。強そうな方々に負けを認めさせる程の力なんて……」

「まぁ、戦闘面は任せな。まずは情報収取だ!」


 一度新聞社に戻って集めに行こうとネスターは言う。

 もしかしたらとっても優しくてあっさりと負けを認めてくれる人達かもしれないし……よし、そう考えると取材が出来そうな気がしてきたぞ。

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