プロローグ
「もう一度みんなに改めて申し上げますね」
レーグラッド
そんな彼女が当主代理人であるレーグラッド男爵邸に、もうすぐ「立て直し公」がやって来る。彼女は使用人たちに「立て直し公に何かを聞かれたら」と考えて、念には念を入れようとしているところだった。
(この国では、女性が領地経営に
こほん、と小さくわざとらしく
「わたしは領民の生活に興味があったので、立て直しのために
そうフィーナが言えば、使用人たちは、
「はい! お
と、教え込まれた文言を復唱する。チームワークは良いが、みな苦々しい表情だ。いや、みなそろって苦々しい表情なら、チームワーク「が」良いので、と言うべきか。
「はい。もうひとつ。わたしが『立て直し公』が立て直した領地を訪問していたとバレたら、それは、領地の
「はい! 領地の惨状にお心を痛めたお嬢様のため、
「はい。最後。お父様がお亡くなりになって一ヶ月、ここまで領地運営がなんとかなったのは、お父様が前もって数ヶ月先までの領地改革計画書を作ってくださったからです!」
「はい! ご主人様がお亡くなりになってから『領地運営を知らぬお嬢様が代理人』でもなんとかなっていたのは、ご主人様が領地改革計画書をご用意なさっていたからです!」
「
「お嬢様、失礼ながら発言の許可をいただきましても」
「はい、カーク」
「正直にバラしてもいいんじゃないでしょうか。もともと領地運営にお嬢様がだいぶ
「
彼女が言いたいその「何やら」は、貴族女性に求めるものについてのことだ。そんなもの、くそくらえだけど。とフィーナは心の中で
「だから、わたしが領地運営に首を
今だってないのに。言って自分も傷つく言葉だが、使用人もみな「うう」と悲しげだ。彼女はいよいよ相手探しが難しい
「お嬢様」
「はい、ローラ」
「お嬢様が心を患っていらした設定は、なかなか無理があるように思われますが……」
「そこはわたしが善処します。今日からわたしは
言っていて
「それは無理だと思いますよ」
「人には内面から
「だって、
と
「とにかく。午後には立て直し公、
そう。彼らにはもう時間がなかった。ハルミット公爵ことレオナールがフィーナに関する会話を護衛騎士としていてもおかしくないからだ。
「わたしが領地運営をしていることがバレて、レーグラッド男爵令嬢はとうが立っている上に変わり者だという心無い噂を立てられることは困るわ。多少はお金に
それは心無い噂ではなくただの真実なのだが……と使用人たちは心の中で突っ込む。だが、そこは
「お嬢様。正門が開きました。ご到着のようですよ」
ララミーに呼ばれて部屋を出たフィーナは、
「ね、お母様が新しく編んで下さったこのレース
「ええ、大丈夫ですよ。よくお似合いです」
「昔からの伝統的な形だし、おかしくないわよね」
おかしいと言われたとしても、もう
確かにフィーナのドレスは上質な
もとより派手なドレスは得意ではないが、今日の彼女は「令嬢」として彼らに会うのではなく当主代理人として会うのだ。よって、格にあった品さえ保てば
「大丈夫ですよ。お嬢様はご自分が思っていらっしゃるより、ずっとお美しいですから!」
「お見合いじゃないのよ?」
少しばかり
(お見合いの方が緊張しないかもしれないわ)
高鳴る
小国であるシャーロ王国は、どうしようもない戦争を三年続けて国民を
そんな中で「立て直し公」と呼ばれるハルミット公爵は、国王の命により各地に飛び、領地の立て直しを行っては三ヶ月で次の立て直し先へと移動……を二年半
この二年間、彼女はレーグラッド領を立て直すため「立て直し公は何を見てどう判断したのだろう」と彼の思考の
最初は何がなんだかわからないことだらけだった。
フィーナが視察で見たものは、彼が立て直し以降見ていない「その後」だ。そこには、彼の正しさを立証するものが息づいていると思えた。領地に生きている人々の生活が彼の
(本当は聞きたいことがありすぎて……コルト
口を開けたらそれらすべてが
「お
「申し上げます。ハルミット公爵以下ご同行者二名をお連れいたしました」
「ご苦労様。すぐに入っていただいて」
「はっ」
騎士団長が合図を送ると、外で待機をしていた護衛騎士の「どうぞ、お入りください」という声が聞こえる。すぐに、
「レオナール・ティッセル・ハルミットと以下二名、国王陛下の命により参った」
その物言いはいくらか雑だ。正式な名乗りであれば、彼の場合は第八代ハルミット公爵、レオナール・ティッセル・ハルミット。これが正しい。が、こちらは男爵、しかも現在は非公認の代理人であるし「それぐらいは当然だ」と特にフィーナは気にしない。
使用人たちはほんの
((((顔がいい……!))))
そこには、とんでもなく顔がいい「立て直し公」が立っていた。誰もが口に出さずとも同じことを脳内で思う。が、
(なんてこと……あんなにも仕事が出来るのに、その上お顔もいいなんて、天はわたしに
心の中で頭を抱えて「神様は不公平だわ」と
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