016 洞窟

 食事が終わると洞窟に向かった。

 女性陣から「ようやくか!」との声が聞こえる。


 道中では作りたての土器に果物を詰めた。

 土器に食料という組み合わせは絵になる。

 縄文時代にタイムスリップしたような気分を味わえた。


 そんなこんなで新たな拠点となる洞窟に到着だ。


「もう歩きたくなーい!」


 千夏は洞窟に入ってすぐの所に腰を下ろした。

 三角形の土器を大事そうに抱いている。

 他の皆と違って中に入っているのは川の水だ。

 形状の都合でそれが一番マシだと判断した。


「お疲れ様、皆も千夏の傍で休んでいてくれ」


「海斗はどうするの? 洞窟の確認?」


 麻里奈が尋ねてきた。


「よく分かっているじゃないか。だが、その前にカナリアの捕獲だ」


 四人は「カナリア?」と首を傾げた。

 それから明日花が言う。


「それって小鳥のカナリア?」


「そうだ」


 近くにカナリアが生息していることは分かっている。

 可愛らしくもうるさいさえずりが響いているからだ。


「おいおい、カナリアなんかじゃお腹は膨らまないぞー」


 食べる前提の千夏に、俺は「違うよ」と笑った。


「カナリアは食うんじゃなくて洞窟を調べるのに使うんだ」


「どゆこと?」


「奴等は四六時中ピーピー鳴いているけど、大気に異常があったらピタリと泣き止む。その習性を利用して、40年くらい前までは探鉱にカナリアを同行させて異常を検知させていたんだ。毒ガスが出ていれば人より先に気づくからな」


 いわば天然の検知器である。


「すご! カナリアにそんな力があったんだ!」


「でも大丈夫じゃないの? 兵藤たちが洞窟で過ごしていたわけだし」


 麻里奈が言った。


「俺もそう思うけど念のためにな。例えば直ちに悪影響を与える程ではない微量の毒が出ているかもしれない」


「なるほどね!」


 俺は荷物を置いてカナリアの捕獲に向かった。


 ◇


 カナリアは警戒心が殆どない。

 それは絶え間なく鳴いていることからも分かる。


 加えて人に懐きやすい生き物だ。

 慎重に餌をあげていれば――。


「この通りだ」


「すご! 海斗君の体にカナリアがたくさん!」


「フフフ」


 俺は5匹のカナリアを従えて帰還した。

 両肩に2匹ずつ、さらに頭にも1匹。

 奴等は俺を「動く止まり木」と思っている。

 親友、マブダチ、ズッ友、BFFだ。


「「「ピッピー! ピー!」」」


 カナリアは上機嫌でさえずっている。

 うるさいのでさっさと済ませよう。


「では行ってくる」


「待って! 私たちも行くー!」


 ということで、皆で洞窟の奥に向かう。

 中は緩やかな下り勾配になっていて、しばらく直線が続いた。

 それが終わると円形の広い空間に到着。


「肌寒いな」


「ガンガンに強めたエアコンって感じ!」と千夏。


 的確な表現だ。

 広間の気温はおそらく20度そこら。

 外より10度は低い。


「「「ピー! ピー!」」」


 カナリアは相変わらず鳴いている。


「問題ないみたいね」


 吉乃が安堵の笑みを浮かべた。


「そのようだ」


 広間の中を歩き回る。

 かなりの広さで、兵藤たちのグループを収容できたのも頷けた。


「地面は岩肌で硬いが、凹凸が少なく平坦なので過ごしやすそうだな」


「敷き布団があれば……って感じかな?」


 吉乃の言葉に、「だな」と頷いた。


「それにしてもなんか明るくない? この広間!」


 天井を見上げる麻里奈。

 出入口付近と違い、天井までの高さは3メートル近くある。

 縦にも横にも広いため、洞窟内にもかかわらず解放感がすごかった。


「それは俺も気になっていたんだ。不思議な場所だよな」


 広間は外の光が入らないほど奥にある。

 にもかかわらず、常夜灯――豆電球のこと――を点灯させている時と同じくらいの明るさが確保されていた。


 光は天井付近の壁から差し込んでいるようだ。

 一カ所からではなく、複数の場所からやんわりと。


「完全に真っ暗だと都合が悪いしちょうどいいな」


 それが俺たちの感想だった。


「さて、そろそろうるさいピー助たちを放ってくるよ」


 皆が承諾する。

 ――と思いきや、明日花が「えー」と嫌がった。


「すごく可愛いよ? 飼おうよぉ」


「糞尿を撒き散らされても困るし、うるさいからそれはないなぁ。気に入ったのなら暇な時にでも会いに行けばいいよ。エサをやりゃ簡単に触れ合える」


「分かったぁ」


 明日花は承諾するも、何だか不満そうだ。

 唇を尖らし、頬をぷくっと膨らませ、顔をぷいっと背けた。

 そういう態度を取られると、つい折れてしまいそうになる。

 子供にねだられてペットを迎える親の気持ちが理解できた。


「あ、そうだ」


 広間をあとにしようとしたところで思い出す。


「皆もついてきてくれ。最後の作業が残っていた」


「もう歩き回るのはごめんだぞー?」


 などと言いつつ、千夏は真っ先に近づいてきた。


「安心しろ。洞窟の前に排水路を設けるだけだ」


「排水路だぁ?」


「雨水が中に流れ込まないよう出入口に土を盛って小さな土手を作る。あと、土手の外側に溝を掘っておく」


 ここで過ごすなら雨天対策は怠れない。

 広間が出入口よりも低い位置にあるからだ。

 未対策だと水浸しになりかねない。


「そういうことなら頑張ってやるかぁ!」


 千夏が言うと、カナリアたちが「ピー!」と鳴いた。


 かくして俺たちは全員で雨天対策を実行。

 1時間ほど費やし、多少の大雨には耐えられそうな環境を構築した。

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