第31話 遭遇戦



 次の日。辺りがまだ暗い中、討伐隊は、魔族の拠点を目指して進んだ。



 先頭を進むのは、勇者一党と祐介で、その後を黄金等級の冒険者たち、さらに後ろを雑多な兵士たちがついてきていた。



 小一時間ほど進み、祐介があることに気づいて、手を挙げ、行軍を止めるようにうながした。



「魔族の探知圏内に入った」



 祐介は背後にいる者たちへ警告を発した。全員が身構えるのが、見なくてもわかった。



 そして少しまた進むと、前方に無数の大小様々な影が立っているのが見えた。



 ゴブリン、オーク、オーガなどの、混成軍だ。どうやら、魔族側は野戦決戦を選んだようだ。



「ボサっとするな! 横陣おうじんを組め! 踏み潰されるぞ!」



 祐介はで、兵士たちに指示を飛ばした。



 しかし、この距離では、陣形が整うより先に、敵が来てしまう。事実、



「一匹でも多く仕留めるぞ!」



 祐介は雄叫びのような叫び声をあげて、人間とは思えないような脚力で、魔物の軍勢へと突撃していった。



 背後から続く、冒険者たちの気配を感じたが、確認している暇はない。



 祐介は短剣に、強い魔力を込めて、短剣を上から下へと振るった。



 斬撃の衝撃波が地面を砕き、真っ赤な斬撃の衝撃波が魔物の軍勢へと迫った。



 無数の魔物が、直撃すれば消し飛び、衝撃波で空高く舞い上がって落下した。



 他にも、冒険者たちが次々と攻撃を加えていく。斬撃が飛び、魔法が飛ぶ。勇者一党の攻撃は、特に苛烈かれつを極め、魔物の軍勢の一部を消し飛ばした。



 魔物の魔法使いが、ここでやっと、魔法の防壁をはりはじめた。さらに魔力が込められた矢玉や魔法が、放たれて人の軍勢へと向かってきた。



 かなり強い魔法がかけられているのは、明らかだった。そらすことは難しい。



「防壁をはります!」



 マリアがそう言って、錫杖を掲げると、強力な半透明の防壁が、矢玉や魔法を受け止めて防いだ。



 祐介はその間に駆け出し、魔物の軍勢へと突っ込んだ。次々と雑多魔物を切り、突き、時には殴り、蹴り殺した。



 オーガやオークが、祐介を止めようと近づくが、無駄だった。強い魔力をまとった攻撃に、オーガやオークは多少抵抗するのが精一杯だった。次々と、地面に倒れていった。



 エリスとジェニファーの前に立ち塞がった魔物たちも、同じく悲惨な末路を辿った。何が起きたのかもわからず、次々と切り裂かれ、肉片となって辺りに転がることになった。



 魔物の軍勢は、潰走かいそうするかのように逃げていく。追撃しようと、冒険者や兵士が動こうとしたが、



「深追いするな! 偽装退却だ!」



 続いてアーノルドの声が辺りに響いた。





 冒険者と兵士たちは、その場で止まった。



 明らかに敵が弱すぎる、というのが祐介の考えだった。魔族が四匹、わざわざ引き連れている魔物だ。



 魔物をするぐらいはするはずだ。



 魔物の上位種のような存在も見当たらなかった。歴戦の魔物もいなかった。



 偽装退却なのかは、わからない。ただ、深追いするのは危険すぎると祐介は考えていた。



 緊急で軍議が開かれた。アーノルドを中心に、冒険者や実力者たちが集まり、参加した。



「斥候を放ち、敵情を確認する必要がある」



 アーノルドが険しい顔をして、さらに続けて言った。



「だが、一般の兵ではダメだ。気づかれる可能性が高すぎる。何より、魔法をかけられ、虚偽きょぎの情報を流される可能性もある」



「それなら、俺が行こう」



 アーノルドの言葉に、祐介は真っ先に名乗りをあげた。



「確かに、君ならできそうだが……



 祐介は消耗していい兵力ではない、とアーノルドは言外に言っていた。



「俺なら見つかっても、逃げ切れる」



 祐介は珍しく鋭い目付きで、アーノルドや他の面々を見ていた。



「俺はそれでいいと思います。あの場で、誰よりもこいつは速く動けてた」



 名前も知らない騎士らしき男が、賛成の意思を表明した。あの場、というのは、先程の遭遇戦の事だろう。



 他の人たちも、頷いていた。ただ、



「賛成多数か。わかった。祐介、お前に斥候の任務を与える。緊急時には、知らせを飛ばせ。狼煙でも魔法でも構わん。早急に兵たちを動けるようにはしておく」



 アーノルドが祐介の肩に手を置いた。祐介は目礼もくれいし、アーノルドが手を離すと同時に動き始めた。





 勇者一党は、馬のように速く走る祐介の背中を見送った。



 本当に祐介に、斥候を任せて良かったのか。そんな疑問が、何故か勇者一党の脳裏にこびり付いていた。



 。彼なら、バレずに見事帰還するかもしれない。例え見つかっても、うまく逃げれるかもしれない。



 純粋に心配なのか、それとも、何か悪い虫の知らせか、それは今はわからない。



「いつでも動けるように、準備しておけ!」



 アーノルドの叫び声があたりに響き渡る。とにかく、今は無事を祈るしかない。

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