運命の人のために婚約破棄したのに、そんな言い方は良くないと引かれて捨てられた不憫な王子様。なんだか可哀想なので私が慰めてあげようと思います。
待鳥園子
第1話「不憫は良いぞ」
ざざっと打ち上がる高い波の音が響いた。
ここは、高い城壁の上……戦いの際に攻略する難易度を上げるためか、険しい崖上に建てられた王城では、この時間美しい夕陽が見えている。
物憂げな様子で城壁にもたれ、見張り用の穴から海に落ちる夕日を覗いている彼はエトランド王国世継ぎの王太子でロシュ殿下。
あれが、私がここに来た目的の人だ。
麗しく整った顔立ちと金髪碧眼で、王子とはかくあるべきと言わんばかりな絵に描いたような正統派の王子様だ。
彼は手痛い失恋の後で、私はそんな彼に一言でも慰めの言葉をかけたかった。
だって……ロシュ殿下の現状はあまりにも、可哀想だもの。
「あのっ……ロシュ殿下、元気出してください! きっと、良いことありますよ!」
いかにも仕事終わりなメイド服姿の私が彼に声を掛ければ、彼は驚いてこちらを見るとわかりやすく顔を顰めた。
彼の自尊心を傷つけてしまったのかもしれない。けど、彼を少しでも慰めたかったし、こうして言えて良かった。
「慰めの言葉を、ありがとう……だがお前も、俺のことを馬鹿だと思ってるんだろ?」
鋭い眼光を放つ青い目で見つめられ、私は両手を振って逃げ出したくなった。
「そそそ、そんなこと、思って……ないですよ?」
「嘘が下手なんだ。なんだ。その言い方は。目だって泳いでるし……絶対に俺を馬鹿な男だと思っている。演技は下手で見ているだけで、心の中が伝わる……悔しい。恥ずかしい……死にたい。全部一からやり直したい……」
「待ってください! 私はロシュ殿下のこと、馬鹿だなんて……思ってないです!」
とてつもなく不憫で、とてもとても可哀想だとは思っていますが!
「では、失恋したから、可哀想か? 俺が一人取り残され、哀れだと?」
自嘲するようなロシュ殿下の笑みを見て、私は自分がやっちゃったかもしれないという現状を把握した。
うわー……この落ち込みようは、私の思っていたよりひどいかも。
あの失恋は、やっぱりそれほどに大ショックだったんだ……そりゃ、そうだよね。
異世界から現れた聖女様が俺の運命の人だって……あれほど彼女と一緒に居ると、恥ずかしげもなくこの人は公言してたもんね。
彼女との愛を貫くために、幼い頃から婚約していた公爵令嬢と婚約破棄したというのに、「いくら私に嫌がらせしていたとは言え、女性にそんな言い方をする人とは一緒に居たくないです」ってドン引きされて……衆人環視の中あっさり振られちゃったなんて。
そうだよ……いくら形的には親の決めた婚約者と二股掛けているみたいになっていたとしても、それは可哀想でしょう。
しかも、なんとなく女の勘でわかっているんだけど、あの異世界転移してきた聖女様はきっとこの人の近衛騎士狙いだったんだよね。
今ではもう……あっちとよろしくしてるらしいし、けど別れた後にすぐに誰と付き合っても彼女の自由だし。
この王子様から完全に運命の人認定されていたし、早々に彼を振りたいから何らかの落ち度になる理由を探していたと思う。
けど……この人は、そんなこずるい聖女様が本当に好きだったんだと思う。
なんて不憫なの……可哀想過ぎて、胸がキュンとしちゃう。前世から、不憫萌えなんだよね。
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