第40話 約束

 翌日には、正式にプレン様が皇帝の地位を継ぐことが発表された。そしてカルティエ様が幽閉されることも。


 小説と同じように、アテナ様を拐った犯人たち、シャガの人たちは牢に入れられた。

もちろんロンは殺人罪、そして大臣は教唆の罪として捕らえられた。これから正当な裁きを受けることになるだろう。


「これは特等席ね」

「うむ。アテナの美しい姿も近くで見られるしな」


 今日はプレン様とアテナ様が正式に結婚することを国民に発表する日である。


 既に城の周りは祝福する国民たちによって囲まれていた。

私たちはというと城の中の2人のすぐ近くでその時を今か今か待ちわびている。


「おっ、アテナ嬢が来たぜ」


 アテナ様が準備を終えたということで私たちの元へとやってきた。

まるで女神のような美しさだ。


「アテナ! とても綺麗だぞ」

「ありがとうヴィアちゃん。そして皆様。改めてお礼を言わせてください」

「気にしないで。うん、オレたちも頑張ったかいがあるってもんだ。幸せになれよ」

「お前なら大丈夫だ」


 精霊たちが各々祝福の言葉をかける。

 精霊から祝われるって滅多にないことだよなぁ。


「アテナ様、この度は本当におめでとうございます」

「ありがとうルーシェちゃん。あなたがいなかったら本当のことを知ることができなかった」


 アテナ様は幸せそうに笑っている。

あぁ、アウラさんの言っていた通り、頑張ってよかった。


 ルリにとっては満足できる話か分からないけれど、少なくとも私は満足している。


「さぁ、そろそろ時間だ」

「はい!」


 プレン様とアテナ様による国民への挨拶は無事に終わった。


ここに新たな皇帝とその妻が誕生した。



「ルーシェちゃん。ちょっといいかな?」


 夜。私はプレン様に呼び出されたため、城の地下に来ていた。


 ミシェルも一緒にいる。元々彼女はこの城にいたため私の案内役としているそうだ。


「君たちのことだからカルティエの様子が気になるんじゃないかとね」

「会えることは嬉しいですが、私はあなたを裏切った罪人でもありますよ?」


 ミシェルの問いに

「だけどカルティエを裏切るようなことはしないだろう? それは君が信頼するに値する人間だということなんだ」

と微笑みながらプレン様は歩き続ける。


 今いる地下から更に地下に続く階段を降りていく。

地下1階にいたが地下2階に移動するようだ。


「どうした。やっぱり処刑する気になったのか」

「そんなわけないだろう。君のことを心配している人たちを連れてきたよ」


 カルティエ様は1人で牢に入れられていた。牢といっても王族用の牢のためか、ちょっとした部屋のようになっている。生活に必要なものは1通り揃っていた。


「ルーシェにミシェルか。私のことを気にする必要などない。帰れ」

「今更そっけない態度をとっても無駄ですよ。本当に心配したのですから」

「私も同じです! カルティエ様のことが心配に決まっているでしょう!?」


 ミシェルは泣きながら叫ぶ。カルティエ様は罪悪感を感じているようで黙ってしまった。


「明日の朝、君をソレイユ城に戻す。そして、幽閉生活を送ってもらう」

「部下たちには処刑にしろと言われているだろ」

「これは私のわがままだ。兄として、1人の人間として君に生きてほしい」

「……」


 プレン様は嘘ではなく本音を言っている。

今の彼らは秘密も本音を知っている。

カルティエ様の願いも、プレン様の願いも。


「君が今生きる理由を持っていないのだとしたら、私のために生きてほしい。君が幽閉の期間を終えて罪を償った後、私の元でこの国のために働いてもらいたい」

「はぁ……相変わらず人使いが荒いな兄さんは」


 カルティエ様は諦めたように笑っていた。


「分かった。たが幽閉が終わった後、お前が皇帝にふさわしくないと思ったら……私がその地位を奪うからな」

「そうならないように頑張るよ」


 カルティエ様が私たちの方を見る。最初に出会った感情のない目ではなく、とても生き生きとした瞳だった。


「ミシェル。お前たちには感謝している。城にまで連れてきてしまって本当にすまなかった」

「謝らないでカルティエ様。ミシェルは最後までお供いたします」

「他のやつらも自由にしたいのだがな」

「自由になっても私たちがすることは変わりません。あなたに仕えることです」


 ミシェルはカルティエ様の手を握り優しく笑う。きっと彼女はその気持ちを隠し通すつもりなのだろう。

これが彼女の愛であり献身。


「ルーシェ。迷惑をかけたな。ヴィアたちにも伝えておいてくれ」

「私は迷惑と思ったことはないですよ。またいつか、会いましょう」

「あぁ。約束しよう」


 

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